フマル酸ジメチルのGCMS分析例について
「フマル酸ジメチルのGCMS分析例について」
フマル酸ジメチル(Dimethylfumarate)1)は,皮革製品や建材などの防かび剤として使用されますが,皮膚に触れると難治性の皮膚炎を引き起こすことが知られています。
EUのある国で作られた輸入家具を購入した方の間で皮膚炎の発症事例が多発し,その原因がその輸入家具内に入れられていた「小袋入りのフマル酸ジメチル」によるものであることが判明したことをきっかけに,このフマル酸ジメチルに関するEU規制が3月17日付けのEU官報で交付され,5月1日から施行されました(2009/251/EC)。 これにより,今後フマル酸ジメチルを含む製品2)のEU内での販売が禁止となりました。 乾燥剤として広く使用されるシリカゲルにもこのフマル酸ジメチルが使用される場合があり,イタリアではシリカゲル同梱製品に対しフマル酸ジメチル非含有(0.1mg/kg以下であること)の証明がないと通関指し止めになるなどのトラブルも生じているようです。
日本国内ではまだ,フマル酸ジメチルの使用制限など動きはないようですが分析方法に関心が寄せられています。 フマル酸ジメチル標準溶液およびシリカゲルのトルエン抽出液をGCMS-QP2010Plusで分析した例をご紹介します。 ちなみに,「2009/251/EC」には分析方法は提示されていませんが,定量下限(Methods Qualification Limit;MQL)は0.1mg/kg以下であるべきと記載されています。
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1): | フマル酸ジメチル(Dimethylfumarate)は,DMFと略されることがあります。但し、DMFはN,N-Dimethylformamideを指すこともあります。 |
2): | 小袋に入ったフマル酸ジメチルを含む製品や,製品または製品の一部にフマル酸ジメチルが0.1mg/kg以上含まれるもの |
参考:EU規制(2009/251/EC)

図1 フマル酸ジメチルの構造式と物性

図2 フマル酸ジメチル(試薬)
1.フマル酸ジメチル標準溶液の分析
フマル酸ジメチルをトルエンにて溶解し,調製した標準溶液(1.0mg/L)のトータルイオンクロマトグラムを図3に,マススペクトルを図4に,0.05mg/LのSIMクロマトグラムを図5に示します。

図3 1.0mg/L フマル酸ジメチル標準溶液のトータルイオンクロマトグラム

図4 フマル酸ジメチルのマススペクトル

図5 SIMクロマトグラム(0.05 mg/L)
2.シリカゲル乾燥剤抽出液の分析
現時点では抽出方法など前処理法がまだ確定していないことから,シリカゲル乾燥剤をトルエンにより振とう抽出を行いGCMSにて分析しました。 抽出液の分析結果(SIM)を図7に,抽出液にフマル酸ジメチル標準溶液を添加した添加試料(試料中濃度として0.1mg/kg,抽出溶液濃度にすると0.05mg/L,試料注入量:1μL)の分析結果(SIM)を図8に示します。 また,添加試料の繰り返し再現性を表1に示します。 シリカゲル乾燥剤抽出液からはフマル酸ジメチルは検出されませんでした(図7)。 また,図8からフマル酸ジメチルの規制値の0.1mg/kgを測定するのに十分な感度で、再現性も良好であることが認められます。

図6 シリカゲル乾燥剤
フマル酸ジメチルのGCMS分析例について
図7 抽出液のSIMクロマトグラム
図8 添加試料のSIMクロマトグラム
(試料中濃度として0.1 mg/kg相当)
定量値 (μg/L) |
|
1回目 | 0.052 |
2回目 | 0.050 |
3回目 | 0.049 |
4回目 | 0.051 |
5回目 | 0.048 |
平均 | 0.050 |
CV% | 3.3 |
表1 添加試料の再現性