脂質分析/リピドミクス
脂質は生体膜の構成成分やエネルギー貯蔵の媒体、細胞内および細胞間のシグナル伝達など、生体内で重要な役割を果たしています。
生体中の脂質は脂肪酸の長さや分岐、不飽和度、官能基や結合する化合物の種類など非常に多様性に富んでおり、分析は容易ではありません。近年、質量分析計(MS)を中心とする分析技術の進歩により、高い特異性・感度・精度で複数化合物の一斉分析が可能になり、脂質の研究が加速しています。
リピドミクスとは、生体内の脂質総体(リピドーム)を網羅的に解析することで、生命現象の理解に役立てる研究分野です。
生体内には多様な脂質が存在するため、ワイドターゲットリピドミクスを行う場合、高感度かつ高速なトリプル四重極型質量分析計がよく使用されます。また脂質の迅速なプロファイリングには、MALDI-TOF MSも有効です。
生理活性を示す脂質は脂質メディエーターと呼ばれ、炭素数20のアラキドン酸を前駆体とするエイコサノイドが代表的なものとして知られています。エイコサノイドにはプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどが含まれており、炎症反応の中心的な役割を担います。脂質メディエーター類の分析には、高感度かつダイナミックレンジの広いLC-MSが有用です。また誘導体化することで、一部のエイコサノイド類はGC-MSでも測定可能です。
遊離脂肪酸は脂質を構成する成分であり、生物にとってエネルギー代謝や栄養素として欠かせない成分です。メチル誘導体化を行うことでGC-MSで測定可能です。
リン脂質は、親水基であるリン酸基と疎水基である脂肪酸を持っており、細胞膜の構成成分やシグナル伝達分子として機能しています。リン脂質は極性基の種類と結合する脂肪酸の組み合わせにより、多様な構造が存在します。
植物の葉緑体を構成する膜脂質は、主にグリセロ糖脂質で構成されています。こちらは親水基として、リン酸の代わりに糖が結合しています。またグラム陰性菌細胞表面には、Lipid Aと呼ばれる糖脂質も存在しており、免疫活性化因子として知られています。
胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、脂質の吸収を促進する役割を持ちます。胆汁酸は多くの異性体が存在するため、LC-MSで測定する場合、最適なLC条件で異性体を分離する必要があります。
ステロイドホルモンとは、ステロイド骨格を有するホルモンであり、コレステロールから生合成されます。ステロイドホルモンは、代謝、神経伝達、細胞内シグナル伝達などの制御に大きく関与しています。
胆汁酸やステロイドは誘導体化することで、GC-MSでも測定可能です。
トリグリセリドは、エネルギーの貯蔵物質として生命の維持に不可欠です。トリグリセリドは、グリセロール骨格に脂肪酸が3つエステル結合した構造をとります。結合する脂肪酸組成や結合位置により、非常に多くの分子種が存在します。
トリグリセリドには多くの異性体が存在するため、LCやSFCでの分離が重要です。またトリグリセリドの迅速なプロファイリングには、MALDI-TOF MSも有効です。
MSイメージングとは、質量分析計を用いて生体分子や代謝物を直接組織切片上で測定し、得られた位置情報とイオン強度によって、各種生体分子の二次元分布図を画像化する技術です。
MSイメージングにより、組織切片上の脂質の局在が可視化できます。
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