メタボロミクスとリピドミクスによる複合的なオミクスアプローチ

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はじめに

大腸菌や酵母をはじめとする微生物は、食品・バイオ・エネルギーといったさまざまな産業分野において、有用物質を大量生産するために利用されています。例えば食品分野においては酒類や発酵食品を対象として、微生物の発酵プロセスが広く利用されており、より効率の良い発酵生産また付加価値の高い代謝物産生を目的とした微生物育種が行われています。このような有用物質生産の効率化あるいは高付加価値化合物の産生能向上を目的として、メタボロミクスによる代謝変動のモニタリングが求められています。代謝変動のモニタリングでは、目的物質はもちろんのこと、その前駆体・中間体を含めた代謝変動を理解する必要があるため、多くの化合物を一斉分析できるメタボロミクスのアプローチはきわめて有効であると期待されています。また本稿ではメタボロミクスによる代謝変動を評価するとともに、リン脂質を対象としたリピドミクスの結果を組み合わせることで、複合的なオミクスアプローチによる代謝変動の理解を試みています。ここでは、含硫代謝物であるエルゴチオネインを効率的に産生する大腸菌を試料として、基質となるシステイン合成に使われる硫黄源にチオ硫酸塩あるいは硫酸塩を添加した場合に、関連する含硫代謝物が培養経過に依存してどのように変動するかをメタボロミクスおよびリピドミクスによるアプローチから評価した例をご紹介します。

2017.06.05