6. 干渉に対する補正法
ICP発光分析装置(ICP)
ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。本ページでは、ICP-AESで発生する各種干渉に対する補正方法を紹介します。
6.1. バックグラウンド補正法(BG補正法)
バックグラウンド補正は分光干渉(5.2)に対する補正法の一つです。バックグラウンドが変化すると、全体の発光強度も変化し、定量値に誤差が生じます。バックグラウンドが変化する主な要因は、測定試料のマトリクスの違いです。分析波長の近傍に別の元素の発光スペクトル線があり、そのスペクトル線の裾に重なる場合(図1:パターン1)と、別の元素の連続光により、バックグラウンドが上昇してしまう場合(図1:パターン2)があり、いずれも定量値に対してプラスの誤差となります。
図1. バックグラウンドの変化が定量値に与える影響
このバックグラウンドの上昇分は、バックグラウンド補正により補正できます。手順は次のとおりです。
プロファイルから、バックグラウンドとなるポイントを1~2点設定し、バックグラウンド強度を求めます。全体の発光強度(IA)からバックグラウンド強度(IB)を差し引いて、正味の測定元素の発光強度(IP)を求めます(図2,3)。
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図2. バックグラウンド補正の計算方法
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図3. 実データの補正結果
Point
- ICPE-9800シリーズでは、バックグラウンドポイントは(▲)で設定します。
詳しいバックグラウンドポイントの取り方は、こちら(【FAQ】バックグラウンドの補正方法)をご参照ください。
6.2. 元素間補正法(Online IEC)
元素間補正法は分光干渉(5.2)に対する補正法の一つです。分光干渉を受けている波長について、干渉元素分の強度を計算して差し引き、測定元素のみの強度を算出する方法です。
カドミウム(Cd)の214.438 nmに対する鉄(Fe)の分光干渉を例に、元素間補正の手順を説明します(図4)。
まず、 Cd 214.438 nmに対するFeの干渉分の強度を求める必要があります。一定濃度の干渉元素の単元素標準溶液(例:Fe 500 ppm)を元素間補正試料として測定し、Feのみのスペクトルを得られる波長(例:Fe 239.147 nm)と測定波長(Cd 214.438 nm)の強度比を元素間補正係数として登録します。この係数を使って、サンプル中のFe 239.147 nmの強度から干渉量を計算し、 Cd 214.438 nmの補正前強度から差し引きます。
補正後強度 = Cd 214.438 nm 補正前強度 ー 干渉量
= Cd 214.438 nm 補正前強度 ー (Fe 239.147 nm 強度) × 元素間補正係数
この場合、Cd 214.438 nmの補正前定量値は0.136 ppm、Feの干渉量は0.035 ppmとなり、サンプル中Cdの定量値は、0.101 ppmと算出することができます。
注)干渉量が大きい場合、誤差が大きくなるため注意が必要です。
図4. 元素間補正の方法(Cdに対するFeの分光干渉を補正する場合)
Point
- ICPE-9800シリーズのソフトウェアは、干渉元素の校正試料を1点追加するだけで、簡単に元素間補正をすることができます。
上記の手法を用いたアプリケーション(分析例)

こちらの土壌認証標準物質を分析したアプリケーションでは、共存元素としてFe 4.2%を含む土壌試料中のCdの認証値 18.5±1.1 mg/kgを、元素間補正を使用することによって精確に分析できることを示しています。
6.3. マトリクスマッチング法
マトリクスマッチング法は、主に非分光干渉(物理干渉(5.3.1)・イオン化干渉(5.3.2))に対する補正法の一つです。検量線試料を、測定するサンプルの組成に合わせて作製し、サンプルと検量線試料の非分光干渉の影響量を同じようにすることで、干渉を補正することができます。
サンプルに含まれる酸や主成分の種類・濃度を確認し、サンプルに合わせて、検量線試料を調製します。例えば、測定するサンプルにNa 約1%、硝酸20%(v/v)が含まれている場合は、図5のように、検量線試料にも同様のマトリクスを添加します。
注:マトリクスを合わせるために検量線試料に添加する試薬からのコンタミには注意が必要です。
図5. マトリクスマッチング法を用いた検量線試料の調製方法
上記の手法を用いたアプリケーション(分析例)

こちらの農地土壌抽出液を分析したアプリケーションでは、土壌診断分析の手法として、塩化ナトリウム抽出法が採用されており、分析試料には0.2 mol/Lの塩化ナトリウムが含まれています。そこで、検量線試料にも同濃度の塩化ナトリウムを添加し、マトリクスマッチングを行っています。
6.4. 内標準補正法
内標準補正法は、主に物理干渉(5.3.1)に対する補正法の一つです。すべての試料に基準となる元素(内標準元素)を一定濃度添加し、分析元素の発光強度と内標準元素の発光強度の比を算出することで、試料導入量の変化を補正する方法です。鉄鋼の分析におけるイットリウム内標準法などJIS(例:JIS G 1258)で内標準補正法を規定している場合もあります。
検量線試料に内標準元素を一定量添加し、測定元素の発光強度(IS)と内標準元素の発光強度(IR)の比を取ります。この発光強度比を測定元素濃度に対してプロットし、検量線を作成します。サンプルにも同様に内標準元素を一定量添加し、その強度比を測定して、測定元素の濃度を求めます(図6)。
図6. 内標準補正法検量線試料の調製方法と強度比の計算方法
内標準補正により物理干渉の補正が可能です。また、プラズマのゆらぎなどによる発光強度の変動を補正し、測定精度(繰り返し再現性)も改善できます。
添加する内標準元素には一般的にイットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、インジウム(In)などが使用されますが、以下の内標準元素の条件をもとに、適切な内標準元素を選択してください。内標準補正法は、測定元素と挙動が同一であることを前提としています。選択した内標準元素で干渉が補正できているか(精確な定量値が得られるかどうか)は、添加回収試験(7.1)などの妥当性確認試験を行って確認してください。
<内標準元素の条件>
- 試料中に含有していないこと、または含有していても添加量に対し微量であること
- 測定元素と挙動が同一であること
- 測定元素、共存元素の分光干渉を受けないこと
- 測定元素に分光干渉を与えないこと
- 適当な添加量で十分な発光強度があること
- 高純度の試薬を使用し、コンタミのないこと
上記の手法を用いたアプリケーション(分析例)

こちらのリチウムイオン電池(LIB)の正極材を分析したアプリケーションでは、LIBの主成分元素であるリチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)の分析精度を向上させるために、内標準元素としてYを溶液中で1 mg/Lになるよう添加しています。
6.5. 標準添加法
標準添加法は、マトリクスによる非分光干渉(物理干渉(5.3.1)・イオン化干渉(5.3.2))が大きく、検量線法におけるマトリクスマッチング(6.3)、内標準補正(6.4)などの補正法では、干渉補正が難しい場合に用いる測定方法です。図7のように 、サンプルに測定元素とほぼ同じ濃度レベルで、数点、濃度を変えて標準溶液を添加します。未添加の溶液も含めて発光強度を測定し、直線を延長して、横軸(濃度軸)との切片からサンプル中の元素濃度を求めます。
図7. 標準添加法の試料調製方法および、未知試料濃度の算出方法
標準添加法を行う場合の注意点
①マトリクスを一定にするため、未添加試料、添加試料全ての試料の希釈倍率を同一にしてください。
標準添加法では試料に分析元素を段階的に添加することになりますので、添加量によってサンプル溶液が薄まる(希釈される)ことになります。図8に示す例のように、サンプルに対して希釈の度合いを全ての溶液で均一にする必要があります。
図8. 標準添加法の添加試料作製例
②添加量は、検量線の直線性がある範囲に設定してください。検量線は、1次式を使用します。また、試料濃度より添加濃度が高すぎると誤差が大きくなりますし、逆に添加濃度が低すぎても誤差が大きくなります。添加濃度は、予想濃度の2~10倍程度の濃度とします。
図9. 標準添加法における添加量の注意点
③分光干渉のない波長を使用してください。
④バックグラウンド補正を必ず行ってください。標準添加法は、目的元素のピーク強度から濃度を算出します。バックグラウンド補正を行わないと、そのバックグラウンド強度が加算され高めの誤差となります。
6.6. FAQ
Q. ICP-AESで干渉が発生するとどのような影響がありますか?
A. ICP-AESでは分光干渉や非分光干渉が発生すると、測定元素の発光強度に誤差が生じ、定量値が実際より高くまたは低く算出されることがあります。干渉の種類に応じて、バックグラウンド補正、元素間補正、マトリクスマッチング、内標準補正などの方法で補正を行います。
Q. ICP-AESの元素間補正法(IEC)とは何ですか?
A. 元素間補正法(IEC)は、共存元素による分光干渉を補正する方法です。干渉元素の発光強度から干渉量を計算し、測定波長の強度から差し引くことで、目的元素の正味の発光強度を求めます。
Q. ICP-AESではどの補正方法を選べばよいですか?
A. 分光干渉が主な原因であればバックグラウンド補正や元素間補正法、試料組成による非分光干渉が問題となる場合はマトリクスマッチング法や内標準補正法が有効です。干渉が大きく通常の補正で対応できない場合は、標準添加法の適用を検討します。
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