8. 分光干渉による測定誤差をなくす測定ノウハウ

ICP発光分析装置(ICP)

ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。本ページでは、分光干渉の少ない最適な波長を選択する方法、および分光干渉の有無を確認し、適切に補正して精確な定量値を得るための手順を紹介します。

8.1. 最適な波長を選択する

精確な定量値を得るには、定量値に対して十分な定量下限があり、かつ、マトリクスによる分光干渉の少ない波長を選択する必要があります。
選択した波長が分光干渉を受けていないかどうかを確認する簡便な手法として、複数の波長の定量値を比較する方法があります。どの波長の定量値も同じであれば、この定量値は信頼性があると言えます。
表1の例では、Cdについて、214.438 nm、226.502 nm、 228.802 nmの定量値を比較しています。定量値はどの波長も同じであり、定量下限も良好なため、どの波長を選択しても問題ないと言えます。

表1. Cd 214.438 nm、226.502 nm、228.802 nmのプロファイルと定量値、定量下限(3波長の定量値が一致している場合)

波長 Cd 214.438 nm Cd 226.502 nm Cd 228.802 nm
プロファイル Cd 214.438 nm Cd 228.802 nm Cd 226.502 nm
定量値 0.201 mg/L 0.201 mg/L 0.204 mg/L
定量下限 0.00097 mg/L 0.0013 mg/L 0.0012 mg/L

Point

  • ICPE-9800シリーズは、「全波長取得」機能により、写真を撮るように全波長域の強度を記録しています。
    常にすべての波長域を取得しているため、分析前に登録していない波長も、分析後に読み出すことができ、再分析不要で複数波長の分析結果を簡単に比較することができます。
  • ICPE-9800シリーズのソフトウェアは、自動波長選択機能があり、最適波長に「BEST」が表示されます。図1の場合、最も感度(SB比)の良い214.438 nmが選択されています。
    ▶動画でも解説しています。こちらの「選択波長がオーバーフローしたときの スマートな分析方法」をご参照ください。

一方、表2に示すように、複数の波長で定量値が異なる場合は、分光干渉を受けていないかを確認した上で、最適な波長を選択する必要があります。分光干渉による定量値への影響はプラスの誤差になるため(5.2分光干渉を参照)、最も定量値の小さい波長が、最も分光干渉の影響が小さい波長と言えます。ただし、定量下限も考慮する必要があります。Cd 214.438 nm、226.502 nm、 228.802 nmの定量下限はほぼ同程度であることから、定量値の最も小さいCd 214.438 nmが分光干渉の影響が小さいと言えます。 
「8.2. 分光干渉の有無を確認し、最適な補正を行う」で、どの波長にどのマトリクス元素の分光干渉があるかを確認する手順を説明します。

表2. Cd 214.438 nm、226.502 nm、228.802 nmのプロファイルと定量値(3波長の定量値が異なる場合)

波長 Cd 214.438 nm Cd 228.502 nm Cd 226.802 nm
プロファイル Cd 214.438nm Cd 226.502nm Cd 228.802nm
定量値 0.136 mg/L 0.187 mg/L 0.318 mg/L
定量下限 0.00097 mg/L 0.0013 mg/L 0.0012 mg/L

8.2. 分光干渉の有無を確認し、最適な補正を行う

ここでは、ICPE-9800シリーズの機能を活用し、分光干渉を受けていないかを確認するための手順を示します。 

8.2.1. マトリクス元素を確認する

初めに、測定元素・波長に分光干渉しそうな元素や、高濃度の元素が試料中に含まれているかを確認します。
試料の素性が分からない場合は、定性結果を確認することで、試料中にどのような元素が含まれているかを確認することができます。
図2で分光干渉の影響が懸念された試料について、定性結果を確認すると、この試料にはマトリクス元素として高濃度のFeが含まれており、その他As, Crなどの元素が含まれていそうだと分かります(図3)。

Point

  • ICPE-9800シリーズの「定性」結果の読出し機能
    全ての波長領域を特別な設定不要で全波長データを常に取得しています。測定後に全元素の定性データを読み出し、プロファイルと定性結果(半定量値)から、干渉元素の有無とおおよその濃度を知ることができます(半定量値は、内蔵されているデータベースを用いて算出しています)。
    ICPE-9800シリーズにおける定性結果

    図3. ICPE-9800シリーズにおける定性結果

8.2.2. 干渉元素を絞り込む

NISTやMITの波長表もしくは、ICPE-9800シリーズのソフトウェアの「ピーク検索」機能を用いて、Cd 214.438 nm、226.502 nm、228.802 nmの波長の近傍に発光線がある元素を確認します。
この例では、Cd 214.438 nmの近傍にはFe, Bi、Cd 226.504 nmの近傍にはK, Fe, Cd, In, Te、Cd 228.802 nmの近傍には、V, As, Irなどの元素が干渉要因となる可能性があることが分かります。

Point

  • ICPE-9800シリーズの「ピーク検索」機能
    内蔵されているデータベースをもとに、測定波長の近傍に発光線のある元素を表示します。 
    ICPE-9800シリーズのピーク検索機能を用いた干渉元素・波長のピックアップ

    図4. ICPE-9800シリーズのピーク検索機能を用いた干渉元素・波長のピックアップ

8.2.3. 干渉元素と干渉量を確認する

8.2.1. で確認した試料に含まれているマトリクス元素、8.2.2.で確認した測定元素・波長の近傍に干渉する可能性のある元素の情報をもとに、Cdの測定波長に分光干渉しそうな元素(As)および、高濃度含まれている元素(Fe)を選定しました。
定性結果をもとにAs 1 ppm、Fe 500 ppmの単元素標準液を作製し、未知試料として測定し、Cdへの干渉量を確認します。
※定性結果よりも厳密にマトリクス元素の含有濃度を求めたい場合は、測定したAs 1 ppm、Fe 500 ppmの単元素標準液を検量線試料として登録し、1点検量線で定量分析を行ってください。

Cdの3波長に対する、Fe・Asの分光干渉

図5.Cdの3波長に対する、Fe・Asの分光干渉

この例では、Cd228.802 nmにはAsの干渉が、Cd 214.438 nmとCd 226.502 nmにはFeが干渉しています。また、未知試料に対するFeの干渉量は214.438 nmの方が少ないことが分かります。

8.2.4. 適切な対処法を選択する

分光干渉のない波長があれば、測定波長を変更します。
一方、図5のように、感度の良い波長で分光干渉のない波長がない場合は、干渉量の最も少ない214.438 nmを最適波長として選択し、次の干渉補正を実施する必要があります。

①マトリクスマッチング:
 サンプルに含まれているFeの濃度を精確に測定した上で、サンプルと同等濃度のFe標準液を検量線試料に加え、マトリクスマッチング(6.3)を行うことで、干渉量を除いた分析結果を得ることができます。
 ただし、サンプルによってFeの含有量が異なる場合は、②の元素間補正を適用してください。また、添加するFe標準液からの汚染に注意してください。

②元素間補正(Online IEC):
 Feを干渉元素として登録し、Feの強度からCd 214.438 nmへの干渉量を算出します。この干渉量をCd 214.438 nmの強度から差し引くことによって、干渉量を除いたCdの正味の強度を得ることができます。
 詳しくは、6.2. 元素間補正をご確認ください。


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8.3. FAQ

Q. ICP-AESで分光干渉が発生しているか確認する方法は?

A. 複数波長の定量値を比較する方法が有効です。複数波長で同じ定量値が得られる場合は、分光干渉の影響が小さいと考えられます。一方、定量値に差がある場合は、干渉元素の確認や干渉補正が必要です。

Q. ICP-AESで最適な測定波長はどのように選べばよいですか?

A. 測定濃度に対して十分な定量下限が得られ、かつ試料中の共存元素による分光干渉の影響が少ない波長を選択します。分光干渉の影響を受けていないかは、複数波長の定量値を比較して確認してください。最終的には、検量線の直線性、繰返し再現性(RSD)、添加回収率などの妥当性試験結果も加味して、最適な波長を決定します。

Q. ICP-AESで精度の高い定量結果を得るにはどうすればよいですか?

A. ICP-AESで信頼性の高い定量結果を得るには、適切な試料前処理と希釈、適切な波長およびバックグラウンド位置の選択、分光干渉・物理干渉・マトリクス干渉の確認と対策、検量線の直線性および定量下限の評価が重要です。これらの品質管理を行うことで、定量値の精確さと信頼性を向上できます。

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