2. ICP-AESの構成 - 試料導入
ICP発光分析装置(ICP)
ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。本ページでは、測定性能に大きく影響する試料導入系の構成と役割について解説します。
ICP-AESでは、試料溶液をネブライザーで霧化し、チャンバーで粒径を選別した後、トーチ内の高温プラズマへ導入して元素を発光させます。試料導入系は測定感度や再現性に大きく影響するため、ICP-AESの性能を理解するうえで重要な構成要素です。
2.1. 試料導入
ICP-AESの試料導入系を図1に示します。同軸ネブライザーを使用の場合、試料はネブライザーの負圧により自然吸引されたのち、細かな霧状の液滴となります。ネブライザーで発生した液滴のうち、大きな液滴はチャンバーで取り除かれ、細かな液滴のみが、キャリアガスの気流によりプラズマへ導入されます。そして、試料中の元素は高温のプラズマからエネルギーを与えられて発光します。
ICP-AESは試料導入系の状態によって測定感度や精度に影響を受けます。特に微量元素の測定をする場合は、直前に分析した試料中の高濃度の元素がメモリー(キャリーオーバー)として検出されることもあり、試料導入系の適切な洗浄条件の設定や、適宜導入系のメンテナンスを行う必要があります。
図1. ICP-AESの試料導入系
2.1.1. 試料の吸い上げ(自然吸引方式、ペリスタルティックポンプ)
同軸型ネブライザーの場合、ネブライザーにキャリアガスを導入することで吸い上げ管内が負圧下となり、試料溶液は自然吸引によって送液されます(図2)。オイルなどの粘性が高い試料溶液で自然吸引での吸い上げが難しい場合は、ペリスタルティックポンプを使用することで送液することが可能です(図3)。ただし、ペリスタルティックポンプはポンプチューブの圧縮と緩和によって送液を行うため、チューブの劣化による感度変動や測定値のばらつき(RSD)の増大に注意が必要です。自然吸引方式ではポンプチューブを使用しないため、試料導入系の劣化を生じにくく、長期間安定した測定が可能です。
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図2. 試料導入系の模式図
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図3. ペリスタルティックポンプ
2.1.2. ネブライザー
ネブライザーでは試料溶液を細かな霧状にします。ICP-AESの試料導入には、一般的に同軸型ネブライザーが使用されています(図4)。
同軸型ネブライザーは、試料管とキャリアガス管が同軸上に配置されており、ネブライザー先端は試料管とキャリアガス管の径が細くなっています。
ネブライザーに導入された試料溶液は、キャリアガスの圧力によって液滴が引きちぎられ、細かい霧状になって噴霧されます(図5)。
試料管やネブライザー先端部の径以上の試料を導入した場合は詰まりが発生し、良好な噴霧状態を保てなくなるため、試料溶液中に懸濁物がある場合はろ紙やフィルター等でろ過した溶液を導入する必要があります。
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図4. ネブライザーの模式図
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図5. ネブライザーによる噴霧の様子
2.1.3. チャンバー
チャンバーでは、噴霧された液滴を選別します。
ネブライザーで発生した液滴は粒径の大きなものも存在しており、安定した測定を実施するにはチャンバー内で粒径の小さなものだけを選りすぐってプラズマに導入する必要があります(図6)。
サイクロン型のチャンバーは、円の接線方向にネブライザーを配置し、ネブライザーから噴霧された液滴はチャンバー内を回転しながら輸送されます(図7、8)。
その際に粒径の大きな液滴はチャンバーの壁に衝突してドレインへ排出され、最終的に細かな液滴のみがキャリアガスの気流に乗ってプラズマへ運ばれます。
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図6. ネブライザーで生成される液滴について
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図7. チャンバーを上から見た図
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図8. チャンバーを横から見た図
2.1.4. トーチ
水溶液中の測定を行う場合のトーチは石英製の三重管構造となっており、トーチの外側からプラズマガス、補助ガス、キャリアガスとしてArガスが導入されます(図9)。試料はキャリアガスによって輸送され、プラズマの中心部に導入されます。トーチは溶液の種類によって使い分け、塩濃度が0.数%以下の水溶液を測定する場合はミニトーチを使用し、塩濃度がそれよりも高い場合は標準トーチを使用します。ミニトーチは内径が小さいため、標準トーチの2/3のArガス流量で安定したプラズマを生成することができます(図10)。
試料にフッ化水素酸が含有されている場合は、接液部がアルミナ製のトーチを使用します。
有機溶媒は水溶液よりも揮発性が高く、溶媒の種類によってプラズマの点灯性が変わるため、有機溶媒用のトーチを使用します。
測定する試料中の金属や有機物の影響で、トーチの先端に汚れが付着することがありますが、その際は適宜、酸や加熱処理によって汚れを取り除く必要があります。長期間の使用でトーチの先端部分の白色化(失透)、ひび割れ、欠けが生じることがあり、測定精度が得られなくなった際には、トーチの交換が必要です。
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図9. トーチの構造とArガスの導入
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図10. 標準トーチとミニトーチのガス消費量の違い
2.1.5. プラズマの観測方式(軸方向観測と横方向観測)
ICP-AESでは、軸方向観測と横方向観測と呼ばれる2種類の観測方式によって、プラズマ中で発生した元素の発光スペクトルを装置内部へ導入します。
試料はプラズマ中心部を軸方向に通り抜けて発光します。軸方向観測は試料がプラズマを通り抜ける方向から発光スペクトルを取り込むことで、原子発光が起こる多くの領域を観測するため高感度な測定が可能です。一方で、プラズマの中心部は軸方向にも温度差があるため、軸方向観測では温度の異なる領域の光を取り込むことでイオン化干渉が大きくなります。ICP-AESでは軸方向観測のためにトーチと垂直に測光部(冷却ジャケット+オリフィス)を取り付けており、少量のパージガスを流してプラズマ中心の比較的低温な上部を除去することができます。
横方向観測はプラズマの高温部の光のみを側面方向から観測します。観測する領域が小さいため感度が低くなりますが、軸方向観測よりも濃度レンジが広く高濃度まで測定することができます。側面方向から観測するためArの発光線によってバックグランドが高くなりますが、イオン化干渉の影響が少ないという特長があります。
測定濃度やサンプルのマトリクスによって2種類の観測方式を使い分けるのが一般的です。
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図11. 横方向観測時の測光の様子
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図12. 軸方向観測時の測光の様子
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図13. オリフィス(ミニトーチ用)
2.2. FAQ
Q. ICP-AESではなぜ試料を霧化する必要がありますか?
A. 試料を微細なエアロゾルにすることで、プラズマへ均一に導入でき、安定した元素分析が可能になります。
Q. ネブライザーが詰まる原因は何ですか?
A. 懸濁物や粒子を含む試料を導入すると詰まりが発生しやすくなります。ろ過して測定することが推奨されます。
Q. ICP-AESの軸方向観測と横方向観測の違いは何ですか?
A. 軸方向観測は高感度測定に適し、横方向観測は高マトリクス試料の測定に適しています。
Q. ICP-AESでは試料によって導入系を変更する必要がありますか?
A. 測定試料に含まれる塩濃度、有機溶媒、酸の種類に応じて導入系を使い分けます。
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