3. ICP-AESの構成 - 分光器・検出器

ICP発光分析装置(ICP)

ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。ICP-AESでは試料中元素が発する光を分光器で波長ごとに分離し、検出器で測定します。本ページでは、ICP-AESで使用される分光器の種類やCCD検出器の仕組み、真空方式とパージ方式の違いについて解説します。

3.1. 分光器・検出器

プラズマから装置内へ導入された光は分光器によって各波長ごとに分離されます。分光器内は空気中のガス成分による光の吸収や塵による光の散乱などを防ぐために、真空状態あるいはガスパージによって空気が追い出された状態となっています。分光器で分離された各波長の光はCCD検出器によって同時に検出されます。

3.1.1. 分光器(エシェル型分光器)

現在市販されているICP-AESの中では、エシェル(Echelle)型分光器を使用したマルチタイプが最も一般的です(図1)。
エシェル型分光器ではICPが発する光を、まずは回折格子によって波長ごとに分け、そのあとにプリズムを使用してさらに次数方向に分けます。波長と次数方向に分散された光は、二次元的に整列した状態で検出器に導かれます。検出器としてCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子(ピクセル)が平面状に並んだ面検出器を使用することで、エシェル型分光器を使ったICP-AESは多元素の同時分析が可能です。

エシェル分光器の模式図

図1. エシェル型分光器の模式図

3.1.2.その他の分光器との比較

マルチタイプのICP-AESでは、エシェル型分光器のほか、パッシェン・ルンゲ(Paschen-Runge)型分光器が使用されています。
パッシェン・ルンゲ型分光器はICPの光を直接回折格子に当て、分光した各波長の光をローランド円周上に結像させます。測定したい波長の光が結像する位置に光電子増倍管やCCDなどの検出器を設置することで、多元素多波長を同時に検出することができます。パッシェン・ルンゲ型分光器は非常に単純な構造をしているため、ミラーなどによってロスの大きい短波長の光を高感度に分析できますが、装置が大きくなります。

ICP-AESにはマルチタイプの他にシーケンシャルタイプと呼ばれる装置があります。シーケンシャルタイプのICP-AESには検出器の前にスリットが設置されており、分光器の回折格子で分光された光の内、特定の波長の光のみがこのスリットを通り抜けて検出器へ導入されます。現在市販されているシーケンシャルタイプではツェルニ・ターナ(Czerny-Turner)型分光器が一般的に使用されています。この分光器は2枚のミラーと平面回折格子で構成されており、平面回折格子の角度を変えながら、目的の波長をスリットへ導入します。焦点距離が1mの大型の分光器を使用した装置では高分解が得られ、分光干渉による影響が大きな試料の分析には有効です。一方で、1波長ごとに順番に測定するため、測定元素数が増えると測定時間が長くなるというデメリットがあります。

表1. 各種分光器の比較表

  マルチタイプ シーケンシャルタイプ
分光器 エシェル型分光器 パッシェン・ルンゲ型分光器 ツェルニ・ターナー型分光器
多波長同時分析
(測定時間)
◎
測定可能な全ての元素、波長を同時分析可能
〇
予め設定された元素、波長を同時分析可能
×
同時分析不可
波長分解能 〇 〇 ◎
(焦点距離1 mの分光器の場合)
短波長の感度 〇 ◎
構造が単純であるため発光線のロスが少ない
〇

3.1.3. 検出器

ICP-AESで使用される検出器には、光電子増倍管(フォトマルチプライヤー)と半導体検出器があり、分光器内で分光された光はこの検出器によって電気信号に変換されて検出されます。
光電子増倍管は、光が光電面に当たると電子が飛び出すことを利用し、真空中でその電子を加速・増幅して陽極から電流として検出します。半導体検出器は、固体素子(Si)内で、入射光子により電子が発生することを利用し、その電子を蓄積・積分し、その電荷量を読み出して検出します(図2)。

エシェル型分光器の検出器には、2次元的に整列した光を同時に測光することができる半導体面検出器を使用します。 この検出器は撮像素子(ピクセル)が縦横に碁盤の目のように配列した光学素子で、エシェル型分光器によって分光された各波長の光を、それぞれが結像する位置のピクセルで測定することで、一枚の画像データのように同時測定することができます。目的の分析元素のスペクトル強度は、縦何番目、横何番目のピクセルに蓄積した電荷として求めます。 

半導体検出器には、CCD(Charge coupled device)タイプとCID(Charge injection device)タイプがあります。CCDは全ピクセルの電荷を一括で読み出すため一度に全波長域のデータを取り込むことができ、測定済みのデータから測定時に指定した以外の波長データも読み出すことが可能です。CIDはピクセルごとに読み出すため、測定前にあらかじめ電荷を読み出すピクセルを指定する必要があり、測定後に読み出せるデータは測定前に指定していた波長に限られます。 

CCD検出器のイメージ

図2. CCD検出器のイメージ

3.1.4. 真空紫外域の波長(190 nm以下)の分析

真空紫外域は190 nm以下の短波長帯域のことを指します。真空紫外域の波長は、酸素分子 O2による光吸収のため、分光器内に空気が存在すると、この波長領域の光は酸素に吸収されてしまい、検出器で検出することができません。この波長領域にはPやSといった元素の発光線がありますが、大気環境では酸素分子の光吸収によってこれらの元素を高感度に存在する測定することが困難です。そのため、ICP-AESでは分光器内の空気を除去することで、真空紫外域の発光線の測定を可能としています。

分光器内の空気を除去するために、真空方式とパージ方式の2種類の方法が使用されています。パージ方式は高純度のArガスやN2ガスを分光器内にパージすることで空気を追い出す方法で、真空ポンプを必要としませんが、その代わりに大量のガスを必要とします。真空方式は真空ポンプを使って分光器内の空気を排気する方法で、空気を除去する立上げ時間が早く、また、パージガスが必要無いため、低ランニングコストで運用ができます。この2つの方法について立上げ時間を比較すると、真空方式の方がパージ方式よりも短時間でスペクトル強度が安定し、測定するのに十分なスペクトル強度が得られることが分かります(図3)。

島津のICPE-9800シリーズは真空分光器を採用しており、真空紫外域の元素分析を短時間で開始できます。

装置立ち上げ後の経過時間に対するスペクトル強度変化の比較

図3. 装置立ち上げ後の経過時間に対するスペクトル強度変化の比較

3.2. FAQ

Q. ICP-AESではなぜ分光器が必要ですか?

A. 試料中の各元素は異なる波長の光を発します。分光器によって光を波長ごとに分離することで、多元素を同時に分析できます。

Q. CCD検出器とCID検出器の違いは何ですか?

A. CCDは全波長域を一括取得でき、CIDは指定した波長のみを読み出します。

Q. 真空方式とパージ方式の違いは何ですか?

A. 真空方式は真空ポンプで空気を除去し、短時間で安定測定が可能です。パージ方式はArやN2ガスで空気を置換します。

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