ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。本ページでは、ICP-AESの原理やプラズマの仕組み、分析対象元素、他の元素分析法との違い、分析可能な試料について分かりやすく解説します。

1.1. ICP-AES分析の概念

ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)では、高温のアルゴン(Ar)プラズマに試料を導入し、試料中の元素を高いエネルギー状態にすることで、元素固有の発光スペクトルが放出されます(図1)。検出された光の波長によって「どのような元素(定性)」が含まれているのかを、その強度から「どれだけの量(定量)」含まれているのかを知ることができます。プラズマから試料中に含まれる元素のスペクトルが一斉に放出されますので、回折格子などを用いた分光器により、各スペクトルに分離することで、70元素ほどを同時測定することができます。

ICP-AESは、溶液試料を分析する元素分析装置の中で最も広い濃度範囲を分析できる方法であり、環境、食品、医薬、ライフサイエンス、マテリアルなど様々な分野で用いられています。

ICP-AES分析の概念

図1. ICP-AES分析の概念図

ICPE-9800 シリーズ

島津製作所のマルチタイプICP発光分光分析装置「ICPE-9800 シリーズ」

マルチタイプICP発光分光分析装置ICPE-9800シリーズは、濃度を問わず多元素の一斉・迅速分析を可能にする精確性と、分析を容易にするソフトウエアの簡便性を備えた次世代装置です。さらに、業界最高水準のシステムで分析のローコスト化を実現。環境、医薬、食品、化学、金属など様々な分野でICP発光分光分析の頂を窮めます。

ICP-AESの主な用途

1.2. ICPとは

ICPとは、Inductively Coupled Plasma の頭文字で、誘導結合プラズマを意味します。プラズマとは、固体・液体・気体に次ぐ第四の状態と呼ばれ、気体が電離してイオン化している状態を指します。
プラズマは高エネルギー(高温)状態で存在し、ICP-AESで使用するArプラズマでは、その温度が6,000~10,000 Kにまで及びます(図2)。

ICP-AESでは、Arプラズマを作り出すためにプラズマトーチ(トーチ)内にArガスを10数L/min流し、トーチの先端部に配置した高周波コイルに27 MHz、1.2 kW程度の高周波電流を流します。この際、生じた誘導電流により加速された電子の衝突によって一部のArがイオン化し、発生した電子がさらに他のArを次々にイオン化していくという連鎖的な反応によってArプラズマが発生します(図3)。

プラズマは高周波電流の表皮効果と呼ばれる現象によって、プラズマの外側の温度が高く中心部の温度が低いドーナツ構造となっています(図4)。試料は低温のプラズマ中心部に導入され、プラズマ中で拡散されずに効率的に元素を発光させることができます。

  • プラズマ生成の概念図

    図2. プラズマ生成の概念図

  • プラズマを側面から観察

    図3. プラズマを側面から観測

    プラズマを上部から観測

    図4. プラズマを上部から観測
    (プラズマ外周温度が高く、中央部が低温)

 

1.3. 分析対象元素

ICP-AESは以下の周期表で示された約70元素が分析可能で、多くの元素をppbオーダーで分析できます(図5)。

ガス成分(C、N、O)や希ガス(He、Ne、Arなど)、U、Thを除いた放射性元素であるアクチノイド以外のほとんどの元素が測定対象となります。

原子吸光光度法(AA)による測定では感度が低い元素(BやPなど)をICP-AESは高感度に分析することが可能です。

分析対象元素

図5. ICP-AESで分析できる元素とその検出下限

1.4. 各種元素分析法の比較

溶液を対象とする各種の元素分析法との比較を表1に示します。

AA(原子吸光分析)の場合、1元素ずつの測定となるため、少ない元素数を低コストでルーチン分析することに優れていますが、測定時間は元素数に比例して長くなります。また、1元素ごとの分析となるため、定性分析には向きません。
ICP-AESやICP質量分析(ICP-MS)は、装置の導入コストはAAより上がりますが、多元素一斉分析による効率的な分析が可能です。

ICP-MSは最も高感度な分析が可能であり、 As、Seを含む多元素の一斉分析をすることができます。一方で、 ICP-AESやAAは水素化物発生法を使用することで、AsやSeを高感度に測定することができます。

ICP-MSは試料中のイオンが直接装置内に導入されるのに対して、ICP-AESはプラズマからの光のみを装置へ取り込むため、耐マトリクス性、測定精度、メンテナンス性に優れています。 

  AAフレーム AAファーネス ICP-AES ICP-MS
感度 ppb~ppm ppt~ppb ppb ppt
濃度レンジ 狭い(2桁程度) 狭い(2桁程度) 広い(ppb-%) 広い(ppt~ppm)
耐マトリクス ◎ △ ○ △
分析速度(1検体あたり) 20秒
(元素ごとに分析)
5分
(元素ごとに分析)
3分~5分
(多元素同時分析)
3分~5分
(多元素一斉分析)
多元素同時分析 不可 不可 可(定性分析可) 可(定性分析可)
イニシャルコスト ◎ ○ ○ △
ランニングコスト、使用ガス ◎
アセチレン、空気、(N2O)
○
Ar
△
Ar
△
Ar、He、(H2)
メンテナンス性 ◎ △ ○ △

1.5. ICP-AESで分析できる試料

ICP-AESでは溶液試料の分析を基本とし、試料を酸性状態にして測定元素を溶液中で安定化させて分析することが一般的です。酸性条件にする場合は硝酸または塩酸を添加することによって元素の容器吸着や沈殿を防ぎます。 Hgや貴金属などを測定する場合は、安定性向上のために塩酸を添加します。

固体試料を分析する場合は、前処理によって試料を溶液化する必要があります。近年はマイクロウェーブ分解装置を使用し、高圧密閉容器内で酸分解を行うことが多くなっています。
難分解試料の場合にはフッ化水素酸を使用する場合がありますが、導入系に使用しているガラスを侵すため使用には特に注意が必要です。使用が避けられない場合は専用の耐薬品性の導入系を用います。
試料中に沈殿物がある場合は、ネブライザーの詰まりの原因となるため、事前にフィルターろ過を行います。

試料中の塩濃度が高い場合は、塩の析出による導入系(ネブライザー、トーチ)の詰まりや感度変動を引き起こす可能性があります。試料中のマトリクスを把握し、測定への影響が懸念される場合は、測定感度の許す範囲での希釈操作を行います。

有機溶媒専用の導入系を使用することで、分解処理をせずに有機溶媒を装置へ直接導入することが可能です。高感度分析を実施する場合、溶媒の種類によっては煤の発生を抑えるためにAr+O2ガスをプラズマに添加します。水溶液の分析とは異なり、有機溶媒の分析では有機物由来の干渉が発生するため注意が必要です。
 

溶媒 水・有機溶媒(溶媒の種類による)
マトリクス
  • ミニトーチを使用する場合、総塩濃度は 0.数 wt%程度までとなるように調製する
  • 高塩用トーチを使用する場合、総塩濃度は 5 wt%までとなるように調製する
  • 測定する試料の塩濃度が0.数 wt%以上であるときは、加湿装置(ウォーターバブラ)を使用する。
酸
  • 硝酸または塩酸を添加して調製するのが一般的である。測定元素(HgやSnなど)によっては塩酸の添加が必要。
  • フッ化水素酸は導入系のガラスを侵す。
  • 0.1%以上含有する場合は、耐フッ化水素酸試料導入系を用いるかフッ化水素酸を除去する前処理を行う。
1回の測定に必要な試料量

5 mL程度

1.6. FAQ

Q. ICP-AESとICP-OESは同じですか?

A. 同じ分析法です。

Q. ICP-AESで何元素同時分析できますか?

A. 約70元素です。

Q. ICP-AESは何ppmまで測れますか?

A. ppbから%オーダーまでの広い濃度範囲を測定できます。

Q. ICP-AESではどのような試料が測定できますか?

A. ICP-AESでは溶液試料の測定を基本としています。

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