4. ICP-AESの分析方法
ICP発光分析装置(ICP)
ICP-AES(ICP-OES)は、多元素を同時に高感度分析できる代表的な元素分析手法です。本ページでは、ICP-AESの定性分析・定量分析の基本原理から、検量線作成のポイント、測定データの評価方法までを解説します。
4.1. 定性分析
ICP-AESではプラズマからの発光線を波長ごとに分けて同時に測定することで、横軸が波長、縦軸が発光強度の波長スペクトルを取得しています。
マルチタイプのICP-AESでは測定可能な波長の光を同時に測定することができるため、一度に複数の元素について分析することができます。
定性分析では検出可能な全ての元素について測定を行い、定性プロファイル(図1)を取得します。定性プロファイルにおけるピークの有無によって、測定試料中の元素の含有を判定することができます。また、定性分析で得られた各元素の測定波長における発光強度と、装置に保存されているデータベースから、各元素のおおよその濃度(半定量値)を算出して表示することができます(図2)。
定性分析では、定量分析とは異なり、標準液を準備しなくても簡便に測定溶液中における各元素のおおよその濃度を知ることができます。半定量値は定量値に比べて誤差が大きいことに注意が必要です。
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図1. 定性プロファイル例(ICPE-9800シリーズ)
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図2. スペクトルの発光強度とデータベースから半定量値を算出
4.2. 定量分析(検量線法)
定量分析は最初に濃度既知の標準溶液を測定し、横軸に濃度、縦軸に発光強度とした検量線を作成します。検量線を作成するときの近似方法には最小二乗法がよく用いられます。次に未知試料の発光強度を測定し、検量線の式からその発光強度を濃度に換算します(図3)。
このようにICP-AESで定量分析を行う場合は、濃度既知の標準溶液で得られた発光強度との相対分析を行います。正確な定量値を得るにはできるだけ標準溶液と未知試料のマトリクスを合わせ、物理的・化学的な性質を近づけることで測定感度に差が出ないようにしなければなりません。例えば、元素の安定化のために測定試料に酸を添加する場合、標準溶液と未知試料で酸濃度が同じとなるようにします。
ICP-AESは多元素同時分析が可能であるため、多成分を測定する場合の標準溶液は測定元素を混合溶液としておくことで、一度の測定で複数元素の検量線を作成することができます(図4)。
図3. ICP-AESで測定した検量線の例

図4. 複数の元素を含む標準溶液の例
4.3. 検量線の作成の基本
通常、ICP-AESでの測定は一次近似で検量線を作成します。定量分析を行う際は未知試料の濃度が検量線の濃度範囲内となるように、検量線試料を調製します。未知試料の濃度が検量線の上限や下限濃度を大幅に超える測定は、検量線の直線性が保証されず、誤差を生む可能性があります(図5)。
図5. 検量線の濃度範囲を決定するときの注意点
ICP-AESは多元素同時分析が可能であるため、検量線試料は多元素を混合して調製しますが、各元素の標準液を混合する場合はその組み合わせに注意が必要です。例えばAgは塩酸存在下で塩化物の沈殿を生じるため、Snなど塩酸を添加して安定化させている標準液と混合した場合は沈殿を生じます。その他、標準溶液に表示されている元素以外に溶解した塩が含有していたり、安定化のための試薬が添加されていたりする場合もあります。事前に各標準液に添加されている酸の種類やどのような塩から溶解して作成された標準液であるかを確認し、コンタミネーション(汚染)や沈殿を起こさないよう注意します。
溶液調製の確認ポイント
- 標準溶液を混合した際に、沈殿を生じない試薬と元素の組合せにします。
- 使用する波長にスペクトル干渉が生じない元素の組合せにします。
- 検量線試料と未知試料の液性はできるだけ一致させます。液性が酸である場合は、酸の種類、濃度を合わせます。
- 検量線試料点数は4点以上用意することを推奨します。
4.4. 検量線の確認事項
ICP-AESは定量分析の際に検量線による相対分析を実施するため、正確な検量線を作成することが重要です。作成された検量線について以下の4点の確認を実施します。ICP-AESは高感度測定が可能ですが、測定濃度範囲が低濃度になるほどコンタミネーション(汚染)や元素の溶液中の安定性にリスクが生じます。検量線の直線性に問題がある場合は、その原因が試薬の調製にあるのか、装置の測定感度や精度に問題があるのかを明らかにして対策を実施する必要があります。
確認ポイント
- コンタミネーション(汚染)がないか、強度がばらついていないか
✓ ブランク試料:強度の有無から導入系の汚れを確認
✓ ブランク試料以外:RSD(相対標準偏差)を確認し、RSDが悪い場合、装置の校正や導入系のメンテナンスを実施する - 検量線の相関係数(r)が0.999以上か
✓ rが0.999以下であったため再測定したが、同じプロットとなる場合
→試料調製ミス・汚染の可能性があるため再調製 - 低濃度側も検量線に乗っているか
✓ 設定濃度と検量線から再計算した濃度を比較
最小二乗法によって検量線を作成するため、高濃度側の誤差が低濃度側に影響しやすい。
濃度範囲が広い場合は特に注意が必要。
→検量線の分割や重みづけを検討する - 検量線濃度範囲の感度が十分あるか
✓ ブランク試料の繰り返し測定から算出した検出限界(3σ)、定量下限(10σ)を確認する
図6. 測定した検量線の確認ポイントの例(ICPE-9800シリーズ)
最小二乗法を使用すると、各点でのばらつき(標準偏差:σ)が一定となるように回帰直線を求めます。この結果、低濃度領域は調製した検量線試料の濃度と、回帰直線から計算される測定濃度の相対誤差が大きくなります。低濃度側を重視して正確度を高くするためには、 重みづけによってばらつきが濃度に比例する計算を実施し、低濃度領域の誤差が少なくなるようにします。
以下のように、重みづけなしの検量線(図7)と重みづけありの検量線(図8)を比較すると、重みづけありの方は、設定濃度と、検量線から計算される濃度の濃度差が、0~1 ppbの微量の領域で小さくなっていることが分かります。
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図7. 重みづけをしていない場合の検量線
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図8. 重みづけをした場合の検量線
4.5. ばらつきの確認
測定終了後は各試料の測定結果にばらつきがなかったかを確認します。異常値があった場合は、その測定結果のばらつき方から原因を推測できることがあります。繰り返し測定を実施すると、①~④の結果が得られます(図9)。
①ばらつきなし:通常は最良な状態ですが、ブランク試料バックグラウンド補正を行った場合)でこの結果が得られた場合は、汚染を検出している可能性があります。
②徐々に下がる:前の状態からのメモリー(キャリーオーバー)が生じており、装置導入系や洗浄液が汚れている場合があります。分析系条件の洗浄条件や導入系の見直しが必要です。
③徐々に上がる:試料の送液が遅く、測定までに試料が安定して導入されていない可能性があります。分析条件の試料導入時間の設定や試料導入系を確認します。
④ランダムにばらつく:ブランク試料の場合は得られる強度が低いため、通常はこのようにばらつきます。測定元素を含む溶液の場合は、①のように安定して測定できることが理想です。
測定元素を含む試料の場合は、その濃度の測定感度が十分であったかを確認します。
内標準補正を行っている場合は、内標準元素がばらついていないかを確認し、測定元素と内標準元素のどちらの送液ラインに原因があるのかを特定します。
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①ばらつきなし
<ブランク試料>
・強度が高いときは汚染の可能性
→試料の再調製<測定元素を含む試料>
・測定上、問題なし -
②徐々に下がる
<試料全般>
・メモリーの影響あり
・導入系や洗浄液の汚染
→導入系の洗浄 -
③徐々に上がる
<試料全般>
・送液が遅く、測定までに試料が
完全に導入されていない
→送液速度の確認
→サンプルリンス時間の確認 -
④ランダムにばらつく
<ブランク試料>
・強度が低い状態で測定するため
このばらつき方が正常<測定元素を含む試料>
・測定感度の低下
・内標準元素の測定のばらつき
→導入系の確認
図9. 繰り返し測定をしたときの測定結果のばらつきのパターン
4.6. FAQ
Q. ICP-AESで定量分析を行うには何が必要ですか?
A. ICP-AESの定量分析では、濃度既知の標準溶液を用いて検量線を作成し、その検量線から未知試料の濃度を算出します。標準液と試料のマトリクスをできるだけ一致させることが重要です。
Q. ICP-AESの検量線の相関係数はどの程度必要ですか?
A. 一般的には相関係数(r)が0.999以上であることが推奨されます。相関係数が低い場合は試料調製や汚染の可能性を確認します。
Q. ICP-AESの検量線の濃度はどれくらいにしますか?
A. 検量線の濃度はBEC(バックグラウンド等価濃度)から計算します。検量線の濃度範囲はBEC/20~BEC×100が目安です。
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