材料別評価
リチウムイオン電池は、正極材、負極材、セパレータ、電解液から構成されています。完成した電池単体をセル、セルを複数組み合わせてパッケージされたたものはモジュールと呼ばれています。電池は、セラミックス、高分子、電解液などの多様な材料が組み合わさっている点や、充放電による電気化学的な状態変化が伴う点、さらに嫌気・嫌湿性といった取り扱いの難しさから、その評価は非常に多岐にわたります。そのため、多種多様な分析装置を用いた多角的な評価が必要です。また、安全性の課題から、物理的な破壊を伴う信頼性試験や安全性評価が必須となります。

電池を構成する電極は物質や導電助剤、バインダー等様々な部材から構成される複合材料です。したがって電極内でこれら部材により形成される電子やイオンの伝導ネットワークは電池性能に大きな影響を与えます。またこれらは充放電による状態が変化するため、長期的な電池性能や安全性に影響する要素として詳細な分析が求められます。充放電前後における電極の導電性評価、充放電によって形成されるSEI被膜の評価、電極スラリーに含まれる有機溶剤の残存量の管理などを物性評価・組成評価することが重要です。

正極は一般的にアルミ箔に正極活物質・バインダー・導電助剤等を混合したスラリーを塗布後、乾燥・プレスして作られます。正極材は主に三元系正極材(NMC) やリン酸鉄リチウム(LFP)、バインダーは主にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電助剤として主にカーボンブラック等、溶媒として主にn- メチルピロリドン(NMP) が用いられます。原料がエネルギー密度、安全性、寿命などの電池性能に影響を及ぼすため、粒子特性、熱特性、組成等の評価が重要です。

負極は一般的に銅箔に負極活物質・バインダー・導電助剤等を混合したスラリーを塗布後、乾燥・プレスして作られます。負極材は主に黒鉛( グラファイト)、バインダーは主にスチレンブタジエンゴム(SBR) やカルボキシメチルセ ルロース(CMC)、導電助剤として主にカーボンブラック等、溶媒として主に水が用いられます。原料がエネルギー密度、安全性、寿命などの電池性能に影響を及ぼすため、粒子特性、熱特性、組成等の評価が重要です。

セパレータは正極と負極を隔離するために用いられる多孔質膜で、通常細孔を通じてイオンのやり取りが行われていますが、電池が高温になった際に細孔が閉じて熱暴走を防ぐ役割を担っています。セパレータの材料は主にポリエチレンなどのポリオレフィン系の樹脂が用いられています。セパレータには充放電時のリチウムイオンの移動を妨げないことに加えて正極と負極の短絡を防ぐために電池絶縁性や機械的な強度が必要とされているため、物性、熱特性、組成評価が重要です。

電解質は正極と負極の間にあり、キャリアとなるイオンを含む物質です。液体リチウムイオン電池の場合は電解液と呼ばれ、エチレンカーボネート(EC) 等の有機溶媒、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6) 等のリチウム塩、ビニレンカーボネート(VC) 等の添加剤を混合したものです。電解液の状態が電池性能に影響を及ぼすため組成の評価が重要です。全固体電池の場合は酸化物系、硫化物系、ポリマー系と呼ばれる3種類の固体電解質が一般的に用いられています。固体電解質の状態が電池性能に影響を及ぼすため、粒子特性、表面観察、熱特性、組成等の評価が重要です。