Erexim™ Application Suite
LCMS-8060/8050向け糖鎖定性・定量解析ソフトウェア
糖鎖はDNA・タンパク質に続く第3の生命鎖と呼ばれるほど,生理機能において重要な役割を担っています。特に,タンパク質に結合しているN-結合型糖鎖やO-結合型糖鎖は,その構造や存在比,結合部位を解析することがバイオ医薬品開発において必須となっています。しかしながら糖鎖はその構造の複雑さと不均一性ゆえに,分析や解析に多くの人員と労力そして時間が必要となります。しかし一方で,バイオ医薬品開発や基礎研究では,日を増すごとに開発/研究速度のスピードアップが要求されています。このような状況下で,糖鎖関連分子の分析や解析のスループットを向上する新規解析技術やワークフローをサポートする専用ソフトウェアが希求されています。
EreximTM法は,糖ペプチドからの糖鎖切り出しと蛍光誘導体化が必須となる糖鎖マッピング法と異なり,糖ペプチドを用いることができるため,糖鎖結合位置を担保したままでの糖鎖構造解析や相対定量が可能となります。
本技術は当社基盤技術研究所と理化学研究所が開発した特許技術(日本: 出願中,米国・韓国: 成立済み)です。
糖鎖結合部位ごとの糖鎖構造不均一性を簡便に測定
タンパク質上に存在するN-結合型糖鎖の分析は,一般にタンパク質から糖鎖を切り出してから分析されるため,分析された糖鎖がタンパク質のどこに結合していたものかという情報は得られません。タンパク質から切り離した糖鎖の分析結果と,糖鎖を切り離さずにタンパク質を消化して得られる糖ペプチドを分析した結果とを合わせてどの部位にどのような糖鎖が存在しているのかを間接的に知ることはできますが,非常に手間ひまのかかる作業が必要となってしまいます。
EreximTMApplication Suiteは,このような手間をかけることなく,糖ペプチドごとの糖鎖構造不均一性を簡単に知ることを可能にします。
- 糖鎖構造を容易に作成,カスタマイズ可能
- 糖鎖構造情報をもとにMRMトランジションを作成
- 糖鎖存在比率,EreximTMプロファイルを自動グラフ化
EreximTM(Energy-resolved oxonium ion monitoring)とは?
N-結合型糖鎖や,それが結合した糖ペプチドを質量分析計でMS/MS分析すると,糖鎖由来の様々なプロダクトイオンが生じます。それらのプロダクトイオンについて,トリプル四重極質量分析計を用いたMRM分析を行うと,コリジョンエネルギー(CE)の変化に呼応して,これらのプロダクトイオン(オキソニウムイオン)の強度が変化します。このイオン強度変化をグラフにプロットすると,糖鎖構造特異的なグラフが得られます。これを比較することで,糖鎖構造の異同を推測することが可能になります。さらに,この糖鎖由来のプロダクトイオンの中には,N-結合型糖鎖のコア構造に由来するプロダクトイオンが存在しており,このイオンをMRMでモニターすることにより,特定の糖ペプチドに結合している様々な構造のN-結合型糖鎖の存在比率を簡単に知ることが可能となります。
EreximTM(Energy-resolved oxonium ion monitoring)法とは? -N-結合型糖鎖の存在比率を簡単に求める方法-
(Reference: A.Toyama.et al., Anal. Chem.2012, 84, 9655-9662)
糖鎖構造をカスタマイズ「Profile Database Manager」
EreximTMApplication Suite のデータベースにはあらかじめ45種類のN-結合型糖鎖の構造情報と単糖情報(Monosaccharide),アミノ酸情報,さらに参照Ereximプロファイル情報などが登録されていますが,ユーザー様ご自身で新たな情報をデータベースに登録することができます。
複雑な糖鎖構造に対応したMRMメソッド作成ツール「MRM Method Maker」
糖鎖構造は複雑な分岐構造を持つため,MRMに必要なプリカーサイオン情報を得るのに労力がかかります。
MRM Method Makerでは,データベースに登録された糖鎖構造を読み出し,そこに簡単にペプチド配列情報やアダクト情報などをつけることが可能です。これらの情報からプリカーサイオンのm/z値が自動計算されるため,トランジションリストを簡単に作成できます。
EreximTMApplication Suiteでは,糖鎖構造の記述からMRMメソッド作成,分析データのグラフ化までをサポート
市販抗体由来N-結合型糖ペプチドの解析例
1st ステップ 糖鎖存在比の算出(相対定量)
市販抗体をトリプシン消化し,Fc領域に存在するN-結合型糖鎖について,EreximTMApplication Suite を用いての不均一性を解析した例を示します。市販抗体(50μg)を溶液中で2時間トリプシン消化したものを,固相カートリッジ(Supel-SelectHLB SPE)に通し,ネガティブセレクションで糖ペプチド画分を得ました。この糖ペプチド画分を分析試料としました。
(1) MRM Method Makerを用いて,分析対象とする33種類の糖ペプチドのリストを作成しました。
(2) 作成したリストに対して,Dwell time,Pause timeを設定し,最適CE入力機能を使って各トランジションに対し,最適CE値を入力しました。
(3) (2)で作成した情報をLabSolutionsのメソッドファイルとして保存し,LCMS-8060を用いてMRM分析を行いました。分析は3回繰り返しました。
カラム | AerisPeptide XB-C18 2.1 × 150 mm (Phenomenex) |
A溶媒 | 0.1%ギ酸 |
B溶媒 | 90%アセトニトリル/0.1%ギ酸 |
グラジエント | 0~2min:2% B,2~10min:2~30% B, 10~11min:30~98% B,11~12min:98% B, 12~15min:2% B |
流速 | 300 μL/min |
試料注入量 | 10 μL(0.1 μg/μL) |
2nd ステップ EreximTMプロファイルの作成(定性分析)
(5) MRM Method Makerを用いて,(4)で得られた糖鎖のうち,糖鎖ID:45100,44100 について,EreximTMプロファイルを得るためのメソッドを作成しました。コリジョンエネルギー(CE)は-10 V~-130 Vまで,10 Vステップで変化させるように設定しました。
(6) (5)で作成した情報をLabSolutionsのメソッドファイルとして保存し,LCMS-8060を用いてMRM分析を行いました。分析は3回繰り返しました。
カラム | AerisPeptide XB-C18 2.1 × 150 mm (Phenomenex) |
A溶媒 | 0.1%ギ酸 |
B溶媒 | 90%アセトニトリル/0.1%ギ酸 |
グラジエント | 0~2min:2% B,2~10min:2~30% B, 10~11min:30~98% B,11~12min:98% B, 12~15min:2% B |
流速 | 300 μL/min |
試料注入量 | 10 μL(0.1 μg/μL) |
(7) LabSolutionsの定量ブラウザにてピークの波形処理を行った後,分析データをData Analyzerで読み込みました。その結果,右に示すErexmTMプロファイルグラフが得られました。
(8) データベースから同じ質量を持つ糖鎖のEreximTMプロファイルを検索した結果,サンプル中に検出された糖鎖ID:45100はデータベースにある下図(左)の構造(45100_ER_Ch3)である可能性が示唆されました。一方,糖鎖ID:44100は,プロダクトイオンm/z204のグラフが,データベースにある2つの構造(44100a_ER_Ch3,44100b_ER_Ch3)の中間に存在していました。このことから,サンプル中の糖鎖ID:45100は,44100a_ER_Ch3と44100b_ER_Ch3の混合物であることが示唆されました。
I N F O R M A T I O N
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