LCMS-9030 - Feature

高速液体クロマトグラフ質量分析計

精密質量測定の日常化を可能にするテクノロジー

 
 

  室温変化に対する安定した質量精度

HRAM: High Resolution Accurate Mass Spectrometer(高分解能精密質量分析装置)として最も重要な役割を担っているのは「高精度温度コントロールシステム」です。設置環境や装置内温度変化のような外的要因による精密質量変化を抑制するため、フライトチューブにはヒーター、温度センサーを適切に配置し、精密な温度コントロールを実現しています。ヒーターと温度センサの位置関係を最適化し堅牢性の高い温度コントロールシステムを開発しました。また、フライトチューブ制御用の電源系も温度コントロールしており高い質量安定性を実現しています。

 

 

  室温変化に対する安定した質量精度

通常の実験環境において室温の変動は避けることができません。高精度に管理された温度コントロールシステムによって室温変化の影響を抑え、幅広い分子量範囲で長時間にわたって安定した質量精度が得ることが可能です。これにより、質量較正に費やす時間と労力を大幅に削減することができます。分子量が150から1700Daの各種抗生物質の標準品を60 時間連続分析して、理論値との質量誤差をプロットしました。分析は通常の実験環境で行い、4℃の室温変化が見られました。この間、データを質量補正することなく、すべてのサンプルの精密質量が理論値から±1ppm以内という高い精度のデータが得られました。

    ポジティブイオンモード                                                   ネガティブイオンモード  

 

  低濃度域においても信頼できる質量精度

高感度定量の信頼性を高めるためには、低濃度域における安定した質量精度を維持することが重要です。不整脈治療薬ベラパミルの測定例を以下に示します。LOQ付近の低濃度でも質量誤差1ppm未満という良好な質量精度が得られました。また、LLOQである10pg/mLで面積値再現性が5.31%(n=3)、正確性が100.5%であり、良好な定量結果を示しました。このように低濃度域においても高い質量精度を保つことにより、幅広い濃度において信頼性の高い定量分析を行うことが可能です。

             ベラパミル(C27 H38N2O4、MW:454.602)のマスクロマトグラム
 
設定濃度 
(pg/mL)
算出濃度
(pg/mL)
面積値再現性
(%,n=3)
正確性    
(%,n=3)
500 523.3 1.93 104.67
100 96.3 3.78 96.50
10(LLOQ) 10.3 5.31 100.50
 

各濃度のマスクロマトグラム

 
 
 

  MS/MS分析においても卓越した質量精度

化合物同定において、MS/MSスペクトルは非常に重要な情報であり、質量精度などを含めた情報の質が問われます。LCMS-9030 は、MS/MS分析においても高感度と高い質量精度の両立を実現しました。これらにより、複雑性の高い化合物に対しても、精度の高い構造解析と確度の高い化合物同定を可能にします。環状ペプチドであるシクロスポリンのMS/MSスペクトルと、その構造式を示しました。主要なMS/MSフラグメントが、質量誤差1mDa以下の精度で一致しました。m/z 567.3860の組成推定結果から、質量誤差が少ないほど推定される組成式の数が絞られることがわかります。

シクロスポリンのMS/MSスペクトル

プロダクトイオンの質量誤差

 
 

m/z 567.3860に対する組成推定結果

  信頼性の高い同定と定量 ― 向精神薬の分析 ―

エチゾラムおよびトリアゾラムは抗不安薬・睡眠薬として使用頻度の多い向精神薬です。これらの薬物の未変化体および代謝物は類似構造を有する同重体化合物です。特に、それぞれの代謝物であるα-ヒドロキシエチゾラムとα-ヒドロキシトリアゾラムは、液体クロマトグラフィー(LC)による分離が非常に難しく、また分子量がほぼ同じであるため、低分解能の質量分析装置では両者を識別して検出することは困難です。一方、飛行時間型質量分析計は高分解能であることから質量分離で識別することが可能です。そこで、LCMS-9030を用いてエチゾラム、α-ヒドロキシエチゾラム、トリアゾラム、α-ヒドロキシトリアゾラム、4-ヒドロキシトリアゾラムの一斉分析を行いました。下図は、全血に10ng/mLを添加したエチゾラム、トリアゾラムとその代謝物のマスクロマトグラムです。LCで分離困難であったα-ヒドロキシエチゾラムとα-ヒドロキシトリアゾラムを含め、全成分を検出することができました。

全血に10ng/mLを添加したエチゾラム、トリアゾラムとその代謝物のマスクロマトグラム

 
 

  LCMS-8060のDNAを引き継いだ
  スペクトルパターン

先に述べたように、LCMS-9030はLCMS-8060と同様のHeated ESIを採用し、イオン導入部からイオン分離部まではLCMS-8060と共通の技術を搭載しています。したがって、コリジョンエネルギー(CE)やイオン化部の温度などLCMS-8060と共通のパラメータ値をそのままLCMS-9030で使用することができます。下図はLCMS-9030とLCMS-8060で測定したエチゾラムのプロダクトイオンスペクトルです。LCMS-9030にはCEの値を指定した範囲内で連続的に変化させてスペクトルを取得する「CE Spread」という機能が搭載されています。LCMS-9030のデータはCE Spread機能を用いて、CEを-20から-50Vまで変化させて得られたものです。一方、LCMS-8060のスペクトル は、CEが-25, -30, -35, -40, -45 Vのときの各プロダクトイオンスペクトルを合算した、いわゆるマージスペクトル(merged spectrum)です。両者を比較すると、スペクトルパターンがよく一致しており、LCMS-9030とLCMS-8060で分析条件の互換性が高いことを示しています。

エチゾラムの開裂パターン
  

エチゾラムのプロダクトイオンスペクトル

謝辞
 
本分析は名古屋大学大学院医学系研究科 法医・生命倫理学 財津 桂 准教授のご協力のもと行いました。

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