抽出物・浸出物とは何か?

通常包装材から医薬品へ移行する物質は“浸出物(Leachables)”、また通常の保管条件よりも過酷な条件を与えたうえで生じる化合物は“抽出物(Extractables)”と言われます(表1)

  Extractables 抽出物 Leachables 浸出物
概要 包装材・製造設備から抽出されるもの 包装材・製造設備から浸出するもの
条件 通常の使用・保管条件よりも苛酷
高温抽出・溶媒抽出を用いる
通常の使用条件下
通常の保管条件下
測定対象 包装材 医薬品

表1 抽出物と浸出物の概要 

どのようなリスクがあるのか?

包装材に直接接触する医薬品や食品は、包装材からの移行する物質によって製品の重要品質特性(CQA)が損なわれる可能性があります。

重要品質特性CQA 影響する可能性のある点
安全性 注射直後や変異原性
培養 品質の均一性
反応/結合 目的物質との化学反応・結合
不純物 不溶性微粒子・凝集物の形成

表2 抽出物と浸出物の医薬品への影響例

どのような規格があるのか?

抽出物と浸出物関する規格は様々にあり欧米規制当局や米国薬局方(USP)、PQRI、BPOG等が独自に文書を公表していますが、統一的なガイドラインがありません。このような状況を打開するために、2020年7月にICHでは抽出物及び浸出物の評価と管理のための新たなワーキンググループが発足し、ICH-Q3E として2020年にStep1へ到達しました。以後2024年にStep4到達を目指し計画が進められています。

なぜ今ICHの規格化が進んでいるか?

バイオ医薬品の増加によって、
 1 保管による化学物質の移行
 2 製造による化学物質の移行
が注目されているためです。
FDAは“Guidance for Industry Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologics ”の中で医薬品と包装材の相互作用可能性についてまとめており、その中で注射剤や注射可能な懸濁製剤は溶出物による人体への危険性が高くなるとしています(表3)。バイオ医薬品は高分子であるため経口による摂取が難しく、ほとんどが注射剤です。2021年現在バイオ医薬品は全製薬市場の30%を超えるまでになり抽出物・浸出物の評価について重要性が高まっています。
またバイオ医薬品はその特異性から希少疾患にのみ対応することが多くスケールアップによるコストメリットが大きくありません。そのためこれまでのようなステンレス培養槽を使った大型の製造設備ではなく、小規模で連続的に少量で多品種生産する連続生産の機運が高まっています。この生産設備は樹脂材料を用いたシングルユース設備が使用されるので、設備で使用される樹脂と医薬品との間で生じる浸出物に対する危険性に配慮する必要が出てきました。

 
投与経路に伴う
懸念度合い
包装材と錠剤の相互作用可能性
High Medium Low
Highest
・吸入エアロゾル
・注射剤
・注射可能な懸濁製剤
・無菌粉剤
・注射用粉剤吸入粉剤
 
High
・点眼用液剤及び懸濁剤
・経皮軟膏及びパッチ点鼻用エアロゾル
   及びスプレー剤
   
Low
・外用液剤及び懸濁液剤
・外用及び経舌エアロゾル剤
・経口用の液剤及び懸濁液剤
外用粉剤及び経口粉剤 経口錠剤
(硬/軟ゼラチンカプセル)
表3 医薬品の包装に関する懸念の例
出典 Guidance for Industry Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologics
 
 

抽出物・浸出物の統一的なメソッドは存在するのか?

すべての化学物質を網羅したメソッドは非常に難しいと言わざるを得ません。包装材やシングルユース製品に含まれる化学物質(モノマー・重合開始剤・帯電防止剤・接着剤など)がそれぞれのメーカー独自の技術・知見・特許により開示されない事が多いこと・またそれらに使用される化学物質が多岐にわたるためです。
そこでICHQ3Eでは現在ICH-Q3A/Bと同様に閾値の設定を目指し検討が進められています。報告の必要な閾値・構造決定を必要とする閾値・安全性確認が必要な閾値について議論が進んでいます。

どのような測定を行うべきか?

USP1663ではベンダー(供給元)との協力を推奨しています。これは一般的に包装材やシングルユース製品に含まれる化学物質が明確ではないためです。効率的に浸出物を発見し、特定し、定量するためにはベンダーとともに主な発生源を特定し、抽出のための変数(温度・時間・面積対体積比・溶媒)などを加味して実験パラメータを決定すべきです。

当社が提供するソリューション

抽出物・浸出物として予測される物質を加味しながら、その物質に最適な測定方法を利用できます。当社はE&Lの測定に必要な幅広い装置とソリューションを提供できます。

揮発性・半揮発性有機物測定

対象サンプルについて、抽出物・浸出物が揮発性有機物・半揮発性有機物が想定される場合GC/MSによる測定が適しています。溶媒による抽出と熱による抽出がありそれらの測定事例を紹介します。

難揮発性有機物測定

LC、LC/MSによって難揮発性(不揮発性)有機物の同定・定量が可能になります。

全有機体炭素測定

USP661では、包装材料の抽出物・浸出物の成分評価を要求しています。その試験にTOCを使用することができます。

無機抽出物測定

無機(元素)抽出物の測定は、ICPやICP/MS、AAなどで測定が可能です。