内部構造観察
超小型EVドアの評価
モビリティ部品の開発において、市場で注目を集める新製品の構造や組成、工夫を調査して、自社開発の参考とすることは重要です。様々な分析計測機器を用いたベンチマーク評価によって、部品の構造や組成に関する情報を迅速かつ詳細に取得できます。本ページでは、都市部における新たな移動手段として注目される超小型EVのドアに関するベンチマーク評価例をご紹介します。
1. 内部構造観察
X線を用いて、ドアの内部構造を透視観察しました。ドアのサイズが大きいため、対象を上下に切断した上でそれぞれ何枚か透視画像を取得し、画像を合成することで全体を可視化しています。 本部品はドアハンドルやパワーウィンドウのシンプルな構造であることから、金属部品は少なく樹脂の比率が高いことが分かります。また、外側からは分かりづらい金属部品の構造や、内と外の樹脂材をつなぐ接着剤の塗布状態なども観察できます。

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2. 表面形状観察
3D測定レーザー顕微鏡で、アウター材とインナー材の表面形状を観察しました。試料はいずれも塗装レスの材着材であり、意匠性や機能性を良くするシボ加工が施されています。
アウター材のシボでは、凸部の丸さや高さが傷をつきづらくしていると思われます。また、凹部がつながっているため、汚れも流れやすいと考えられます。インナー材のシボでは、アウター材に比べて複雑な形状のシボが観察されました。内装の高級感を出すために、光沢や艶が生まれにくい形状になっていると思われます。

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3. 機械特性評価
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精密万能試験機によりアウター材とインナー材、リファレンス材の機械特性とその温度依存性を評価しました。温度条件は25℃、50℃、80℃の3つで、それぞれの温度で試験片3種の引張強さ、破断伸び、弾性率を測定しています。
引張強さは、いずれの試験片でも温度が高くなるほど低下する傾向が見られましたが、試験片の種類による違いはあまり見られませんでした。
破断伸びは、全ての試験片で温度が高くなるほど大きくなり、アウター材、インナー材はリファレンス材より大きな温度依存性を示しました。
弾性率は、いずれの試験片でも温度が上がるほど低下したほか、同じ温度帯ではアウター材とインナー材はリファレンス材より低い値となりました。 -
試験片形状 JIS K 7139 小形引張試験片タイプCP準拠 試験片種類 超小型EV アウター材、インナー材
国産HEV リファレンス材(バンパー)試験種別 引張試験 試験速度 1 mm/min、50 mm/min (変位0.3%で切替) 温度 25℃、50℃、80℃ 試験数 3
引張強さの温度依存性評価
破断伸びの温度依存性評価
弾性率の温度依存性評価
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4. 有機成分分析
赤外スペクトル
有機成分の種類を調べるために、フーリエ変換赤外分光光度計による分析を行いました。分析は1回反射ATR法で実施しています。取得したスペクトルについて、データベースから一致するものを調べたところ、有機成分としてポリプロピレン、有機成分以外の無機添加剤としてタルクの大きなピークが確認されました。また、ポリエチレンを示す波数にも、小さなピークが確認されました。この結果は、3つの材料全てで共通しており、スペクトルに大きな差異は見られませんでした。

DSC曲線
示差走査熱量計先でも同じ試料を分析したところ、160℃付近にポリプロピレンの融解を示す大きなピークが確認された他、120℃付近にもポリエチレンの融解を示す小さなピークが見られました。赤外分光分析と同様に、3つの材料のいずれでもポリプロピレン、ポリエチレンの存在が示唆されました。

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5. 無機成分分析
蛍光X線スペクトル
無機成分の種類を調べるために、蛍光X線分析装置による分析を行いました。赤外分光分析、熱分析で確認されたタルクの他、鉄も3つの材料全てで検出されています。その他成分は材料によって含有状態に違いがありますが、ニッケル、銅、亜鉛、アンチモン、チタン、アルミニウムなどが含まれていることが確認されました。各成分の詳細な役割は不明ですが、アンチモンは難燃性を付加するための添加物、チタン、銅、アルミなどは顔料である可能性が考えられます。

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6. 樹脂・充填剤の割合算出
樹脂と充填剤の割合を算出するために、熱重量測定を実施しました。各グラフの横軸は温度、左縦軸は重量変化(TG)、右縦軸は示差熱(DTA)を表しています。材料によって樹脂と充填剤の割合が異なっており、アウター材とインナー材の差が最も大きいことが分かりました。
アウター材
インナー材
リファレンス材
加熱速度:20℃/min、雰囲気:空気
アウター材 | インナー材 | リファレンス材 | |
---|---|---|---|
樹脂 | 89.33 | 74.07 | 79.24 |
充填剤 | 10.67 | 25.93 | 20.76 |
樹脂と充填剤の割合
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7. 元素マッピング分析
材料中の成分分布を調べるために、電子線マイクロアナライザで元素マッピング分析を実施しました。左は反射電子組成像、右は複数の元素マッピング分析結果をオーバーレイ表示した画像を示しています。黄色で表示された箇所はタルクを、赤色の箇所はその中で鉄まで含まれる箇所を表します。アウター材とインナー材で比較してみると、インナー材はアウター材よりもタルクの粒が大きい傾向が見られました。インナー材のタルクは従来用いられている粒子径よりも大きく、品質的にはアウター材が優れていそうであることから、コストカットを目的に適材適所で材料が選択されている可能性が考えられます。

