潤滑油の劣化解析 ~ASTM規格に準拠した分析手法~
潤滑油の劣化を種々の分析装置を用いて分析することで,オイル交換とエンジンメンテナンスのタイミングを決定することが可能です。小型のFTIRによる潤滑油の劣化分析, GCによるエンジンオイルの燃料希釈率の高速分析,ICP-AESによる潤滑油中の元素分析をご紹介します。
潤滑油の劣化解析(ASTM E2412)
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)は,潤滑油の酸化・ニトロ化・硫化などの化学的変化や,水分・煤などによる汚染を評価することができます。コンパクトで高い拡張性をもつ FTIR IRSpirit-Xシリーズと水平型液体透過測定装置 Pearl™ を用いることで,取り扱いが容易で精度の高い潤滑油分析が可能になります。
自動車エンジン用潤滑油 分析例 | |
---|---|
潤滑油A | 潤滑油B |
t粘度:10W-60 走行距離:3000 km 使用期間:3ヶ月 使用条件:高回転域を使用 |
粘度:0W-20 走行距離:5000 km 使用期間:1年 使用条件:一般街乗り使用 |

潤滑油Aの新品と使用済みの赤外スペクトル

潤滑油Bの新品と使用済みの赤外スペクトル
ここがポイント!
- 試料の前処理を必要とせず,試料のセット・セルの洗浄も非常に簡単
- 光路長を精度よく維持することで,ASTM E2412の分析を再現性良く取得できます
エンジンオイル燃料希釈率の迅速分析(ASTM D7593)
エンジンオイルに燃料が混入すると,粘度が低下して潤滑油の性能が得られなくなるため,燃料希釈率はエンジンオイル劣化の指標とされています。バックフラッシュシステムを搭載したガスクロマトグラフ Nexis GC-2030 により,ガソリン希釈率 は2 min,ディーゼル希釈率は4 minの高速分析が可能です。

GC バックフラッシュシステム

軽油含有エンジンオイルのクロマトグラム
ここがポイント!
- ガソリン希釈率は2min,ディーゼル希釈率は4minで分析できます
- 試料の前処理不要で,2ラインの同時分析を用いれば生産性も2倍
- 安価な窒素キャリアガスで良好な長期安定性が得られます
潤滑油中の添加物,摩耗金属,汚染物質の元素分析(ASTM D5185,D4951)
潤滑油中の摩耗金属や添加物,混入物質の測定は,潤滑油の劣化度合やエンジンの状態を推定するのに有用な情報です。炭素が析出しにくいプラズマトーチを採用した マルチタイプ ICP 発光分光分析装置 ICPE-9820 は,潤滑油中の溶存元素を安定して分析することができます。
Element | Used lubricant (µg/g) |
Used lubricant spike recovery rate (%) |
Used lubricant dilution test (%) |
Unused lubricant (µg/g) |
Detection limit (µg/g) |
---|---|---|---|---|---|
Ag | < | 100 | - | < | 0.02 |
Al | 10 | 101 | - | 6.51 | 0.3 |
B | 65.9 | - | 98 | 121 | - |
Ba | 0.123 | 101 | - | < | 0.02 |
Ca | 3970 | - | 98 | 2250 | - |
Cr | 1.03 | 101 | - | < | 0.01 |
Cu | 0.65 | 100 | - | < | 0.02 |
Fe | 10.8 | 101 | - | 0.43 | 0.01 |
K | 22.1 | 99 | - | < | 0.6 |
Mg | 10.4 | 100 | - | 5.48 | 0.02 |
Mn | 0.618 | 101 | - | 0.139 | 0.002 |
Mo | 184 | - | 98 | 183 | - |
Na | 2.5 | 100 | - | < | 0.4 |
Ni | < | 102 | - | < | 0.05 |
P | 756 | - | 99 | 731 | - |
Pb | < | 100 | - | < | 0.5 |
S | 3980 | - | 100 | 3810 | - |
Si | 8.96 | 103 | - | 5.07 | 0.03 |
Sn | < | 100 | - | < | 0.5 |
Ti | < | 100 | - | < | 0.01 |
V | < | 103 | - | < | 0.02 |
Zn | 872 | - | 97 | 882 | - |
ここがポイント!
- トーチ縦方向配置により有機溶媒でも安定した結果を提供します
- 全波長を常時記録するCCD検出器により再測定の手間を省きます