ゴーストトラップDS / ゴーストトラップDS-HP(for UHPLC)
HPLC用移動相クリーナー ゴーストトラップDS
第一三共 株式会社
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INDUSTRY
低分子医薬品, バイオ医薬品
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ゴーストトラップDS / ゴーストトラップDS-HP(for UHPLC)
「ゴーストピーク」は液体クロマトグラフを使う場合に見られるトラブルのひとつであり,その原因は様々で,解決に時間を要することもあります。第一三共様からのご要望により開発した,ゴーストピーク対策用移動相クリーナー「ゴーストトラップDS」は,今年5月の発売開始以来数多くのお客様にお使いいただき,様々なケースの問題解決に役立っています。今回はこの「ゴーストトラップDS」の開発に至る経緯や応用に関するご意見などをご紹介させていただきます。
Customer
インタビュー
ゴーストトラップDSのお話に入る前に,LCをお使いになる業務内容を教えていただけますか。
医薬品開発の部署で,将来的に医薬品の申請をして工場で生産をするための分析法の開発をしています。
本製品を開発するに至った背景ですが,実際に業務上でLC分析に課題があったと思います。どのような現象があって困っておられたのかというところをお聞かせいただけますか。
品質管理のための分析法開発の過程でグラジエント分析を実行すると,装置の由来あるいは水や試料由来と考えられるゴーストピークが出ることがありました。ゴーストピークは分析の妨げになるので,以前は対処として,例えばグラジエント条件を変更したり,溶媒の種類やバッファーを変えたりしていました。しかしそのゴーストピークさえなければ普通にその分析法が使える場合が多かったので,ゴーストピークをどうにかして取り除く方法がないものかと考えていました。
ゴーストピークが発生してしまうとそれを解決するためにすごく時間がかかってしまうわけですね。これまで,対応にいちばん時間がかかったのはどれくらいでしたか。
時間で表すのは難しいのですが,やっとすべて分離できる分析法が完成してそのバリデーションをとって,工場やCRO企業さんなどへ技術移転をする段階になって,装置が違っていたためにゴーストピークが出たことがありました。その原因を追求し,せっかくバリデーションをとったのにまた分析法を変えなければいけないということを考えると,トータルで莫大な時間・費用がかかったのではないかと思います。
きちんと分析法を確立しても,その分析法を移管した先で問題が発生してしまったのですね。
そうです。そして,果たしてそれが装置由来なのか何が原因なのかはっきりわからないのが,いちばんの悩みどころでした。
原因がわからないのでゴーストピークと言うのでしょうね。金野様としては,その中で何が原因と推測していましたか。
ラボの装置はみんなで交替に使います。いろいろな移動相を流す,毎日毎日違う溶媒を使用するので,どうしても装置由来のわからない汚れが出てくるのだと思います。あとは環境中の気化した溶媒を吸収するのも影響があると考えています。また,バッファーなどの試薬から出てくる場合もあると思います。
空気中のものが溶け込んでくるような場合や,異なる実験室の異なる環境で多様な目的で使われると,ゴーストピークそのものの混入を排除するのは難しいですね。
それでは今回共同開発させていただきましたゴーストトラップDSの特長についてご紹介いただけますか。
ゴーストトラップDSは,LCのオンライン上に取り付けて装置特有のゴーストピークなどを簡単に取り除くことができるカートリッジタイプのカラムのようなものです。私たちの業務においては,分析法を変更したり,グラジエントプログラムのパターンの変更をかけたりしなくて済むという大きなメリットがあります。ゴーストトラップDSはミキサの後ろに接続できるので,溶媒とバッファーが混合したあとに出てくるゴーストピークに対しても,移動相溶媒がカラムに入る前にきれいにできるというのが特長だと思います。
これまでにも単純に移動相の汚れを取る製品はありましたし,また逆相分析条件でODSカラムを上のほうに入れるという対処法があったと思うのですが,このゴーストトラップDSは有機溶媒でも使えるという点において特に優れていますよね。
はい。今まで他社品であるのはODSやポリマーでしたが,そういうものだと一時的にそこで吸着しているように見えるのですけれど,一時的に溶出を遅らせているような感じで,結局そこに溶媒が流れるとあとから溶出してくるわけです。このゴーストトラップは完全に吸着させるので,そういう心配もないし,有機溶媒を通すことができます。とても使いやすいと思います。
ゴーストトラップDSに対する満足度をお聞かせいただけますか。
実は私が担当するテーマのなかでいちばんゴーストピークに悩まされていて,このゴーストトラップがなければ,大げさにいうと進まないというぐらいに苦しんでいましたから非常に満足しています。
それは嬉しく思います。ゴーストトラップDSの使い方のご提案とか,有意義な応用方法などがあればご紹介いただけますか。
私が思い描いているのは,すべてのLCに常時付けておいたらよいのではないかということです。うちの研究室もそうですが,工場も毎回毎回違う条件でLCを使用するという状況があって,装置由来の汚れのゴーストピークはこのゴーストトラップDSがあれば出てこないようにできます。限られた分析法にということではなく,LCそのものに当たり前のように付ければよいのではないかと思います。
ポンプに付いているインラインフィルタのように装置に付けていくという発想ですね。
CRO企業さんなど社外でやったときにゴーストピークが出てきたということを考えると,LCに付けておけばその問題はすべて排除できると考えています。
更なる改良のご要望などは何かございますか。
ゴーストトラップDSはコンベンショナルLCではかなり満足できると思います。ただ,弊社も世間一般的にも高耐圧のHPLCへシフトし始めています。当然,UHPLCになると短い分析時間で,ギュッと凝縮されたピークがいっぱい出てくるのですが,同様にゴーストピークも出てくるので,高耐圧下で使えるゴーストトラップDSをぜひとも開発できたらいいなと考えています。
UHPLC対応型のゴーストトラップDSということですね。頑張って製品化したいと思います。
ぜひともよろしくお願いします。
現在のゴーストトラップDSはカートリッジタイプなので,中身をポンと入れ換えたらまたお使いいただけるという構造になっています。UHPLCに対応する場合,例えばパックドカラム型になってしまうかもしれませんが,いかがですか。カートリッジ式の場合はリユースすることでコストを抑えているのもメリットのひとつなのですが。
もちろんエコ的なことを考えるとカートリッジ型がベストな製品なのですが,カートリッジタイプで作るのは難しいと考えています。またデッドボリュームとかもクロマトに影響しやすくなるので,ミキサの後ろに接続するのも工夫が必要です。ただ,これまで抱えていた問題を解決するまでの苦労やコストを考えると,カラム型のものでもまずは完成できれば嬉しいですね。
例えば工場とかで使われる場合なども考えると,どれくらいの耐久性が要求されますか。
まる一日LCの送液を続けて,ゴーストピークを除去し続けることができることが最低ラインです。工場での生産性を考えると長ければ長いほどいいのですが,毎日流して一週間付けておけると,たいていのものはサイクルがそこで終るので,ベストかなと思います。
基本的に1週間は持たせることができそうだと思います。
以前もいろいろ試したのですが,なかなかうまくいかなくて。でも島津さんと一緒に作らせていただき,なんとか製品化が実現しました。この先時代とともにLCの方向性が変わってくると思うので,ここで開発が終るのではなく,今後も島津さんと一緒に開発をやっていけたらいいなと思っています。よろしくお願いいたします。
こちらこそよろしくお願いいします。ところでゴーストトラップDSというネーミングですが,弊社の今までの装置のネーミングからするとちょっと毛色の違う名前になりまして,実際に弊社の営業からこれはどういう意味かと聞かれたことがあるのですが,金野様はこのネーミングに関してどう思われますか。
「Daiichi Sankyo」のDと「Shimadzu」のSでDSなのですが,弊社のなかでも自社のことをDSというので非常に覚えやすくて,よいと思います。ただ最初社内で「名前は決まったのか」と聞かれたときに,「ゴーストトラップDSです」というのがちょっと恥ずかしかったです。
それほどインパクトのある名前だということですね。
はい。
外国の方は変わった名前だなと思われるようですが,それでも面白い名前ですし,必ずDSの部分は意味を聞かれるので印象に残ってよいと思います。
弊社のLCに関しまして,何かご意見やご要望などございましたらお聞かせください。
島津さんのProminenceの頃からLCには満足しています。
Nexeraもうちのなかでも評価は高く,これからもどんどん使っていきたいと思っています。ひとつ要望を言わせていただくと,UHPLC用のカラムのラインナップを充実させていただきたいです。
ラインナップといわれるのはサイズではなくて修飾基のほうですか。
はい,特に修飾基のところはいちばん揃えていただきたいです。サイズ的なところも大事ですが,修飾基の種類を選んで,分析法を開発していくなかでサイズを決めていくので,まずは修飾基の種類を望みます。
それは例えばC8とかフィニルとかではなくてODSの中でのラインナップという意味,ODSでも性状の違うようなものがもっとあれば,ということですね。
そうです。ひと昔前と比べると,求められている分析レベルも感度レベルも高くなってきていると思うのです。ちょっとしたカラムの違いで,ここは分離することができるということの選択肢が増えていく,さらに高耐圧を使うことで分析時間も短くなるということを考えると,いいLCがあってもいいカラムが見つからないとなかなか定着していかない部分があると思いますので,そこが何とかなればと思います。
承知しました。
最後に,島津製作所についてイメージを何かお持ちでしたら,ざっくりとしたものでもいいのですが,お願いします。
メーカーさんの中には,なかなか痒いところに手が届くように対応していただけないところもあるのですが,島津さんはこちらの要望を細かいところで受けていただくことができるという,そういうイメージがあります。
日系企業と外資系企業の違いもあるのかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました。
※今回の開発に関してましては,宇部興産株式会社の関係者の方々からアイデアやヒントをいただき,本製品の開発に至りました。
宇部興産株式会社 製薬開発部 様のご協力に感謝いたします。
インタビュアーコメント
ゴーストピークの原因は様々で,解決が困難な場合も多々あります。ゴーストトラップDSの最大の特長は有機溶媒中の不純物でも除去が可能な点であり,ミキサーの後ろ,つまりオートサンプラに近い位置に取付けることができます。これによってお客様がゴーストピークの解決に取られてしまう時間を少しでも軽減できれば幸いです。
本製品は,金野様からのご相談が開発のスタートでした。このようにお客様のお声を聞かせていただけると言うことは,メーカーとしてとても貴重な機会と考えております。今後もお客様のご要望に最大限お応えできるような製品開発に努めて参りますので,どうぞよろしくお願いいたします。