独自のミニトーチシステムにより環境性能と分析性能を高次元で両立させ、特別なオプション無しで測定時間を短縮し、業務効率化に貢献します。
2. ICP-MSの構成 - 大気圧部
ICP質量分析計(ICP-MS)
2.1. 試料導入・イオン化
ICP-MSの試料導入系を示します。試料はペリステルティックポンプで導入され、ネブライザーで試料溶液を細かな霧状にします。その後試料は、チャンバーにより細かな粒子が選別され、プラズマへ導入されます。高温のプラズマ中で試料中の元素はイオン化され、インターフェース部を通り、質量分析計へ導入されます。
ICP-MSは試料導入系の状態によって測定感度や精度に影響を受けます。特に微量元素の測定をする場合は、直前に分析した試料中の高濃度の元素がメモリー(キャリーオーバー)として検出されることもあり、試料導入系の適切な洗浄条件の設定や、適宜導入系のメンテナンスを行う必要があります。
島津製作所の最新ICP質量分析計「ICPMS-2040/2050」
「ICPMS-2040/2050」はトーチに特長があります。当社独自のミニトーチシステムは試料のイオン化効率に長けており、従来機比2倍の感度を実現しました。インジェクタの詰まりも低減されています。
2.1.1 ペリスタルティックポンプ
試料はペリスタルティックポンプによって一定量がネブライザーに送られます。ネブライザーのキャリアガスだけでも試料は送液されますが、ペリスタルティックポンプを使用することで、適切な導入量に設定することができます。試料導入時や測定後の洗浄時には、ポンプの高速回転により、迅速に送液することができます。
ペリスタルティックポンプは複数のチューブをセットすることができるため、内標準補正法で定量分析を行う際は、試料溶液だけでなく内標準元素溶液もこのポンプによって送液し、ネブライザー到達までにチューブの内径に応じた割合で混合しながら測定を行います。
2.1.2 ネブライザー
ネブライザーでは試料溶液を細かな霧状にします。ICP-MSの試料導入には、一般的に同軸型ネブライザーが使用されています。同軸型ネブライザーは、試料管とキャリヤーガス管が同軸上に配置されており、ネブライザー先端は試料管とキャリヤーガス管の径が細くなっています。
ネブライザーに導入された試料溶液は、キャリアガスの圧力によって液滴が引きちぎられ、細かい霧状になって噴霧されます。試料管やネブライザー先端部の径以上の試料を導入した場合は詰まりが発生し、良好な噴霧状態を保てなくなるため、試料溶液中に懸濁物がある場合はろ紙やフィルター等でろ過した溶液を導入する必要があります。
2.1.3 チャンバー
チャンバーでは、噴霧された液滴を選別します。ネブライザーで発生した霧は粒径の大きなものも存在しており、安定した測定を実施するにはチャンバー内で粒径の小さなものだけを選りすぐってプラズマに導入する必要があります。
ツイスターサイクロン型のチャンバーは、円の接線方向にネブライザーを配置し、ネブライザーから噴霧された霧はチャンバー内を回転しながら輸送されます。その際に粒径の大きな霧はチャンバーの壁に衝突してドレインへ排出され、最終的に細かな霧のみがキャリアガスの気流に乗ってプラズマへ運ばれます。
さらにチャンバーを冷却し、脱溶媒を行うことで、試料溶媒が導入されることによるプラズマの温度低下を抑制し、溶媒由来の干渉を低減します。
2.1.4 トーチ
水溶液中の測定を行う場合のトーチは石英製の三重管構造となっており、トーチの外側からプラズマガス、補助ガス、キャリアガスとしてArガスが導入されます。試料はキャリアガスによって輸送され、プラズマの中心部に導入されます。
トーチは溶液の種類によって使い分け、試料にフッ化水素酸が含有している場合は接液部がアルミナ製のトーチに変更し、有機溶媒の測定では四重管トーチを使用し、溶媒の燃焼用ガスとしてAr+O2ガスを追加導入します。測定する試料中の金属や有機物の影響で、トーチの先端に汚れが付着することがありますが、その際は適宜、酸や加熱処理によって汚れを取り除く必要があります。
長期間の使用でトーチの先端部分の白色化(失透)、ひび割れ、欠けが生じることがあり、測定精度が得られなくなった際には、トーチの交換が必要です。
2.1.5 インターフェース(サンプリングコーン・スキマーコーン)
インターフェースでは大気圧下にあるプラズマ中のイオンを質量分離部のある真空領域に取り込みます。インターフェース部はサンプリングコーン、スキマーコーンからなり、真空ポンプにより排気され、100 Pa 程度の準真空状態となっています。サンプリングコーンは先端に直径約1 mm、スキマーコーンは先端に直径約0.4 mmの穴があり、高温のICPと直接接触しているため常に水冷されています。
コーンの材質はニッケル、銅、白金などがあり、用途により使い分けます。測定元素の濃度が微量でコーンの材質由来のバックグラウンドシグナルが定量値に影響する場合は、測定元素と同一のコーンは使用しません。白金製コーンは耐久性に優れているため、フッ化水素酸など腐食性の高いものを含む試料を導入する際などに用います。
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