サルタン系原薬中不純物の分析(GC-MS)
2018年7月,アメリカ食品医薬品局(FDA)は中国原薬メーカーで製造されたバルサルタン原薬において,発がん性不純物のN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)やN-ニトロソジエチルアミン(NDEA)が検出されたことを発表し,バルサルタン原薬を使用した製剤の回収が世界的に行われています。
バルサルタンは高血圧及びうっ血性心不全の治療などに使用されています。
FDAはNDMAやNDEAの検出法としてガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MSやGC-MS/MS)による分析法を,欧州医薬品品質理事会(EDQM)は液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)やGC-MSなどによる分析法を参考情報として公開しています。
ここではヘッドスペースオートサンプラ―(HS-20)とGC-MS (GCMS-QP2020 NX),GC-MS/MS(GCMS-TQ8040 NX)を用いてサルタン系原薬中のNDMAとNDEAを分析した事例をご紹介します。
ヘッドスペース-GC/MS法によるNDMAとNDEAの分析
NDMAとNDEAを各々2.5~10 μg/Lに調製した標準溶液(DMSO溶液)をHS-20とGCMS-QP2020 NXで測定したクロマトグラムと検量線を示します。
上記濃度範囲で各成分共に寄与率(R2)=0.999と良好な直線性が得られました。
ヘッドスペース-GC/MS法における繰り返し分析精度
HS-20とGCMS-QP2020 NXを用いてNDMAとNDEAを各5.0 μg/Lに調製した標準溶液(DMSO溶液)を繰り返し6回注入してピーク面積値の再現性を算出しました。 5.0 μg/Lの低濃度領域においても良好な再現性が得られました。
ヘッドスペース-GC/MS法による添加回収試験
バルサルタン原薬,ロサルタン原薬およびオルメサルタン原薬を5%(w/v)でDMSOに溶解し,NDMAとNDEAの終濃度が2.5, 5.0, 10 μg/Lとなるよう添加したサンプルをHS-20とGCMS-QP2020 NXを用いて添加回収率試験を行いました。回収率が88~114%と良好な結果が得られました。
APl | Valsartan | Losartan | Olmesartan medoxomil | |||
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Conc. | Recovery Rate (%) | Recovery Rate (%) | Recovery Rate (%) | |||
NDMA | NDEA | NDMA | NDEA | NDMA | NDEA | |
2.5 μg/L | 108.6 | 104.6 | 95.0 | 113.4 | 103.4 | 114.4 |
5.0 μg/L | 99.9 | 96.5 | 96.1 | 107.9 | 89.8 | 88.7 |
10.0 μg/L | 100.5 | 114.2 | 99.8 | 107.7 | 98.3 | 102.7 |
GC-MSに関する分析条件
GC-MSによるNDMAとNDEAの分析条件を下記に示します。
ヘッドスペースガスサンプラー HS-20 | |
オーブン温度 | :120℃ |
サンプルライン温度 | :125℃ |
トランスファーライン温度 | :130℃ |
バイアル加圧用ガス圧力 | :103 kPa |
バイアル保温時間 | :15分 |
サンプルループ
|
:1 mL |
GC | |
カラム | :SH-PolarWax (30 m×0.32 mm×I.D,0.25 μm) |
カラムフロー | :1.6 mL/min |
キャリアガス | :He |
制御モード | :線速度 |
オーブン温度 |
:40℃(2分)→(10℃/分)→120℃→
(25℃/分)→230℃(5.6分)
|
希釈溶媒 | :N, N-Dimethyl sulfoxide |
MS(EI法)
|
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装置 | :GCMS-QP2020 NX with HS-20 |
イオン源温度 | :200℃ |
インターフェース温度 | :230℃ |
チューニングモード | :標準 |
測定モード |
:NDMA SIM(m/z 74)
NDEA SIM(m/z 102)
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イベント時間 | :0.30秒 |
ヘッドスペース-GC/MS/MS法によるNDMAとNDEAの分析
NDMAとNDEAを各々1.0~50 μg/Lに調製した標準溶液(DMSO溶液)をHS-20とGCMS-TQ8040 NXで測定したクロマトグラムと検量線を示します。上記濃度範囲で各成分共に寄与率(R2)=0.999と良好な直線性が得られました。
ヘッドスペース-GC/MS/MS法における繰り返し分析精度
HS-20とGCMS-TQ8040 NXを用いてNDMAとNDEAを各1.0 μg/Lに調製した標準溶液(DMSO溶液)を繰り返し6回注入してピーク面積値の再現性を算出しました。1.0 μg/Lの低濃度領域においても10%を下回る良好な再現性が得られました。
ヘッドスペース-GC/MS/MS法による添加回収試験
バルサルタン原薬,ロサルタン原薬およびオルメサルタン原薬を2%(w/v)でDMSOに溶解し,NDMAとNDEAの終濃度が2.5, 5.0, 10 μg/Lとなるよう添加したサンプルをHS-20とGCMS-TQ8040 NXを用いて添加回収率試験を行いました。回収率が83~119%と良好な結果が得られました。
APl | Valsartan | Losartan | Olmesartan medoxomil | |||
---|---|---|---|---|---|---|
Conc. | Recovery Rate (%) | Recovery Rate (%) | Recovery Rate (%) | |||
NDMA | NDEA | NDMA | NDEA | NDMA | NDEA | |
1.0μg/L | 109.5 | 858 | 101.2 | 83.0 | 113.3 | 119.1 |
10.0 μg/L | 97.4 | 100.5 | 101.9 | 99.1 | 114.2 | 96.1 |
50.0 μg/L | 103.7 | 105.9 | 106.4 | 110.4 | 119.4 | 100.9 |
GC-MS/MSに関する分析条件
GC-MS/MSによるNDMAとNDEAの分析条件を下記に示します。
ヘッドスペースガスサンプラー HS-20 | |
オーブン温度 | :160℃ |
サンプルライン温度 | :165℃ |
トランスファーライン温度 | :175℃ |
バイアル加圧用ガス圧力 | :80 kPa |
バイアル保温時間 | :25分 |
バイアル加圧時間 | :1分 |
サンプルループ
|
:1 mL |
GC | |
カラム | :SH-PolarWax (30 m×0.32 mm×I.D,1.0 μm) |
カラムフロー | :2.5 mL/min |
キャリアガス | :He |
制御モード | :線速度 |
オーブン温度 |
:40℃(0min)→(8℃/min)→140℃→
(25℃/min)→230℃(3.9分)
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希釈溶媒 | :N, N-Dimethyl sulfoxide |
MS(EI法) | ||||||||||||||||||
装置
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:GCMS-TQ8040 NX with HS-20
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イオン源温度 | :200℃ | |||||||||||||||||
インターフェース温度 | :230℃ | |||||||||||||||||
チューニングモード
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:標準 | |||||||||||||||||
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GCMS-QP2020 NX
さまざまな分野で利用されるGC-MSは,今や分析の汎用機となっています。その中で,装置の更なるコストパフォーマンスの向上と利用するユーザーのワークライフバランスが期待されています。
GCMS-QP2020 NXは,分析のあらゆる場面に対しての効率化を提案し,ラボの可能性を最大限に拡げます。
GCMS-TQ8040 NX
高感度での一斉分析を可能にする「Smart Performance」,徹底した効率化による優れた生産性を実現する「Smart Productivity」,簡便なメソッド作成と解析をサポートする「Smart Operation」。 3つのSmart技術の融合により,さまざまな分野でハイパフォーマンスを発揮する万能型トリプル四重極型GC-MSです。