昆虫由来成分の一次代謝物一斉分析と特徴的栄養成分の探索

要旨

昆虫は高い増殖力、低い環境負荷、そして栄養価の高さから、持続可能な食糧供給源として注目されています。国際連合食糧農業機関(FAO)は昆虫食の地球規模での食糧安全保障と環境保護への寄与の可能性を報告しており、日本でもコオロギは数年前から注目を集めています。これまで、品質管理や分析の観点で、成分情報に関する詳細かつ正確な報告はありません。今回、異なる産地の2種類のコオロギと他の食用昆虫・エビ・大豆について、LC/MS/MSで一次代謝物に相当する成分を分析し、比較を行いました。2種類のコオロギでの比較では、片方のみで検出された成分や38の代謝経路において有意な違いが確認されました。

はじめに

気候変動や戦乱、感染症などによる社会環境の急激な変化による食糧危機が危惧されています。この状況を鑑みると、コオロギをはじめとする昆虫が、食として多くの国や地域にて受容され、栄養供給源のひとつとなることは、中⾧期的に栄養を確保するための重要なステップとなると我々は推察しています。
食糧危機は、私たち人間、特に栄養管理が必要な患者や高齢者にとって、生命を脅かす問題です。世界食糧計画(WFP)によれば、現在、約3億5千万人が深刻な飢餓に苦しんでいます。気候科学者は、過去200年間に観測された地球温暖化のほぼすべての原因が人間活動にあることを実証しました。この問題は、少なくとも過去2千年のどの時期よりも急速に進行しています。コオロギの養殖は畜産よりも持続可能で環境に優しく、FAOも昆虫のタンパク質を、現在のそれに代わる栄養源として注目しています。世界中で広く受け入れられるためには、昆虫を摂取することのメリットが、忌避感などを含めた昆虫食特有のデメリットを明らかに上回らなければならないです。本研究では、様々なサンプルの栄養成分を確認するために、昆虫、エビ、大豆の一次代謝物分析を行いました。昆虫種は、2種類の産地別コオロギ(Acheta domesticus)のほか、カイコ、バッタを採用しました。

2024.07.30