四重極を一つだけ持つシングル四重極質量分析計 (Single Quadrupole Mass Spectrometer, SQ) の測定タイプにはスキャンと選択イオンモニタリング (Selected Ion Monitoring, SIM) の二つのタイプがあります。

3.1.1. スキャンとは

スキャンにおいてまず必要になるのは、測定開始m/zと測定終了 m/z を指定することです。四重極にかける電圧を一方向に連続的に変化させることで、指定した m/z 範囲のイオンを検出し一定時間ごとのマススペクトルを得ることができるのがスキャンの特長であり、それにより分子量情報を得ることや定性、構造解析ができます。また、測定した m/z  範囲内であれば、測定後もマスクロマトグラムを書くことができます。

3-1_scan

3.1.2. スキャンで得られるデータ

スキャンでは、分析メソッドで設定された m/z の範囲を走査(スキャン)して、m/z ごとのイオン強度を調べます。指定した時間中、繰り返し走査し、連続したデータ採取を行います。分析中のある時点において、横軸に m/z を、縦軸に検出されたイオンの強度をプロットした図がマススペクトルです。スキャン分析では、得られたスペクトル情報からTICや抽出イオンクロマトグラム  (マスクロマトグラム)  を描くことが可能です。

lcms_chapter3_4

3.1.3. SIMとは

SIMでは、まず目的化合物の m/z を入力します。指定したm/zのイオンのみが四重極を通り抜けられるよう電圧を設定するので、指定した m/z のマスクロマトグラム情報のみ得られます。そのため、分析する m/z が限定されS/N (Signal to Noise ratio, ノイズに対するシグナルの強度) がよくなるので、定量目的に用いられます。

3-2_sim

3.1.4. イベント時間とループタイム(サンプリング周期)

LC-MSでは一つのメソッドでスキャン分析とSIM分析を同時に行うことが可能です。たとえば m/z 100~600の範囲のスキャンと m/z 200のSIM、m/z  400のSIMを行う場合、それぞれをイベントと呼び、このメソッドはスキャンのイベントが1つ、SIMのイベントが2つ行われることになります。このイベントに合わせて電圧を調整する時間の長さをイベント時間と呼びます。各イベント時間を0.2秒に設定すると、m/z 100~600のスキャンは0.2秒間かけて行うことになります。また、このときスキャンする m/z の範囲は500なので、500 u ÷ 0.2 sec = 2500 u/secより、2500 u/secのスピードでイオンを観察していきます。これをスキャンスピードと呼びます。 複数のイベントが含まれるメソッドの場合、すべてのイベントを1回ずつ実施するために必要な合計の時間のことをループタイム(またはサンプリング周期)と呼びます。ループタイムはイベントの数やイベント時間、ポジティブモードとネガティブモードが混在しているかで変わります。メソッドを作成する場合は各イベントのイベント時間を指定するか、サンプリング周期を指定して各イベントのイベント時間を自動で設定します。

lcms_chapter3_11-1

スキャンでは、スキャンスピードが遅いとノイズが少なく感度のよいスペクトルのデータが得られますが、イベント時間が長くなりデータ採取される間隔が広がります。カラムを用いて速い流量で成分を分離しながら分析する場合は、サンプリング周期が長すぎると生成したイオンを取りこぼす可能性があるため注意が必要です。目安として、流量が0.2~0.4 mL/minの場合、サンプリング周期は0.7~1秒以下になるよう調整します。