バイアルで注意すべき相互作用
バイアルからの溶出
まず、バイアル部材からの溶出が分析結果に影響を及ぼすケースとして次の3点が挙げられます。
1)バイアル部材からの溶出物が、不純物ピークとして検出される場合
2)LC/MS分析において、バイアル部材からの金属溶出物が分析対象化合物の付加体として検出される場合
3)バイアル部材からの経時的な金属の溶出により、サンプル溶媒のpHの変化に伴って、分析対象化合物の分解が促進される場合
ここに代表的なバイアルとして、ガラスバイアルでの例を紹介します。 バイアルには、主にホウケイ酸ガラスが使用されています。ホウケイ酸ガラスには、製造時の加工成形性を高めるために金属酸化物が含まれており1)、含有する金属成分は、ガラスバイアル表面に多く存在することが知られています2)。バイアル内表面の金属はシロキサン結合を切断し、金属シラノラートになります。
金属シラノラートはバイアルに試料溶媒を添加することによって容易にイオン化するため2) 3)、溶出した金属イオンが分析結果に影響を与えることがあります4)。 バイアルに中性のサンプル溶媒が分注されると、金属シラノラートが解離し、ホウケイ酸ガラスに含まれる代表的なアルカリ金属としてNaイオンが溶出します。結果として、Naイオンの溶出により、溶媒のpHの上昇に起因する分析対象化合物の分解や、溶解性の変化の要因になる可能性があります。以下にそのイメージを示します(図1)。

図1. バイアル材質(ガラス)と化合物の作用模式図
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Shim-vial S/H glassは、医薬品充填用ガラスびんと同じ材料を用い、成形時での特殊な低アルカリ処理を施すことにより、アルカリ金属の除去に伴う金属シラノラートの生成を抑制した高品質バイアルです。特に、Shim-vial H glassはさらにナトリウム溶出量を極限まで低減し、高感度分析に最適です。
各種ガラスバイアルの内表面から溶出するNaの量を測定した結果を図2に示します。なお、測定にはバイアルに純水を分注後、USP660に準拠した前処理法を適用して、原子吸光光度計を用いました。
Shim-vial S/H glassは、ほかのバイアルと比較して、水中に溶出するNaの量が少ないことを確認しました。 -
図2 Na溶出量の比較
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特に、LC/MSの分析では、バイアル内表面から解離したNaとイオン化した分析対象化合物と反応したNa付加体が検出されることがあります。 そこで、5 mg/Lのメロキシカム水溶液を各ガラスバイアルに分注し、48時間静置後の各付加体をLC/MSで測定しました。表1に記載する各付加体のピーク面積値の総和を100%としたときの各付加体の割合を図3に、分析条件を表2に示します。
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図3. バイアルの違いによる付加イオンの分布
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Shim-vial HはH付加体の割合が最も高く、バイアル由来の金属イオンの影響を受けにくい一方で、Na付加体の割合が 50%以上のバイアルも確認されました。特に、H付加体をターゲットとしたLC/MSの定量では、Na付加体の形成は、一部のH付加体のみしか測定に寄与できないことから、感度低下の要因となり得ます。

バイアルへの対象化合物の吸着
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バイアルへのサンプル吸着が分析結果に影響を及ぼすケースとして、バイアル表面に存在する吸着サイトに分析対象化合物が吸着する場合が挙げられます。
分析対象化合物の濃度が十分に高い場合は目立ちませんが、低濃度になればなるほど吸着現象が顕著にみられます。具体的には、①直線性が得られない(相関係数(r)が1.000を大きく下回る)、②真度が得られない(回収率が低い)、③精度が得られない(バラツキが大きい)などの課題に直面します。例えば、最適分離条件を構築した後にバイアルへの吸着現象が発覚した場合、分析法バリデーションの全面的な見直しが必須となります。したがって、試験法開発の効率性と試験法の信頼性を確保するために、試料調製から測定に至るプロセスでの吸着現象を把握することが重要です。
具体例として、塩基性化合物である1 mg/Lクロルヘキシジン水溶液を各種バイアルに添加し、24時間後・72時間後にそれぞれLC分析で算出したクロルヘキシジンの回収率を図4に、分析条件を表3に示します。その結果、バイアルによる吸着現象(回収率と、経時変化)の差が確認されました。
この吸着現象は、バイアルに塩基性化合物を分注した際に、塩基性化合物がイオン交換作用によりガラス内表面のシラノールに吸着することで発生します。この吸着は分注直後に非常に速く進行し、その後は徐々に進みます。
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図4. クロルヘキシジンの回収率
* 1 ポリプロピレンバイアルに分注したクロルヘキシジンの面積値を100%とした時の回収率を示しています。
* 2 経時的回収率は、同じバイアルからの再注入を行っています。
* 3 一部のバイアルでは溶媒の揮発による影響を確認しています。
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関連製品
Shim-vial H glass、S glass
バイアルはLCやLC-MSの分析結果に大きな影響を及ぼす重要な消耗品です。高品質なバイアルを使用することで、分析結果の信頼性が向上し、トラブルを防ぐことができます。Shim-vialは、徹底した品質管理のもとで製造され、品質証明書が付属している日本製のバイアルです。
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参考文献
1) Fundamentals of Inorganic Glasses,4(1994)
2) U.S.Pharmacopoeia 41-NF36,017 General Chapter<1660>
3) npj Materials Degradation 5,15(2021)
4) Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,213(2022)
