SHIMADZU製薬Webinar 自動化による創薬化学,合成研究ワークフローの効率化 Q&A
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■小野薬品工業 木下様 特別講演
『創薬における合成業務の自動化 ~貴重な人リソースを創造的活動に振り向けるために~』についてのQ&A
Q : 少数の合成は手でやった方が早いということでしたが,創薬の合成の中でどの部分で使用するのが多いでしょうか?
HTSのヒットを展開する,リードを最適化するところでしょうか?
A : パラレル合成であればどの場面でも使用していますが,ご指摘のようにサンプル数は影響します。5化合物の依頼は非効率ですが,5x3の組み合わせ合成であれば自動化に乗せても非効率な数ではありません。依頼する側にも自動合成を活用を意識した合成計画が活用促進には欠かせません。
Q : HTEで合成する際に1反応にどのくらいの数のサンプルの依頼がありますか? 1日の最大数ではなくて,1反応の依頼が多いでしょうか?
例えば30検体,100検体,500検体,1,000単位とどの程度同じ反応を繰り返しますか?
A : プロジェクトでの必要性に依存します。通常の合成展開であれば10から多くて60検体くらい。探索的なスクリーニングライブラリ合成では300から500検体の合成を行うこともあります。
Q : 外部委託合成でも簡単な反応の数をこなすことができますが,外注との使い分けはどのように考えておられますか?
A : 自動合成ではパラレル合成のような同形式の反応しか実施できません。Scafold hoppingのような手合成でしか合成できないものは外注が選択肢となります。海外の外注は輸出入のタイムラグが生じるため,自動合成で対応可能な合成は社内で行うメリットがあると考えています。
Q : 反応チェック分析はWellプレートで行われていましたが,サンプリングはどのようにしていますか?ロスはないのでしょうか?
A : 反応チェックのサンプリングも基本的にChemspeedの分注機能を使用して採取しています。精度保証範囲外のvolの採取ですが,設定を工夫して対応しています。
Q : 合成時の1化合物当たりのスケールはどれくらいですか?
A : スケールは10-50mgです。10mg以下だと分取精製後の得量が不十分となる場合が増えます。スケールは自動合成機の都合というよりは基質を用意する側の都合が大きいです。
Q : 分取精製で自動化を酸性条件(TFA)のみにしている理由はあるのでしょうか?
A : 現在ASAPrep搭載のHPLC分取装置が1台しかないためTFA用にしています。塩基性条件での分取も実施していますが,従来型の分取装置で対応しています。自動化機をもう1台導入できれば塩基性条件も自動化する予定です。
Q : 終夜での装置運転をされているとのお話でしたが,安全対策(設備異常,停電など)はどのようにされていますでしょうか?
A : 装置の異常に対しては装置側で安全対策がなされています。詳しくエーエムアール様にお問い合わせください。電源は瞬停などに備え無停電電源装置を設置しています。
Q : 自動合成装置の終夜運転に関して,特別な対応(主に火災に対して)されていますでしょうか。
A : 通常のドラフトで行う実験と同様に考えています。アルミブロックによる加熱反応に対する安全対策と同様です。Chemspeedのフードは排気ダクトに接続し,エアカーテンはありませんがドラフトと同様の状態で使用しています。
Q : 自動合成の稼働率を上げるために工夫された点,効果の高かった対応はありますでしょうか。
A : リソースの手薄なプロジェクトへの積極的なアプローチが有効でした。
Q : 分析結果の解析,レポート作成,一覧表示等のオートメーション事例はありますでしょうか。
A : 分析結果はShimadzuOpenSolutionでレビューしています。また,出力は島津製作所様に依頼しターゲットMSの情報をCSV出力しています。CSVからのグラフ作成はPythonで自動化しています。
Q : 効果を定量化できるまでにどれくらいの期間が掛かりましたか?自動化ではない新規の取り組みですと,約3年後に効率化の成果(コスト,使用者の体感)が表れるイメージです。
A : 導入前に想定していた活用状態に達するまでにちょうど3年かかりました。私はもっと早く達成できると考えていましたが,3年かかるのが一般的ということなのですね。
Q : 合成業務の自動化にはChemSpeedをはじめとする高額な設備投資が必要になると思いますが,こういった高額設備への投資に対しては反対はなかったのでしょうか?もし,あればどのように説得したのでしょうか?
A : 単純な費用対効果の見積による導入の動機付けは難しいかもしれません。自動化で捻出した時間で新たなことに取り組む意気込みを上長と共有して進めることが重要だと思います。自動化される作業の価値を見積もるのではなく,自動化で生み出される時間でチャレンジできることの価値を評価してもらいたいと考えています。その価値はPricelessであると信じます。
Q : 自動合成機の稼働率が目標値に達成するまで3年程度かかったとのことですが,稼働率を上げるために行った工夫やアピール(社内広報なども含め)とその効果について教えていただけますと幸いです。
A : 運用開始後は部内アピールのため,月例会議でほぼ毎回実例紹介と依頼募集を行いました。しかし漫然とした募集の効果は低く,利用は増えませんでした。効果が実感できたのでは合成リソースが少ない担当者一人の早期プロジェクトへのアプローチでした。
Q : とても興味深く実例を聴講しました。なかなか自動化が進まないだろうなと想像しているので大変苦労している様子が参考になりました。費用対効果(機器購入価格,人員削減効果)を教えていただくことは可能でしょうか。
A : 人員削減効果は導入前に算出したことがありますが,小さいです。それは比較対象となる手作業のパラレル合成がすでに効率化されたものであるためです。作業時間だけを集計すれば多くはありませんが,研究員の時間を細切れにする影響も考慮すべき点だと考えています。またその作業自体も機械ができるレベルであり,ヒトが行うのはもったいないと考えます。
Q : 弊社でも,自動合成装置を用いた並列自動合成を行っています。導入は大分前ではありますが,近々では,利用率が年々低下しています。御社ではどのような事に主幹を置いて,現状を維持しているのでしょうか。
A : やっと期待していた利用状態になったところでまだ維持について語れる段階ではありませんが,単純な合成作業よりもやりたい業務があれば自然と増えると期待しています。実際のところ,プロジェクトの状況により活用状況が大きく上下することは経験しています。
Q : 「自動合成装置導入後に,活用が中々進まなかった」とのお話がありましたが,装置導入前にも装置導入に対する否定的意見等がありましたでしょうか?その否定的意見を持つ人たちの考えを変えるまで時間がかかったのでしょうか(抽象的な質問になってしまい申し訳ありません)?
A : 上長は肯定的でしたが,全体では否定的意見はもちろんありました。導入までたどり着き,実績で示すしかないと考えました。活用が進まなかったことは,有用性を認めてもらえるのにそれだけ時間を要したことの現れだと思います。簡単ではありませんでした。
Q : 高額且つ未知の領域ですので,導入申請にあたっても苦労されたかと存じます。自動機器の導入の決め手となったきっかけと,現在オートメーション業務に関わる方は何名程度なのか気になりました。
A : 自動合成は以前から個人的に注目し情報収集していましたが,導入のきっかけは部署が自動化促進を掲げたことと,社会的に「働き方改革」の追い風があったことは大きかったと言えます。自動合成は現在2名で運用しています。
Q : 依頼請負型では稼働率が上がらない,という部分には,共感します。
環境構築もたくさんされていましたが,依頼側の研究者のマインドセットも変えていかなければならなかったように思います。そこにどのようにアプローチしたか興味があるので,可能でしたらお答えください。
A : ニーズの高いところはどこかと考え,合成リソースが少ないプロジェクトに集中的にアプローチして有用性を実感してもらいました。また,新たなユーザーよりもリピーター重視で実績を増やしました。
Q : 貴社プロセス化学部門の方は使用されているのでしょうか?(導入されていますか?)
A : プロセス化学部門では導入しておりませんが,同じ建屋にあるのでこちらで依頼を受ける体制は整っています。
Q : スライド内に便利な装置の紹介があったのですが,名前がメモしきれませんでした。メーカーもしくは商品名を教えていただけませんか?
A : メトラー社Quantos,エッペンドルフ社マルチピペットM4,遠心エバポレーターGenevacおよびSampleGenieになります。
Q : Chemspeed社以外の装置と比較したうえで,Chemspeed社の製品をご購入されたのでしょうか?
A : Unchainedと比較しました。どちらも世界中で実績のある機器です。OptimFlowは当時ありませんでした。
Q : 3Dプリンターで作成した便利な機器にはどのようなものがございますでしょうか?
A : 単純な各種サンプル管立てのほか,SampleGenieという器具を締め込むガイド。評価グループからの依頼で384プレートのwell間のクロストークを遮蔽するジャケットを作成しました。
Q : とても興味深いご講演ありがとうございました。
実績として,年間どのくらいの反応を仕込んでいますでしょうか。
また,分取精製の前処理,カラムを傷める金属の除去などはどうされていますでしょうか。
A : 合成数は依頼型で運用しているため変動があります。分取精製の前処理には不溶物があるときはメルクの遠心式フィルターユニットで除去しています。金属除去の必要がある場合はチオール残基を持つ担体に通液しています。
Q : 試薬の投入ミスなどはないのでしょうか?
A : 粉体は投入ミスが起こり得ますが,ログに記録されます。粉体投入までは確認してから帰るようにしています。
Q : 今後の課題に逆相精製の濃縮があげられていましたが,①本日島津から紹介のあった「UFPLC」を使用している,もしくはする予定などあるのでしょうか。している場合はその感想を,していない場合はその理由などご教授いただけると幸いです。②精製手段が逆相LCをメインとしていると想定したうえでの質問になるのですが,逆相の代わりにSFCをメインにするなどで濃縮の効率を上げるという試みをしている,する予定はあるのでしょうか?(私は精製を担当しています。①は結晶化のリスクなどが心配で導入には消極的です。②は可能性があると考え調査中です。)
A : ①UFPLCについてはまだ検討まで至っておりません。ご指摘のように析出によるロスの可能性は考えられますので,実サンプルによる検証は必要と考えます。今後の選択肢として検討させていただきたいと思っています。
②逆相分取の依頼のうち脂溶性が高いものをSFCで精製する試みは行っていますが,まだ検討段階です。
Q : 自動化の説明で,フローを用いたパラレル合成があるとおっしゃっていましたが,本システムも実際に検討している,する予定はあるのでしょうか?
A : OptimFlowは導入しています。Chemspeedと組み合わせて使用することも想定しChemspeed専用バイアルを利用できる仕様としていますが,こちらもまだ試験運用段階です。
Q : 企業での活用例が聞けて大変参考になりました。自動合成業務にかける前の予備検討等はどのくらいやっているのでしょうか。データ解析の自動化などはどの程度取り入れられていますか?
A : 予備検討は依頼者次第です。失敗したときの最も大きいダメージは中間体の損失なので,依頼者が判断しています。
分析結果はShimadzuOpenSolutionでレビューしています。また,データ出力は島津製作所様にツール作成を依頼しターゲットMSの情報をCSV出力しています。CSVからのグラフ作成はPythonで自動化しています。
Q : 創薬の軸が多検体による網羅的な情報収集からAI活用による予測を用いた少数の合成,評価で進める方向に向かっていると思いますが20化合物以上で手合成より効率化が進む自動化プロセス導入の投資効果は十分に回収出来そうでしょうか?またサンプルジーニーを実際に使用されているとのことですが,使用感(洗浄タスクや装置の堅牢性)なども可能であればコメントいただけますと幸甚です。
A : 投資効果については各社考え方があると思いますので,お答えが難しいです。サンプルジーニーは導入以来継続的に使用していますので,利便性・堅牢性ともに問題ないと認識しています。組立時にゆがみがあると液漏れしますので,3Dプリンタで締め込みガイドを作成して使用しています。
Q : ASAprepで分取した検体については,NMR解析できる量が確保できるのでしょうか? 本システムを使用したことがないため,感覚がつかめませんでした。
ご教授いただけないでしょうか?よろしくお願いいたします。
A : ASAprepは分取条件を決めるシステムなのでどのスケールでも対応できます。量が確保できるか否かは反応の仕込み量と収率に依存します。
Q : 同じ反応で基質を変更するパラレル合成に使用されているとのことでしたが,溶媒,試薬,当量の検討など反応条件のスクリーニングには適してないでしょうか?実績はございますか?
HPLC分析用の溶液調整までされていると思いますが,調整液中で不安定な化合物で随時調整が必要だったケースはございますか?その時のご対応方法などご教授頂ければ幸いです。
A : 反応条件のスクリーニングも何度か実施しています。探索段階ではスクリーニングの機会が少ないですが,HTEはもともとスクリーニングの用途として発展したものであり,問題ありません。
調液はpHによる安定性のみ考慮しています。DMSO溶液中で不安定な化合物は評価に耐えないと判断しています。
Q : 少なくとも立ち上げ期の数年間,専任者を置くことで機器の特性理解や徹底した活用・ブラッシュアップが進んだのかなと感じました。導入後すぐに広くユーザーに開放する方法をとらず,専任者を置くことは当初からの想定だったのでしょうか?
A : ユーザーは3パターンの可能性を考えました。①専任者のみ②専任者+エンドユーザー③オープン利用。③はトラブル多発の可能性から排除し,①と②を検討しました。これまでエンドユーザー2名をトレーニングしましたが,未使用期間をはさむと自信をもって使えなくなるため今は専任者制が良いと考えています。
Q : どの業界においても,近年の研究開発は自動化が一つのテーマと考えており,興味深く傾聴させていただきました。
その一方で,データの自動解析やライブラリの整備が求められます。
もしご機会があれば,これらのアプローチについてもご教示いただけますと幸いです。
A : データの自動解析は精度よりも簡便さ重視で検討を進めている最中です。またビルディングブロックライブラリーの整備は私共も関心のあるトピックスです。
Q : 自動合成装置の2大メーカーのうち,Unchained社のビッグカフナではなくChemspeed社のSwingを選んだ理由は何でしょうか。
A : Chemspeed選択の理由は後処理操作のための機能が充実していたからです。スクリーニングをメインに考えた場合はビッグカフナにも利点があると思います。目的次第だと思います。
Q : 脱Boc反応していることに驚いたのですが,TFAや塩酸の使用にも耐える装置なのでしょうか。
A : 揮発性の酸を使う場合は機器に極力暴露しないようにしています。揮発性の酸の使用はなるべく避けるようにしています。
Q : 振とう攪拌のみで運用する際に,なにか事前に気を付けている点があれば教えてください。
A : 二相系の反応や撹拌子によるすり潰し効果を期待する反応は無理にChemspeedで行わず,撹拌子を使用してベンチで反応し後処理からChemspeedを使用する場合もあります。プロセスに行けば攪拌翼になりますし,探索研究段階では攪拌方法は柔軟に選択しています。
Q : 撹拌振とうで十分でしょうか。多少高額になってもマグネチックスターラー可能な仕様にしておけば良かったと思うことはありませんか。
A : マグネチックスターラーを使用したい場合は反応までをベンチで行い後処理からChemspeedを使用します。48本のバイアルに毎回撹拌子を入れる作業もあまり好ましくはありません。
Q : 参考にされた,もしくは刺激を受けたアカデミア・メガファーマ含め他者事例・他者報文があれば,伺わせてください。
A : 参考論文を下記いたします。
参考論文:Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 1213−1242, ACS Med. Chem. Lett. 2017, 8, 461−465
Q : メガファーマとは異なる,自社に適したオートメーションの検討を進められている点にとても共感しました。国内製薬メーカーにとって似たような状況,似たような課題を抱えていることも多々あるかと思います。今後も担当者レベルで連携し研究の発展に繋がることを願います。
A : コメントありがとうございます。全く同意見です。同業他社様とも非競合領域では情報交換し協力し合えるところは協力を進め,業界全体としてレベルアップを目指すべきと思います。
Q : ラボ自動化について,他社の方と意見交換する場などはございますでしょうか?
A : 2社間,あるいは数社間での経験はありますが,定期的な公式の場は存知ません。評価関連では「創薬研究ロボット懇話会」というものがあるそうですので,合成関連でも定期的な意見交換の場があればありがたいなと思っています。
※余談ですが,小職は以下11月開催の第39回メディシナルケミストリーシンポジウムで自動合成に関してのポスター発表を予定しています。
http://cdsympo.com/mcs2022/