ABS樹脂の破断ひずみ測定

 エンジニアリングプラスチックは自動車産業,家電,OA機器など様々な分野で機能性を発揮し,より高性能な材料開発が進められています。その性能評価の中で,特に最近重要視されている要素の一つとして,材料の耐衝撃性に関わる強度,剛性などの物性評価が上げられます。従来から評価されてきた静的引張強度だけでなく,高速引張時の引張強度,縦弾性率や破断までのひずみ測定が新たな材料開発の重要な要素になると期待されています。
ここでご紹介するのは,ABS樹脂平板材の高速引張試験と破断までのひずみ測定です。高速引張衝撃試験の様子を高速度ビデオカメラで撮影し,画像解析ソフトウェアにより試験片の標点間ひずみを測定しました。

ABS樹脂の高速引張試験観察

ABS樹脂試験片の高速引張試験における試験片破断前後の様子(4コマ)を図1に示します。
この例の撮影速度は32kfpsです。1コマの時間間隔は32マイクロ秒です。

図1 破断前後の4コマ画像

図1 破断前後の4コマ画像

画像による破断ひずみの測定結果

図2 引張試験の動画とひずみ,応力の時刻歴

図2 引張試験の動画とひずみ,応力の時刻歴

撮影で得られた画像を画像解析ソフトウェアで処理し,標点間のひずみ時刻歴を求めました。今回は,試験片が静止した状態の画像において縦方向30mmの標点(試験片中央部の連続したドットマーク16点の両端)を決定し,その標点間を時間の経過とともに自動追尾して試験片の縦ひずみを測定しました。得られたひずみの時刻歴を図2に示します。

高速引張試験における応力-ひずみ関係の同定

図3 破断までの応力-ひずみ線図

図3 破断までの応力-ひずみ線図

静的引張試験においては測定が容易な応力-ひずみ曲線も高速引張試験では極めて難しい技術課題と言えます。
ひずみゲ—ジでは測定範囲が小さく,また接触式伸び計は衝撃に対して機能的ではありません。今回は画像の撮影タイミングを試験力と同期させることにより,ABS樹脂の応力-ひずみ線図を求めることが可能になりました。 図3に試験片破断までの応力-ひずみ線図を示します。

図4 グリップされた引張試験片

図4 グリップされた引張試験片

図5 高速引張試験と撮影風景

図5 高速引張試験と撮影風景

高速衝撃試験機 HITS-X シリーズ

高速引張試験機

任意速度の引張試験により,材料の高速変形挙動の基礎データを採取することができます。高応答力検出器,振動衝撃に強い容量形変位計を採用し,高速でも振動ノイズの少ない高精度のデータを得ることができます。
 

 

Hyper Vision HPV-X2 高速度ビデオカメラ

高速度ビデオカメラ

科学分野の様々な場面で,現象が一瞬にして経過してしまい,解決の糸口が見つけられないことがあります。高速度ビデオカメラは,この一瞬を記録し,スローモーション再生することで可視化します。この技術は重要な解析手法として,材料破壊,放電,爆発,微小現象など様々な分野で利用されています。