緩衝溶液(緩衝液)の調製方法
移動相(溶離液)のpH調整は,成分分離の向上などのために行われます。このpH調整は,単に酸あるいは塩基(アルカリ)を滴下してのみ行うのではなく,できるだけ緩衝溶液(緩衝液)を利用すべきです。緩衝溶液を用いなければ,成分の解離平衡が安定せず,分離の再現性(安定性)が得られないことがあるからです。
緩衝溶液は,弱酸とその塩(ナトリウム塩など),または弱塩基とその塩,の組み合わせで調製されます。調整法としてしばしば 1) 塩の水溶液に酸(または塩基)を滴下してpHメータで測りながら調製する,2) 酸を塩と同濃度の水溶液にしておいてpHメータで測りながら混ぜ合わせる,などを見かけます。しかし,HPLC移動相に用いる場合では,僅かのpH誤差があれば分離再現性に問題を生じる可能性がありますから,pHメータに頼る方法では必ずこまめにメータを点検/校正する必要があります。そこでpHメータに頼らない方法として,「理論上計算された塩と酸(塩基)の一定量を秤量し調製する」方法を下表に紹介します。 また,注意点として以下のようなものがあります。
<緩衝溶液の表記>
例えば「100 mM りん酸(ナトリウム) 緩衝溶液 pH=2.1」と表記すれば,りん酸を酸として,ナトリウムを対イオンとして,用いた緩衝溶液であり,りん酸根の全濃度が100 mMであり,その緩衝溶液のpHが2.1であると約束します。
<酸(または塩基)のpKa付近が緩衝作用が最大>
例えば,酢酸と酢酸ナトリウム1:1からなる酢酸(ナトリウム)緩衝溶液を作成すれば,緩衝液のpHは酢酸のpKa付近の約4.7になり,緩衝作用を最大に利用することができます。
<濃度が高いほど緩衝能力が大>
例えば,酢酸(ナトリウム)緩衝溶液は10 mMよりも100 mMの方がその緩衝能力は大きくなります。ただし,濃度が高いと析出しやすくなります。
<塩の溶解度,析出に注意>
塩の種類たとえば,カリウム塩とナトリウム塩の違いでもその溶解度が異なってきます。また,有機溶媒と混合したときに析出しやすくなります。
以上の他,UV短波長で高感度分析を行う際には有機酸(カルボン酸)系の緩衝溶液を出来るだけ避ける,不純物金属イオンの影響を抑制するためにはα位に水酸基をもつ有機酸(補足参照)を使う,など分析上の諸条件を考慮の上,適切な緩衝溶液を利用する必要があります。(J.Ma,Y.Eg)
参考:1) LCtalk vol.29 8pKaと解離平衡. ,2) LCtalk vol.26 11.,3) LCtalk vol.40 4移動相の調製方法.
<補足> α位に水酸基をもつ有機酸(クエン酸,酒石酸など)は,下記のようなカニのはさみのような構造により,移動相中の不純物金属と錯を形成しやすいです。 ![]() |
100 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=2.1 りん酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.=156.01)・・50 mmol(7.8 g) りん酸(85%,14.7 mol/L)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 mmol(3.4 mL) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
10 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=2.6 りん酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.=156.01)・・・5 mmol (0.78 g) りん酸(85%,14.7 mol/L)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 mmol (0.34 mL) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 (100 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=2.1 を1/10に希釈してもよい) |
50 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=2.8 りん酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.=156.01)・・40 mmol (6.24 g) りん酸(85%,14.7 mol/L)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 mmol (0.68 mL) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
100 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=6.8 りん酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.=156.01)・・・50 mmol (7.8 g) りん酸水素二ナトリウム12水和物(M.W.=358.14)・・50 mmol (17.9 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
10 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=6.9 りん酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.=156.01)・・・・5 mmol (0.78 g) りん酸水素二ナトリウム12水和物(M.W.=358.14)・・・5 mmol (1.79 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 (100 mM りん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=6.8 を1/10に希釈してもよい) |
20 mM くえん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=3.1 くえん酸一(いち)水和物(M.W.=210.14)・・・・・・・・・・・・・・・16.7 mmol (3.51 g) くえん酸三ナトリウム二水和物(M.W.=294.10)・・・・・3.3 mmol (0.97 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
20 mM くえん酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=4.6 くえん酸一(いち)水和物(M.W.=210.14)・・・・・・・・・・・・・・・・10 mmol (2.1 g) くえん酸三ナトリウム二水和物(M.W.=294.10)・・・・・・10 mmol (2.94 g) 水に上記を入れ全量1LとBBB |
10 mM 酒石酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=2.9 酒石酸(M.W.=150.09)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.5 mmol (1.13 g) 酒石酸ナトリウム二水和物(M.W.=230.08)・・・・・・・・2.5 mmol (0.58 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
10 mM 酒石酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=4.2 酒石酸(M.W.=150.09) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.5 mmol (0.375 g) 酒石酸ナトリウム二水和物(M.W.=230.08)・・・・・・・7.5 mmol (1.726 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
20 mM (酢酸)エタノールアミン緩衝溶液 pH=9.6 モノエタノールアミン(M.W.=61.87、d=1.017)・・・20 mmol (1.22 mL) 酢酸(氷酢酸、17.4 mol/L)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 mmol (0.575 mL) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
100 mM 酢酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=4.7 酢酸(氷酢酸) (99.5%,17.4 mol/L)・・・・・・・・・・・・・・・・50 mmol (2.87 mL) 酢酸ナトリウム三水和物(M.W.=136.08)・・・・・・・・・50 mmol (6.80 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
100 mM ほう酸(カリウム)緩衝溶液 pH=9.1 ほう酸(M.W.=61.83)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100 mmol (6.18 g) 水酸化カリウム(M.W.=56.11)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 mmol (2.81 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
100 mM ほう酸(ナトリウム)緩衝溶液 pH=9.1 ほう酸(M.W.=61.83)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100 mmol (6.18 g) 水酸化ナトリウム(M.W.=40.00)・・・・・・・・・・・・・・・・・50 mmol (2.00 g) 水に上記を入れ全量1 Lとする。 |
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