キャリアガスをヘリウムから水素や窒素に変更する場合の注意点などをまとめました。

 

キャリアガスを水素に変更する

GCMS分析で用いられるキャリアガスは,通常ヘリウムです。しかし,目的によっては使用できないこともありますが,水素もキャリアガスとして使用できます。島津のガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)は,水素キャリアガスに対応しており,水素をGCのキャリアガスとして利用できます。水素ガス(H2)は,ヘリウムガスと比較して入手しやすく,安価であり,線速度に対する分離性能も維持できます。安全面に留意して使用すれば,ランニングコストも大幅に削減することができます。

キャリアガスの種類を変更すると同一条件でも同じ結果が得られるとは限りませんので,分析条件の検討が必要になることがあります。
GCMSの前処理装置にはキャリアガス以外のガスも使用されており,装置の種類によっては,キャリアガスに水素が使用できない場合もあります。水素キャリアガスを使用できる前処理装置に関しては,弊社担当営業までお問い合わせください。

GCMS-TQシリーズ,GCMS-QP2020シリーズ,GCMS-QP2010シリーズには,キャリアガス自動停止機能が搭載されています。キャリアガス流量制御に電子式フローコントローラ(AFC)が採用されており,カラム入口圧,全流量が一定条件内で設定値に達さない場合には,大量のキャリアガス漏れなどのトラブルが起こっていると判断して,キャリアガス供給を停止し,GCも自動停止します。
また,真空ポンプが故障により停止した場合は,キャリアガス供給が自動停止されます。

水素をキャリアガスとして利用する際の特長をまとめました。また,GCMS-TQシリーズ,GCMS-QP2010シリーズについては,使用に関する検証を行いましたので,その内容をご紹介させていただきます。

  • 注入口の圧力と流量を監視しており,一定時間内に設定値にならなければオーブンの温度を下げたのち,キャリアガスの供給を停止します。
  • キャリアガスの制御異常が発生した場合には,電子フローコントローラーがキャリアガスの供給を自動的に停止します。
  • 真空ポンプが故障により停止した場合には,キャリアガス供給を自動で停止します。
  • 島津のGCMSではオーブン内での水素漏えい実験を行っており,オーブン内に水素が滞留しない構造となっていることを確認しております。水素の拡散係数が大きいため,オーブン内に水素は留まりません。
  • 島津GCMSでは水素を使用した爆発実験を行っております。通常の使用条件での水素ガス漏れでは,カラムオーブン内で意図的に点火させても軽い爆発音がしますが,その他は何も起こりません。 また,真空起動後,MS部前扉のノブを完全にゆるめていただくことにより,通常の使用条件では,水素がMS分析内部に滞留することはありません。
  • 島津ワークステーションソフトウェア GCMSsolution では,水素キャリアの設定が標準で行えるようになっており,キャリアガス線速度一定モードで同一の線速度の条件に設定いただくことで,簡易にメソッド移行検討が行えます。

以下の事項は水素ガスを使用する際に必ず実行してください。

 

一般強制 電子フローコントローラー APC・AFCでガスの供給圧が正常であるにもかかわらずリークエラーが発生するときは,使用を中止して当社に修理を依頼してください。
漏れが見つからない,漏れが止まらない,または漏れを止めても正常に戻らないときは,使用を中止して当社に修理を依頼してください。
一般強制 真空起動後は,MS部前扉のノブを完全にゆるめてください。

水素キャリアガスを安全に使用していただくために(取扱上の注意)

水素ガスは,爆発しやすい危険なガスです。 ガスクロマトグラフ質量分析計で水素ガスを使用するときに,想定される危険および安全に使用していただくための留意点を安全マニュアルとしてまとめました。
→ GCMS-QP2010シリーズ,GCMS-QP2020,GCMS-TQ8030/8040 水素キャリアガスの安全使用について(PDF,324KB)

分析への影響に関する留意点

感度(S/N)に関してはノイズが増加します。各装置での水素ガス使用時のS/N仕様に関しては,仕様書をご確認ください。分離に関しては,最適なカラムを使用およびメソッドを作成することにより,同等の結果を得ることができます。大部分の化合物は分析可能ですが,水素は不活性ガスではありませんので,注入口で分解する場合もあります。

前処理装置が接続されていると,キャリアガスセーブモード,エコロジーモードおよびシャットダウンメソッドの各機能を使用できない場合があります。前処理装置が接続されているGC-MSをご使用中のお客様は,弊社営業窓口までお問い合わせください。
キャリアガスに水素の利用をご希望される場合は,弊社営業窓口までお問い合わせください。

 参考情報 GCMS代替キャリアガスのご提案(メソッド変換ツールや水素ガス発生装置、アプリケーション事例のご紹介)
 

キャリアガスを窒素に変更する

キャリアガスを窒素に変更される場合は,条件検討を充分に行った上での実施をお勧めします。
窒素ガス(N2)は,安価で安全なガスです。一方でキャピラリGCで使用される場合,ヘリウムガスと同条件で分析すると,分離能力が低下する場合がほとんどです。近接するピークがない場合,ヘリウムと同条件でキャリアガスを窒素へ変更することが可能ですが,近接する成分が多く,ある程度の分離が必要な場合は,窒素ガスでの条件検討が必要です。
窒素ガスで分離能力を向上させるためには,キャリアガス線速度の検討,温度条件検討が必要になり,分析時間が長くなると予想されます。また,気化の状態,検出器感度も若干変化することが予想され,ピーク面積百分率はヘリウムガス使用時と異なる可能性があります。

ヘリウムガスと窒素ガスでの分離の一例

ヘリウムガスと窒素ガスにて線速度を変化させた場合の分離の一例を示します。
ヘリウムガスでは,線速度20~47cm/sの広範囲で分離はほとんど変わりませんが,窒素ガスでは線速度47cm/sの場合,分離が悪化しています。これは,窒素の分離最適線速度がヘリウムより低く,最適線速度範囲がヘリウムより狭いことに起因しています。

窒素ガスでの分析条件検討

窒素ガスを使用してヘリウムガスに最適化された条件で分析すると,カラム効率(HETP)が異なるために分離能力が低下します。高分離が必要でない場合は同じ分析条件で分析が可能な場合もあります。高分離が必要な場合は分離能の高い10-20 cm/sの線速度域あたりで分析条件の検討を始めることをお勧めします。(線速度を遅くすると分析時間は長くなります。)
なお、昇温分析の場合は昇温時に線速度が変化してしまいますが、島津GCの場合は定線速度制御を使用することで、窒素ガスを用いても最適な分離を得ることが可能です。