
分析天びん APシリーズ
INDUSTRY
医薬・バイオ医薬品
キーワード
天びん
紹介する製品・サービス
分析天びん APシリーズ, STABLO-AP
左から
イノベーション推進チーム コミュニケーションマネージャー 島﨑 眞 様
イノベーション推進チーム 苅谷 遊子 様
研究チーム 劉 学瑩 様
*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。
公益財団法人 川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター
URL
https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/
世界中の人が自律的に健康になれる「スマートライフケア社会」を実現するために
東西に広がる研究居室の中心はコミュニケーションフロア。各階ごとに趣の異なる空間は、フロアをまたいで気軽に行き来できるようオープン階段によって結ばれています。
多様な分野の研究者を磁石のように引き付け、交流の機会を増すことで新たな発想やアイデアを生み出す場所となります。
今後も進展する超高齢社会においては、心不全や老衰が死因として増える傾向にあります。過去10年において急速に進歩した診断・治療技術に加えて、予防やケアの技術をさらに進化させる必要性が示唆されます。
iCONMでは「スマートライフケア社会」の実現に向けた研究を推進しており、その中核となる技術が「体内病院」と「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」です。体内病院とは、スマートナノマシン(ナノサイズの新しいタイプの薬)を体内に循環させ、異常の検出から診断、治療まで全てが一連のプロセスとして体内で行われる仕組みです。がんや心臓病のような重大な疾患が、患者さんも知らないうちに健康を回復できる未来を目指しています。さらには、2022年から始まった国家プロジェクト"CHANGE"では、看護と工学を連携させて超高齢社会に即したケアイノベーションの創出を進めています。
ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは、薬を効率よく体内の必要な場所に安定して届ける技術です。例えば、ナノマシンを使えば、抗がん剤をがん細胞だけに届けることができます。また、最近では、難治がんに特有のバリアシステムも突破できるようになり、現在治療が難しいタイプのがんにも効果を発揮することが動物実験で実証されています。ナノ医療の特長を活かし、患者さんへの負担がより少なく、医療経済的にもメリットがある治療法を目指すことがiCONMの使命だと考えています。
一方、科学技術の進歩と社会受容性の乖離については大きな課題と感じています。体内病院というアイデアを聞いた際、体内を何か得体のしれないものが循環していることを『気持ち悪い』と感じる人がいるのも事実です。どんな革新技術も、社会に受け入れられなければ実現は難しいです。私たちは科学者と地域や市民とのギャップを埋めるために、『ELSI(Ethical,Legal, Social Issues)』という観点での研究も進めており科学への興味や理解を深める活動を通じて、先端技術のいち早い社会実装を後押しする活動に取り組んでいます。
また、拠点である殿町キングスカイフロントは世界的な成長が見込まれるライフサイエンス・環境分野を中心に、世界最高水準の研究開発から新産業を創出する、官民一体となった革新的な研究拠点です。iCONM発の研究成果をもとに、関連ベンチャー企業等により実用化に向けた活動が展開されています。iCONMが中核拠点となって、このような活動を内外に発信しキングスカイフロントの価値向上に努めていきたいと思います。
標的臓器に薬を届けるスマートナノマシンを開発するうえで、設計したナノマシンが体内のどこに集積するかを確かめる動物実験は非常に重要です。私たちの動物実験施設では、マウスやラットを使ってバイオディストリビューション(生体内分布)、つまり動物の体のどこに投与した薬剤が届いているのかを追跡する実験を行っています。そのためには動物の様々な臓器を採材して、それに対して色々な解析を行います。
特にマウスの体重は全体でも20~30グラムですので、そこから非常に小さい、例えば副腎などの臓器の計量はミリグラム単位のオーダーで測定ができないといけません。各臓器に集積している薬剤の量の臓器全体に対する割合を出すために、元々の臓器の重量を正確に測ることは非常に重要で、天びんには精度が求められます。特に動物に移植した腫瘍はサイズがサンプルごとに全然違うため、天びんで正確に測れていないと、後のデータ自体に意味がなくなってしまいます。
また、解剖中はどうしても手袋が汚れてしまいますが、その状態で天びんの風防の開け閉めをしていると非衛生的です。今回、臓器の計量を行う電子天びんを検討するにあたり、タッチレスセンサーによって風防の自動開閉が行えるAP-ADが最適だと感じ購入の決め手になりました。 iCONMは海外からの研究員が多く、導入前に天びんのデモを実施した際も色々な国の方に実機を見てもらいましたが、どなたにも大好評で大変盛り上がりました。
臓器の計量はこれまで時間がかかる作業でしたが、AP-ADを導入してから作業効率が大幅に上がりました。応答速度が速いだけでなく、安定性も素晴らしく、また表示値のゼロ戻り性能が優れているので、次々とサンプルを測定していけます。
また、天びんの左右のセンサーに割り当てる機能を自由に設定できる点が便利ですね。特に、薬物の体内動態実験の際には、多数のマウス臓器を正確に秤量する必要があります。天びんの左右に研究員を配置し、一人が計量し、もう一人が計量値を記録してその臓器を次の作業に回すといった工夫を凝らし活用しています。正確な分析にはサンプルとなる臓器が新鮮であることも重要となるため、実験には研究者の作業スピードも求められます。毎回1匹のマウスの臓器が5~10個ほどあり、1日に約20~40匹の研究を行うとなると、百個から数百個の臓器を計量する必要がありますが、AP-AD導入によって1件体当たりの作業時間は半分近くにまで減らすことができました。
別の実験室ではDDS開発における薬剤の比率測定にAP-ADをもう1台使用しています。ナノサイズのポリマーは静電気の影響を受けやすいので計量が難しい部分がありましたが、天びんに標準で内蔵されているイオナイザがあるので、静電気を除去し、正確な微量計量が可能になり助かっています。
写真:表示部の左右にあるタッチレスセンサに手をかざすことで風防扉の自動開閉ができ、スムーズな計量作業が行えます
計量データを無線でPCに出力する機能があると作業効率がさらに向上すると思います。また、研究員ごとにオートドアの開閉方法を設定し、ログインしたユーザー別に機能を固定できるような仕組みも便利だと思います。研究者目線だと防水機能のついた天びんや、ディスプレイが外置きになっていて見やすいデザインがあれば、現場で更に使いやすくなると思います。
CHANGEプロジェクトの関連ですと、寝たきりのひと向けの体重計も欲しいです。寝たきりの人も増えており、体重を測るのが大変なんです。ベッドにいながら体重を記録できるものがいいですね。今もそうした装置はありますが、高価で導入が難しいため、もっと手頃な価格で実現できる技術が現場から望まれています。
実は、現在島津製作所に協力いただき、LCMS-9050でマウスの脳と肺の切片を観察し、ナノマシンがどこまで届いているか確認してもらっています。大型装置の購入にはいきなり踏み込めない中で、島津の装置を使って分析いただけてることは有難いです。キングスカイフロントで島津製作所さんと連携して研究を進められることはとても価値があると感じています。分析手法やアプリケーションの提案などもいただき、大変感謝しています。キングスカイフロントでの官民一体となった活動を発信していき、そこに賛同するベンチャー企業様などの入居も今後楽しみなところですね。
iCONMのセンター長 片岡一則はクラリベイト引用栄誉賞を受賞するなど、ノーベル賞受賞候補者ともなっていますが、万一ノーベル賞を受賞しましたら、島津の田中耕一さんとキングスカイフロントでぜひ対談させていただきたいです!
■ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)様では、タッチレスセンサーや内蔵イオナイザを備えたAP-ADをご活用いただき、研究効率の向上と衛生的な計量環境の実現にお役立ていただいております。また、同じキングスカイフロントという拠点に位置することで、技術連携を通じて、未来医療の実現に向けた取り組みに貢献できていることを大変光栄に感じております。
体内病院やドラッグデリバリーシステム(DDS)といった革新的な研究を推進される中で、AP-ADが臓器の計量や薬剤の微量測定といった重要なプロセスを支える装置として選ばれたことは、私たちにとって大きな励みです。iCONM様のような最前線の研究現場からいただく貴重なご意見をもとに、製品開発をさらに進めてまいります。
キングスカイフロントにおける官民一体の活動を通じ、今後もiCONM様とともに革新的な医療技術を社会に届ける一助となれるよう努めてまいります。この度は貴重なお話をありがとうございました。