微生物を活用した脱石油製品を

国立研究開発法人理化学研究所

  • 分野

    バイオマス

  • キーワード

    アミノ酸 微生物 脱炭素製品

  • 紹介する製品・サービス

    LCMS-8050, GCMS-QP2020 NX, Nexis™ GC-2030, i-Series

「バイオものづくり」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか?
バイオものづくりとは、遺伝子技術を利用してものづくりを行うことをいい、例えば微生物が生成する目的物質の生産量増加や、新しい物質の生産への応用が期待されています。さらに、資源自律や化石資源依存脱却につながり、海洋汚染、食糧・資源不足など地球規模での社会的課題の解決と経済成長との両立を可能とする分野として、世界中で研究が進められています。
今回は、微生物を活用して脱石油製品をつくることを研究されている、国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター細胞生産研究チーム 白井智量上席研究員にお話を伺いました。

Customer

白井 智量(しらい ともかず) 上席研究員

白井 智量(しらい ともかず) 上席研究員

環境資源科学研究センター
細胞生産研究チーム

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

国立研究開発法人理化学研究所

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研究内容についてお聞かせください。

研究内容について

大学4年生からはじめた研究が、アミノ酸を生産する微生物の研究です。微生物が餌である糖分を取り込んで発酵させ、アミノ酸の一種であるグルタミン酸をつくりました。
この発酵には15~20種類程度の代謝(化学反応)のステップを経ています。ただ、微生物にはこのグルタミン酸を作るだけでなく、生命を維持するために、さまざまな化学反応の経路(代謝経路)を持っています。当時明らかになっていなかった、これらの経路について、定量的に解析することが必要でした。

発酵槽試験によるグルタミン酸生産試験

出典 国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター

 

複雑な代謝反応の経路を調べるために用いられる手法が「代謝フラックス解析」です。これは、炭素の安定同位体13Cで細胞にラベルをつけて、細胞内の代謝反応の流れや分岐、速度などを把握するもので、これを定量的に把握するために、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)や核磁気共鳴装置(NMR)を用いて分析します。さらに、細胞の副産物を調べるために高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使用します。私たちの代謝解析や細胞を使った実験・モノづくりには解析が不可欠であり、そのために分析機器は欠かせないものであり、それは私の研究開始当初からこれまで全く変わっていません。

微生物から脱石油製品を

グルコースからイソプロピルアルコール(IPA)を生成

グルコースからイソプロピルアルコール(IPA)を生成
出典 国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター

大学時代からこれまで、私の研究対象は当時のアミノ酸の生産から現在の脱石油製品の原料に置き換わっていますが、基本的なことは大学時代から全く変わっていません。
大学院から研究員を経て三井化学株式会社に就職し、大腸菌を使ってポリプロピレン(PP)の原料となるイソプロピルアルコール(IPA)を作る技術開発をしていました。
その後、プロピレンをダイレクトにバイオで作ることができる研究を進めるために現職である理化学研究所に入所しました。

石油で作られていたものを、生物由来のバイオマス資源で作るという新たな挑戦には、脱水酵素、酸化酵素、脱炭酸酵素などの酵素の化学反応のパターンを使うことになり、天文学的な数になる組み合わせの検討を人間の頭で行うことは非常に困難で膨大な時間がかかります。そこで、このパターンにもとづいた代謝反応の予測設計を自動でできるシミュレーションツール「BioProV(バイオプロブイ)」を、約5年かけて開発しました。

シミュレーションツール「BioProV(バイオプロブイ)」が示す候補経路

シミュレーションツール「BioProV(バイオプロブイ)」が示す候補経路
出典 国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター

このツールをつかうことにより、酵素反応のさまざまな可能性を計算することができるだけでなく、計算で出された実験結果を学習させることができるようになりました。間違った反応は修正したり、起こり得ない反応は消したりなど修正が可能となることが最大のメリットです。ただし、コンピューターだけですべてが完結するわけではありません。
シミュレーションツールを使ってデザインされた経路をもとに酵素をつくり、酵母に入れるといったバイオの実験が欠かせません。ここで必要となるのが、分析技術なのです。

DBTLサイクル

DBTLサイクル

シミュレーションによりデザインされた経路をもとに酵素を作るバイオの実験が必須です。これを、合成生物学(Synthetic Biology)といい、その開発サイクルは、デザイン(D:遺伝子設計)・ビルド(B:微生物作成)・テスト(T:生産物質評価)・ラーン(L:学習予測)の頭文字をとって「DBTLサイクル」と呼ばれています。私の研究では、「BioProV」をはじめとした複数の設計ツールを活用して代謝経路の最適化を設計したデザイン(D)をもとに、実際に酵素を作るバイオの実験、ビルド(B)を行います。そしてテスト(T)で微生物により作り出された物質の効率を評価します。その結果から、ラーン(L)ではシミュレーションソフトに学習させて、さらに最適化した経路を設計できるようになります。私の場合は、応用生物出身であることから、全体を把握できることは強みの一つです。
すでに石油由来のプラスチック原料のみを使用することはヨーロッパで市場を失う可能性が出てきていることや、株主からの要望により環境対応が必要になるなど、バイオものづくりは喫緊の課題となっています。すべてのプラスチックを脱石油由来原料に置き換えることは、生産量や費用の面で難しいと思いますが、石油が採れない日本で、石油を使わなくても成り立つ社会のために研究を進めることは、研究者として私の使命だと感じています。

ご使用いただいている装置についてのご感想や、当社への期待について教えてください。

 

島津製作所の分析装置は、学生時代から使用しています。
高速液体クロマトグラフ(HPLC)では、他社製品では測ることができなかった実サンプルがきちんと計測できるなど、クーリングのシステムやコンタミがないなどの繊細な技術がその結果に結びついているのだと思います。また、パートの方や留学生などが分析することが多いことから、日本語はもちろん英語の対応が完璧であることや、メンテナンスの年間保守のコストや対応もとてもよく、満足しています。要望にも相談するとすぐに検討して対応いただけることもとても助かっていますね。
現在、合成生物学の開発において、「DBTLサイクル」の自動化の開発が検討されています。分析機器を持っている島津製作所には、T(Test)の部分でロボティクスを活用して進めていただきたいです。

島津製作所の分析装置は、学生時代から使用しています

 

実験室では、LCMS-8050、LCMS-8040、GCMS-QP2020 NX、GC-2030、LC-2040Plus など多くの当社製品をご活用いただいています。大変貴重なお話をありがとうございました。

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