超臨界流体抽出/超臨界流体クロマトグラフシステム Nexera UC

中外製薬 株式会社

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    Nexera UC

中外製薬株式会社 小竹様に超臨界流体抽出(SFE)/超臨界流体クロマトグラフ(SFC)システム「Nexera UC」ついてお話を伺いました。

今回はSFCとUHPLCを比較した際の有用性や,創薬研究におけるSFEの新たな活用法などのご提案を頂きました。

Customer

小竹 健一郎 様

研究本部 創薬化学研究部 機器分析グループ
小竹 健一郎 様

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

中外製薬 株式会社
URL http://www.chugai-pharm.co.jp/index.html

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インタビュー

SFC技術についてどのような興味をお持ちになり何がきっかけで導入されたのかお聞かせいただけますか。

私たちのチームは主に合成化合物の分析,精製を行っています。初めにSFCを導入した目的は分取用途で,省溶媒高スループットを期待して,2010年にセミ分取SFCシステムを導入しました。弊社ではメインのアキラル化合物でSFC分取の有用性が実証できたらさらに台数を増やす予定でしたが故障が多く事例もさほど重ねることができずにいました。そのような中2013年頃にあるプロジェクトにおいてキラル代謝物の分離精製が必要になりそのうちの一つがLCでは順相系でも逆相系でも分離せずSFCでしか分離できないことがわかりました。SFCでは簡単に分離できました。今後もこのような化合物が出てきて精度の高い分析が要求されることを想定し分析用のSFCを導入することを決めました。

その化合物がきっかけで他の化合物にも展開できるのではないかと考えられたのですね。

キラル・アキラルに限らず,LCで分離に手古摺るような場合に,別の選択肢として手軽にSFCが使えたら良いと考えました。

他にもSFCが優れている点はありますか。

キラル分離において優れた実績があるのは周知の通りですが,アキラル化合物の分析という点においても,分離選択性や保持・溶出において,LCと単に相補的である以上の手ごたえを感じています。私自身はSFCを使い始めてまだ半年ですが,従来逆相系で分析していた化合物をSFCで分析し,信じられないくらい分離が変わることに驚いています。これまでSFCを説明するのに「順相ライク」という表現を聞くことが多かったのですが,分離の結果を見ると,順相系とも明らかに違うところがいろいろあります。

SFCで順相用のカラムを使っても通常のLCの順相系の結果と変ってくるということですか。

信じられなかったのは,逆相系でボイドに出る化合物と,有機溶媒リッチなグラディエントの最後に出る化合物が,SFCで同じところに出てきたことです。順相系で試しても,逆相系で種々カラムを変えても,このような結果は得られないと思います。また,サンプル溶媒にDMSOが使えることも順相系の分析とは違います。順相系ではDMSOが保持してブロードになるため,分析に影響を及ぼします。

逆相系で保持が難しいものと逆に溶出が遅いものをSFCで試したら同じ時間で分析ができたということですね。

同じ保持時間というのは,分離に置いて好ましい結果ではありませんが,LCと分離選択性が大きく異なるということで,サンプルによっては,LCで分離しないものがSFCで何の苦もなく分析できる可能性があると思っています。また,高極性や疎水性によらず適度に保持をして,良好なピーク形状を与えるという点では,合成化合物について言えば,逆相LCよりも適用範囲が広いと感じています。さらにunified chromatographyの考え方で超臨界から100%モディファイヤーのLC状態までシームレスに切り替えることで,より幅広い分析サンプルへの適用が期待できるのではないでしょうか。

 

使われてまだ半年ということですがLCと比較してSFCの使い勝手や考え方はいかがでしょうか。

CO2ボンベを使うので,初めはLCとずいぶん違うと想像していたのですが,仕組みを理解すれば何のことはない,普段使っているNexeraやUFLC-XRと違いはありませんでした。見た目も変わりません。むしろ実作業という点では,正直言ってLCよりラクだと思います。移動相が全然減りませんし,分析レベルであればCO2ボンベ圧力も,少量加えているモディファイヤーも減るのが遅いです。LCに比べ移動相の残りをチェックする頻度が低くなっています。

LCユーザーにとってSFCは入りにくいイメージがあるようですが興味を持っている方々へのメッセージになりますね。では逆にLCやGCと比較して課題とかというのはありますか。

課題はやはり法規制により使用の範囲が制限されていることだと思います。日本においてだけ,使えるカラムが限られており,もどかしく感じています。また,逆相系LCにおけるODSカラム,水―アセトニトリル条件のような組み合わせ,つまり「ジェネリックメソッド」が,SFCでは見いだせていないことが課題としてあります。分離したい対象物を分けるのではなく,何でもそれなりに分離するメソッド,という意味です。逆相系の場合はODSカラムを使ってまず分離を見て,グラディエントを多少アレンジする,それで解決しない場合はカラムや移動相条件を振ってみるという流れがありますよね。SFCの場合は,ある程度分離が見込めるような,最初に試すべき条件がありません。もしそのような条件が見つかれば,今まで使っていなかった人も,取りあえず試してみようという気になるのではないでしょうか。今は,SFCではスカウティングをまずしなければならない,それがSFCの課題かもしれません。

選択肢が多い分検討が大変ということですね。

今回SFCといっしょにSFEも導入させていただきましたが,御社が,共同研究においてSFEを開発された本来の目的,を教えていただいていいですか?

 

SFEという技術はだいぶ昔からあるのですが溶媒抽出と比べてSFEのほうが溶媒の消費量が少なく短時間で抽出できる抽出後の溶媒が気化するためサンプルの濃縮が不要といった利点があります。そのSFEとSFCをオンラインで接続することで抽出から分析までを一気に自動化し多検体処理を可能としました。
DBSに血液を滴下して代謝物を分析するとか野菜の中の残留農薬を分析するとかそのような場合には完全にクローズな状態で抽出から分析まで行う不安定な抽出の工程で分解してしまうようなサンプルもそのまま分析できるという点は大きなメリットであると考えています。

御社ではSFEで今後はどのようなアプリケーションにチャレンジしたいとお考えですか。

我々がオンラインSFEを見てまず考えたのは,合成化合物の精製にどう使えるかです。LCもそうですが,よく課題として耳にするのは,サンプルを何に溶かすか,どのぐらい溶けるかという疑問や,サンプル溶媒がクロマトに悪影響を及ぼす,あるいは移動相とサンプル溶媒との溶解度の差で析出がおきて詰まる,装置が止まる,といった問題です。オンラインSFEであれば抽出されて溶けたものだけがカラムにロードされるので,サンプル溶媒を選ぶことなく,析出もなく分取できるのではないかと思いました。SFEの場合,注入液量ではなく,抽出時間でロード量も制御できるので,CO2への溶解度の低いものは時間をかけて抽出することでロード量を増やせますし,そうしなくてもスタックインジェクションのように何回も繰り返せばいつか全量分取できるので,サンプル溶媒に関するトラブルを気にすることのない安心できる分取装置になるのでは,と期待しています。調べたところでは海外でもこの手法の事例があるようですね。
また逆のパターンで,抽出した残りが純品ということも考えられます。粗精製品をSFE容器に入れておいて,CO2で洗って,蓋を開けたら精製品がドライな状態で得られる,こんなこともできたら面白いと考えています。

当社としてはSFEは目的物を抽出して分析するために開発していますが目的物を抽出するのではなく洗うという発想ですね。不純物を抽出して残りの部分を精製していくということですね。

Nexera UCは分析システムなので,抽出精製の検討はあくまでSFEモジュールの可能性を評価するに留まっています。CO2で洗う,に関しては,実際に試していて,ケースバイケースだということが分かっています。
当然ながら目的成分とその他不純物成分のCO2への溶解性に依存するところになりますので,やはり抽出精製の機能と,洗う機能が一体となって初めて有用な精製装置になるのかなと考えています。このシステムの開発を是非御社に期待したいところですね。

進めていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
この業界では他社もSFCを発売していて島津は後発なのですが今回当社のNexera UCを選んでいただいた理由をお聞かせ願えないでしょうか。

SFCはスクリーニングありきということで,カラムを頻繁に取り換えることを気にしており,最初は選定のポイントをカラムオーブンの仕様,カラムの本数やカラム交換のしやすさに置いていました。そうなると他社の製品も可能性があったのですが,御社の場合フレキシブルでカラム交換などのしやすい配管を採用されていたので,そこの懸念点はクリアになりました。さらに決定的な選定ポイントとなったのは,Nexera UCはLCとSFCを切り替えて使えるということです。SFCだけを買って,結局SFC使えなかったね,ということにはしたくありませんでした。
今後広まっていくことが予想されるMSのフロントとしても,LCと共用できる方が好ましいのではないでしょうか。個別のシステムだと,2台分のスペースが必要ですし,システムや配管を繋ぎ替えて,あるときはLC,あるときはSFCをMSに接続するのは面倒に感じると思います。
移動相ブレンディングの機能も重宝しています。現在の標準のモディファイヤーは10mMギ酸アンモニウムメタノール溶液ですが,メタノールと100mMギ酸アンモニウムメタノール溶液を9:1でブレンディングすることで使用しています。おかげさまで,SFCも面白い結果が出ています。その装置を使って,環境設定も変えずにLCにも切り替えて測定できるので,広い範囲の用途に使える装置として稼働しています。

装置の稼働率は高いほうですか?

はい。Nexera UCを導入して以降,事あるごとにSFCの結果を示してアピールするようにしています。そうなってから,周囲のSFCに対する認識も変わりつつありますね。また分析システムとセミ分取システムを分けたことで,SFC分取の効率も上がりました。

今回導入いただいた装置は1台でふつうのLCとSFCとオンラインSFEの3つができるシステムなのですがいちばん使用頻度が高いのはどれでしょうか。

LCモードは他のLC装置でもできますので,今はSFCが中心です。SFCでもSFEでも試したいことが山のようにありまして,SFCで使用し,余裕があったらSFEの検討をするという使い方です。SFCとLCを連続的に切り替えながら使用するということも,今後早急に検討したいことの1つです。

SFEの使い勝手はいかがでしょうか?今までのクロマトとは違いますか。

使い勝手というところでは,流路を理解し,一度メソッドさえ組んでしまえば,あとはスタティックとダイナミックの時間をどう変えるかだけなので,そんなに複雑ではありません。通常の液体注入のオートサンプラーに,さらにSFEを加える場合,システムボリュームがさら180uL増えることは留意点かもしれません。抽出容器もサンプルの形態によって抽出効率が異なると思うので,その点の改善がされていくとなお良いと思っています。

ご意見ありがとうございます。抽出容器の改良も含め改善案をご提案できるよう検討します。
Nexera UCの優れている点はありますか。

Nexera UCが優れている点になるかどうかはわかりませんが,SFCという技術は再現性が悪い,と聞いていたので,そういうことが起こるのをこの半年間心配しながら使っていました。結果からいうと何も起きなかった,ということですね。1~2ヶ月前に測定したものが,きっちり再現がとれていたというところを見ると,SFCはLCと同じ感覚で使えるのだなっていうのがわかったということから,このNexera UCシステムが優れたところなのかなと思っています。

再現性は心配したほど悪くないということですね。基本的にポンプの作り方やユニットは普通のLCと同じです。唯一違うのはCO2を送るポンプヘッドですが一定温度になるようなフィードバックをかけるのでそのようなことが効いて再現性が良いのではないかと思います。またBPRが変動すると再現性に影響するのですが当社のBPRは基本的に圧力の変動がほとんどありませんのでそれが再現性の高さにも寄与していると思います。

S/NがLCより悪いという点は原理的に仕方がないのでしょうか。この問題点が改善されると,より多くのクロマトユーザーがいる開発や品管部門でも興味を持ってもらえると思うのですが。

そうですね。SFCではどうしても耐圧セルを用いるので屈折率の影響がより顕著になってしまいますがデータ処理の機能で吸収のない領域のクロマトグラムで減算処理する機能が当社LabSolutionsに搭載されていますのでその機能を用いることである程度ノイズを抑えることが可能です。また屈折率の小さい検出器セルの改良など今後もシステム全体でS/NがよりLCと遜色ないレベルになるよう検討を進めて行きたいと思います。

ソフトウエアはいかがでしょうか。メソッドスカウティングについてもお聞かせいただけますか。

カラムや移動相を切り替えて使用するので,メソッドスカウティングによってメソッド管理の手間が著しく軽減されたのはありがたいです。現状は手探りの状態ですので,LabSolutionsの方をメインで使用していますが,メソッドスカウティング機能がLabSolutionsからでも使用できるのは助かっています。グラディエント,カラムポジション,ブレンディング比率を変えても,メソッドは1つで済みますから。

弊社のサポート体制に関してはいかがでしょうか。

サポート体制はいいですよ,対応が早いです。富士御殿場研究所では初めてのSFC導入でしたので,不安な点も多かったのですが,まず丁寧に要点を説明していただきました。導入後も液体ではなく超臨界流体,ガスを使用するということで,リークの有無などでよくわからないことがありましたが,そういう点についても,電話や直接の来訪で的確な対応をしてくださいましたので,不安に感じませんでした。

ありがとうございます。弊社全体に関するご意見ご要望などもあればお聞かせください。

御社は日本企業ということで,我々日本のクロマトユーザーの言葉が製品開発にまで影響を与えることができ,我々にとっても意見しがいがある,と思っています。その結果が,ソフトウエアについて言えば,メソッドスカウティング,OpenSolution,SharedBrowserなどのアドオンソフトの充実もそうですし,LabSolutions自体の測定解析のユーザビリティの向上に表れていると思います。またiPDeAやiDReCのようなユニークな解析手法がバージョンアップするだけで過去のデータも含めて適用できます。新ピーク検出アルゴリズムiPReC Finderも,人のマニュアル解析に近づけ,より高い自動解析の満足度を実現するもので,日々の解析作業の負荷軽減に役立っています。iPReC Finderについては,開発の経過に触れる機会があったのですが,ベテラン開発者の方の,設定値をユーザーが都度いじることなく理想の自動解析を実現させるという職人的な強い拘りと,若手開発者のそれを何としても実現しようという意欲がうまく噛み合っているように感じられ,嬉しく思ったことを覚えています。同様に装置開発担当の方とも,最近は良いコミュニケーションができているのかなと思います。
ただ要望が通りやすいことについて,弊害も出ることも懸念しています。あるユーザーと別のユーザーとのニーズが似て非なるものであったり,完全にコンフリクトしている場合に,両者を実現しようとして似たような機能を両方実装してしまったり,コンフリクトを解消するために新たな機能・画面追加や装置・ソフトそのものを開発したりなんてことがあるのかなと。声の大きなユーザーの細かい要望や自社特有の課題の解消が,声の小さいユーザーの汎用性のある要望に先んじないように,多くのユーザーの要望を俯瞰し,ユーザーの意見はしっかり聞くけど,島津のあるべき方向性はこれです,とブレずに示して進めていっていただきたいと思います。

ありがとうございます。他には何かご要望はございますか。

SFCの分取システム,これを,島津さんから早く発売してください。そしてその分取SFCシステムにSFEが付いているとうれしいです。

オートサンプラーとしてのSFEということですね。

そうですね,また海外ではよくあるようですが,パラレルでスクリーニングをかけるというような方法も,スループット向上に役立つのでいいと思っています。

承知しました。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

インタビュアーコメント

Nexera UCはこれまでのHPLCとは異なる分離特性を示すことがあるため,HPLCでの分析でお困りのお客様に新たなソリューションを提供できる可能性を秘めております。
また,今回中外製薬様に導入頂いたシステムは,SFCのみならず,UHPLCやSFEとしてもお使いいただくことが可能な一台三役のシステムとなります。
今後も多様な用途でも順調にお使い頂けるようサポートさせて頂くとともに,お客様のご要望にお応えできるよう製品開発を推進して参りますので,どうぞ宜しくお願い致します。

Nexera UCシステム(超臨界抽出-クロマトグラフ分析システム)

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