HPLC 分析において、標準液や試料溶液の希釈調製は通常手作業で行われますが、このような作業には経験や知識が必要な上、手間と時間がかかることも少なくありません。このプロセスを自動化できれば、分析のスループットを大きく向上させることが期待できます。
ここでは超高速液体クロマトグラフ Nexeraシリーズのオートサンプラー SIL-40シリーズの前処理機能を活用して、標準液や試料溶液を自動希釈調製することにより、絶対検量線法による定量分析を省力化した例をご紹介します。
 

ユーザーベネフィット

  • オートサンプラーの自動希釈機能により、手動での希釈調製の手間が省け、業務効率化と生産性向上が図れます。
  • 同一のメソッドファイルを使用し、バッチテーブルで任意の希釈倍率を指定するだけの簡単な設定で、試料を自動希釈調製し、検量線を作成できます。
  • 希釈倍率に依らずメソッドファイルが1つなので、 HPLC条件を変更した際も設定や管理が容易です。

 

絶対検量線法における標準液・試料溶液の調製

HPLC による定量分析で広く用いられる絶対検量線法では、既知濃度の分析種標準液を数点調製し、これらを分析することにより、濃度とピーク面積あるいはピーク高さとの関係式、つまり検量線を得ます。そして、この検量線を用いて試料溶液を分析して得られたピーク面積あるいはピーク高さから分析種の濃度を算出します。この時、基本的に検量線は直線となる濃度範囲で設定し、試料溶液もその範囲に収まるように希釈操作などを行います。

このような場合、SIL-40シリーズ オートサンプラーの前処理機能を用いることにより、分析種標準原液のみをSIL-40シリーズ にセットするだけで、任意倍率の希釈標準液を自動調製して、そのままカラムへ注入することが可能となります。また、同様に試料溶液についても、試料原液を任意の倍率に自動希釈して注入することができます。

以下に絶対検量線法による緑茶およびコーヒーのカフェイン分析に応用した事例を示します。

希釈標準液の自動調製とカラムへの導入

以下の手順で、標準液を自動希釈し、カラムへ導入しました。(図1)
       

1)  カフェイン標準原液(250 mg/L、水溶液)を調製し、SIL-40シリーズ にセットする。
2)  このカフェイン標準原液バイアルから希釈率に応じた量を吸引し、混合用バイアル(空バイアル)に希釈液(超純水)と共に吐出する。
3)  混合用バイアルの中で、吸引吐出によるミキシングを行う。
4)  自動調製された希釈標準液を指定した注入量分だけ吸引しカラムへ導入する。
希釈標準液の自動調製手順
図1 希釈標準液の自動調製手順

前処理プログラム

メソッドファイルには、装置パラメーター、解析パラメーター、前処理プログラム等の情報が集約されています。前処理プログラムを使用することで、100倍以上の高い希釈倍率であっても設定可能です。また、バッチアドイン(図3)を併用することで希釈倍率によらず1つのメソッドファイルを使用するため、設定ミス等の人為的エラーを防ぐことができます。 希釈倍率や混合動作に関する条件はワークステーション LabSolutionsTMで設定します。オートサンプラーの前処理プログラムの設定画面とコマンドを図2と表1に示します。この時、自動希釈により得られる最終液量は100 µLです。

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図2 オートサンプラーの前処理プログラムの設定画面とコマンド

表1 前処理プログラムのコマンド(特許出願中)
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バッチテーブルの設定方法

バッチ分析のテーブルに、原液を入れたバイアルの場所や任意の希釈倍率を設定するため、SIL前処理変数というバッチアドインをLabSolutionsに事前に適用します*1。図3にバッチテーブルのSIL前処理変数設定画面を示します。SIL前処理変数のA0~A2の欄に、原液を入れたバイアルのプレート番号(A0)とバイアル番号(A1)、希釈倍率(A2)を設定します。自動希釈用(混合用)の空バイアルは、バッチテーブルのトレイ番号およびバイアル番号で指定した場所にセットします。図3と同様に、サンプルタイプ(標準)とレベル番号を設定すると、分析終了後に検量線が自動生成されます(別途、解析パラメーターの設定が必要です)。
*1 詳細については、当社へお問い合わせください。

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図3 バッチテーブルのSIL前処理変数設定画面

標準液の分析結果

表2. 分析条件
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カフェイン標準原液をSIL-40シリーズ を用いて、1/500、1/200、1/100、1/50、1/20、1/10 および1/5 (各標準液の最終濃度 0.5 mg/L、1.25 mg/L、2.5 mg/L、5 mg/L、12.5 mg/L、25 mg/L および50 mg/L) となるように自動調製した希釈標準液を分析しました。
分析条件を表2に示します。混合用バイアルには1.0 mL ポリプロピレン製バイアルを、原液(標準および試料)バイアルには、セプタム付きバイアルを用いました。希釈液には、リンス液*2の超純水を用いました。
1/100となるように希釈したカフェイン(自動希釈後の濃度:2.5 mg/L)のクロマトグラムを図4に、標準液の分析結果より得られた検量線を図5に示します。オートサンプラーの自動希釈機能を用いて、カフェインの検量線を作成したところ、寄与率(r2)は0.999以上と良好な直線性が得られました。
*2 マルチリンス機能を搭載したシステムについては、オートサンプラーの装置パラメータ設定で指定したリンス液を使用します。

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図4 カフェイン標準液のクロマトグラム
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図5 カフェインの検量線

250 mg/Lのカフェイン水溶液を超純水で500倍に自動希釈した標準液(自動希釈後の濃度は0.5 mg/L)の6回繰り返し分析を行いました。表3にカフェインの保持時間と面積の再現性(%RSD)を示します。

表3 標準液繰り返し再現性結果 (%RSD)
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試料溶液の分析結果

標準液と同様に、SIL-40シリーズ の自動前処理機能を用いて、試料原液(緑茶およびコーヒーを0.2 μmメンブランフィルターでろ過)を1/100 に自動希釈して分析を行いました。

緑茶のクロマトグラムを図6 に、コーヒーのクロマトグラムを図7 に示します。

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図6 自動希釈した緑茶のクロマトグラム
(希釈倍率:100倍)
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図7 自動希釈したコーヒーのクロマトグラム
(希釈倍率:100倍)

成分含有量の自動計算および出力

バッチテーブルの希釈率セルに含有量を計算したい試料の希釈率を入力すれば、分析結果(濃度)には、自動希釈分析し得られた濃度ではなく、本来の試料に含まれる成分含有量としての濃度を表示することができます。図8にバッチテーブルの希釈率およびレポート自動出力設定画面を、図9に緑茶分析を例に自動出力したレポートを示します。

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図8 バッチテーブルの希釈率およびレポート自動出力設定画面

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図9 レポート自動出力例(緑茶分析結果)