獺祭の「感動する酒」はどう生まれるか?
島津ガスクロマトグラフ70周年記念ユーザーインタビュー
日本酒ブランド「獺祭」を手がける株式会社獺祭。
本インタビューでは、品質を極める酒造りへのこだわりと、その裏側で支える分析技術の役割についてお話を伺いました。
伝統と科学が融合する現場で、どのように新たな価値が生み出されているのか。その取り組みに迫ります。

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株式会社獺祭
製造部 イノベーション研究室
影井 了 氏私たちは、売るためでなく味わうための、心から美味しいと感動していただける酒を造るように努めています。
インタビュー内容
1. 酒造りへの想いと原点

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──現在、どのようなお仕事を担当されていますか。
現在製造部のイノベーション研究室に所属しています。主な業務は、醸造現場へ導入できる新たな技術の選定、および獺祭新生シリーズに使用するエクソソームの製造です。経験や勘といった伝統的な酒造りの現場を大切にしながら、世の中にある技術をいかに品質向上に繋げられるかを考え、そのための検証から現場への実装までを担当しています。
──日本酒づくりの業界に入られたきっかけや背景について教えてください。
根底にあるのは食への探究心で、美味しいものやお酒には以前から強い関心がありました。酒造りの世界を意識したのは、初めて自分で日本酒を購入して飲んだ時です。そのお酒がたまたま獺祭で、一口飲んで感じた美味しいという純粋な感動と、その品質の高さに驚き、日本酒造りという仕事に強く興味がわいたのを今でも鮮明に覚えています。
2. 獺祭が追求する品質とは
──獺祭様の酒造における品質へのこだわりを教えてください。
私たちは、売るためでなく味わうための、心から美味しいと感動していただける酒を造るように努めています。そのため、各工程において品質を優先し、手間を惜しみません。また、お客様が飲まれるまで品質が維持されるように、責任を持って日々改善を行っています。
3. 分析技術がもたらす変化
──獺祭様は数値やデータに基づいた酒造りを行なわれていますが、分析装置はどのような役割を担っているのでしょうか。
高品質な酒造りを継続するにはデータによって再現性を高めることが必要です。客観的な数値を基にして、感覚的な部分を共有し、判断の基準も可視化する上で迅速かつ精確な分析装置は欠かすことができません。
──GCを導入いただいた目的や、当初期待されていた点を教えてください。
日本酒の大きな魅力である香りにおいて、品質管理と向上をさらに突き詰めたいと考え、導入に至りました。味覚については以前からいくつかの指標を活用してきましたが、香気成分に関しては、これまで個人の感覚に頼る部分が主軸となっていました。人の感覚では、特定の香りを強く感じた際、それが成分の絶対量として多いのか、あるいは他の成分とのバランスによって相対的に際立っているのかを正確に判別するのは困難です。分析データを基に、これまで曖昧だった個々の感覚を客観的な指標で共有し、品質向上のアプローチを探る手がかりにしたいと考えておりました。
──GC導入後、酒質管理や開発、社内の取り組み方などに変化はありましたでしょうか。
導入後、社内では香りに関する議論が格段に活発になりました。共通の客観的指標があることで、以前よりも具体的な議論ができる機会が増えています。分析結果と自分の感覚を照らし合わせると、一致することもあれば、成分によっては感覚と相反する結果が出ることもあります。現在はまだ試験的な段階ですが、この感覚とのギャップがある箇所には品質向上のヒントがあり、探求していくことで酒造りの奥行きをさらに深めてくれていると感じます。
4. データが拓く日本酒の未来
──海外市場やグローバル展開において、分析データが果たす価値について、どのようにお考えでしょうか。
分析データは世界共通の言語でもありますが、その真の価値は、海外のお客様やパートナーとの間に誠実なものづくりへの信頼を築くことにあると考えます。日本酒という文化に初めて触れる方々にとっても、精密な分析に基づいた徹底的な品質管理は、大きな安心感へと繋がります。データそのものを前面に出して語ることは少ないですが、品質のために細部まで徹底する私たちの姿勢は、言葉や文化の壁を超えて必ず通じるものだと考えます。 この見えない積み重ねによって守られた最高の味わい。その確かな感動を支える揺るぎない土台として、これからもデータは価値を持つと考えます。
──分析装置を活用した、今後の獺祭様の製品開発や品質づくりの展開について教えてください。
圧搾や移送といった外部からの物理的影響をはじめ、各工程の作業が香気成分にもたらす影響を把握し、品質の底上げを図ります。また一般基準より厳格に管理しているジアセチルについても、官能試験と併せて基準を最適化することで、狙い通りの酒質をより確実に実現できる体制を目指していきたいと思います。
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──今後取り組んでいきたいテーマや、現在感じておられる課題があればお聞かせください。
今後の課題は、麹の質や発酵過程における温度推移、糖濃度などが、最終的な香気成分に及ぼす影響を正確に把握し、品質管理へと活かすことです。日々の測定において異常値や予兆が見られた際、その真因を捉えて速やかな改善に繋げたいと考えていますが、最終的な成分として顕在化するまでに諸条件が複雑に絡み合うため容易ではありません。攪拌などの物理的な影響とは異なる、目に見えにくい効果を、蓄積したデータと多角的な解析によって紐解くことが必要と考えます。

──次に挑戦してみたい日本酒造りや、新たな取り組みがあれば教えてください。
自社酵母の開発と低アルコール日本酒の製造です。自社酵母の開発に関してはGCによる香気成分の精密なプロファイリングが不可欠です。感覚的な評価に頼るだけでなく、特定の香り立ちを実現するための成分構成を科学的に裏付け、狙った個性を備えた酵母の選抜に繋げたいと考えます。また、低アルコール日本酒は重要なテーマですが、単に度数を下げるだけでは味わいの骨格が崩れ、物足りなさが生じてしまうのが課題です。ここでも分析機器を活用し、どのような成分のバランスが飲み応えに寄与しているのか解析、アルコールに依存せず、味わいの厚みが保たれた日本酒が造れたらと考えます。
──獺祭として目指している将来像について、お聞かせください。
私たちは売上高1,000億円という目標を掲げていますが、その本質は数字の達成ではなく、世界中で獺祭が日本のプレミアムブランドとして認められた結果であると考えています。そして、美味しいお酒を造るだけでなく、世界中のお客様へ確実にお届けできれば成せると考えます。そのために、製造量が増えても品質に妥協するのではなく、むしろ品質をさらに向上させていき、国境や文化を超え、一杯の獺祭が世界の日常に溶け込む未来を目指し、品質の極みを追求し続けてまいります。
──今後の日本酒業界全体において、分析技術はどのような役割を担っていくとお考えでしょうか。
最終的に人を感動させるのは、造り手の情熱であり、お酒が持つ味わいそのものです。しかし、その感動を偶然から必然へと変え、持続可能な文化として世界へ広げていくために、分析技術は重要な役割を持つと考えます。技術によって可視化されることが増えるにつれ、私たちはより自由に理想の酒質を追求し、より遠い未来へ日本酒の可能性を広げていけるのだと考えています。
──島津製作所の分析装置に対して、今後期待される機能や性能があればお聞かせください。
分析機器の自動化がさらに進み、専門的な知見の有無にかかわらず、誰もが自在に使いこなせる身近な存在になることを期待しています。現状、分析やデータの解釈には専門知識が欠かせませんが、AIが分析機器と現場の架け橋となり、直感的かつ対話形式で準備から解析までが可能になれば、心理的なハードルも下がり、より多くのスタッフが分析に携わることができるようになると考えます。それにより、さらに活発な議論が行え、全体の知見が深まると思いますので、感度や迅速性等の進化も期待していますが、次に打つべき一手を指し示すナビゲーターとしての要素が強まることを期待します。
──島津製作所に対する第一印象と、実際にお付き合いを重ねる中での印象の変化があれば教えてください。
分析機器の導入において、専門知識の不足もあり、求めていることをどこまで実現できるか不安でした。しかし、相談の中で酒造り特有の複雑なプロセスを深く理解しようと努めてくださり、技術的な裏付けを持った的確なサポートで、最適な提案をしてくださいました。こちらが直面する課題に対しても、伴走してくださる姿勢は非常に心強く、共創パートナーとしての信頼が深まりました。
──GC70周年を迎える島津製作所に向けてのメッセージや、今後の分析機器全般への期待があればお願いいたします。
GC 70周年、誠におめでとうございます。1956年に国産第一号機を世に送り出して以来、長きにわたり日本の分析技術を牽引し、支え続けてこられたその歩みに深く敬意を表します。これからも分析機器業界をリードする先駆者として、私たち造り手に新たな視点を与え続ける存在であってほしいと願っています。さらなる飛躍と、次なる大きな節目に向けた挑戦を心より応援しております。






