Nexis GC-2060 開発者インタビュー

 

開発者インタビュー

島津ガスクロマトグラフ70周年の集大成として登場した Nexis GC-2060。世界最高レベルの感度を持つ検出器(FID・TCD)や、新開発のマルチモード注入ユニット(MMI)を搭載した本機は、どのような想いと挑戦から生まれたのでしょうか。開発メンバーに、その開発秘話を聞きました。

新製品Nexis GC-2060-GC誕生70周年の集大成

――まず、GC-2060を一言で表すと?

(福島)マルチモードGCです。従来のGCで拡張性という時、それは⾊々なオプションが複数台搭載できるという意味でした。GC-2060は従来の拡張性をさらに進化させ、1台のシステムでさまざまな分析ニーズに対応できる新しい価値を提供します。例えば、FID/MMIには5つの動作モードがあり、装置をほとんど組み替えることなく、分析対象やワークスタイルに合わせて最適なモードを選ぶことができます。

GC-2060

Nexis GC-2060 ― The Next Industry Standard

Nexis GC-2060は70年の技術の積み重ねを経て不朽のスタンダードを確立した、島津の最新のフラッグシップGC。さまざまな分析要望に答えるマルチモード注入ユニット(MMI)や世界最高レベルの感度を持つ新型FIDやTCDを搭載。これまで顧客と共に培ってきた島津GC技術の集大成であり、高い信頼性と革新性の両面を持ち合わせ、時代を超えて頼れるパートナーとしてユーザーと業界の発展に貢献する。
 

――この製品はどのような課題やニーズから⽣まれたのでしょうか?

  • 福島

    開発リーダー 
    福島 大貴

  • (福島)背景にあるのは、働き方の変化です。最近は人材確保や技術伝承が大きな課題になっており、限られた人員でより多くの成果を生み出すことが求められています。こうした背景から、多様な働き方に対応できる使いやすいGC、そして1台で幅広い分析ニーズに応えられるGCへの期待が高まっています。

――既存製品とはどのような違いがありますか?

(李)Nexis GC-2060は、Nexis GC-2030の後継機にあたります。外観のサイズは、既存のNexis GC-2030から大きくは変わっていません。これは、お客様がすでにお持ちの——たとえばカラムや消耗品——をそのまま使い続けられるようにするためです。一方で内部は、心臓部であるオーブンをはじめ、MMI、FID・TCDなど主要ユニットの多くを刷新しました。MMIの冷却速度やTCDの立ち上がりの安定性などにより、分析の効率と安定性を既存製品より大幅に向上させました。

――開発はいつ頃から始まったのでしょうか。

(福島)技術的な難易度が高いFIDとMMIの開発を最初に始めました。2020年頃でした。

(中間)70周年に発売する装置に搭載する検出器は、競合製品はもちろん、島津が70年にわたり培ってきた技術の到達点をも超える、世界最高レベルを目指したいという思いから、従来の延長線上の改良だけでは難しいとも考えていました。そのため最初から「フルモデルチェンジをする」という前提で開発をスタートしました。

開発での苦労 ~性能と使いやすさを両立するための挑戦~

――MMI開発で最も苦労したことは何ですか。

(李)MMIは、液体サンプルを気化して注入するためのユニットです。1台で複数の気化モードに対応できることが特長ですが、開発で最も苦労したのは、それぞれ異なるモードで求められる性能を高いレベルで両立させることでした。というのも、モードによって重視される性能が大きく異なるからです。あるモードでは「温度の均一性」が重要である一方、別のモードでは「高速昇温」が欠かせません。
しかし、この二つの要求は本来相反するものです。温度を均一に保つには熱容量を大きくする必要があります。一方で高速昇温するには熱容量を小さくしたい。従来の技術では、この両立は容易ではありませんでした。
そこで、私たちは空気そのものを断熱材として活用する新しい発想に着目しました。加熱時は空気を閉じ込めて保温し、冷却時は空気を流して効率よく熱を逃す。 この仕組みによって、高速昇温と温度均一性の両立を実現することができました。その結果、すべてのモードで専用の注入ユニットに匹敵する性能を達成することができました。特にSPLモードでは、従来は数十分を要していた冷却時間を数分まで短縮しています。1台で幅広い分析ニーズに応えながら、高い分析性能と作業効率を両立できたことは、大きな成果だったと感じています。

 

  • MMIチームリーダー 李 思旭

    MMIチームリーダー
    李 思旭

  • マルチモード注入ユニット(MMI)


    新たに開発された MMI は、通常のスプリット/スプリットレス分析に加え、大量注入、全量導入、さらには熱脱着・熱抽出など、多彩な注入モードに対応します。これにより、分析の可能性と操作性が大きく向上します。

       MMI

――FID開発で印象に残っているエピソードはありますか。

(中間)あります(笑)。今回フルモデルチェンジした新型FIDは、性能を担保するために曲げにくい特殊なケーブルを使用する必要があり、従来のFIDで使用していた柔軟なケーブルを使うことができませんでした。そのため、そのままではGC本体への搭載が難しいという課題がありました。
行き詰まりを感じていたある日、実験室でメンバーの田中さんと雑談していたときのことです。「高電圧回路を分離して検出器の近くに配置すれば、特殊なケーブルを使う部分を最小限にできるのではないか」というアイデアが出ました。
ただ、その配置場所は非常に高温になる環境でした。通常であれば電子回路を置くような場所ではありません。しかし、条件としては非常に厳しかったのですが、「この方法しかない」という思いで挑戦することにしました。
その後、検出器開発担当、機械設計担当、装置設計担当が一体となり、回路への熱影響を抑えるために内部の空気の流れまで見直しました。その結果、拡張性を損なうことなく、高い性能を実現する新しいFIDを完成させることができました。
今回のFIDは、一つの技術だけで生まれたものではありません。多くの技術者や部門が力を合わせたからこそ実現できた開発だったと思います。

 

  • FID・TCD検出器

     

    FID・TCD検出器をフルモデルチェンジし、世界最高レベルの感度と安定性を実現しました。 ECD、FPD、FTD、BIDなど多彩な検出器にも対応し、幅広い分析ニーズに応えます。

       FID

  • FIDチームリーダー 中間 勇二

    FIDチームリーダー
    中間 勇二

――ソフトウェア開発で最も苦労したことは何ですか。

  • ソフトウェアチームリーダー 木本 泰裕

    ソフトウェアチームリーダー
    木本 泰裕

  • (木本)MMIには5つのモードがあり、お客様には「5つの新しいユニットが現れた」ように見えます。しかし装置の内部では、温度制御や流量制御といったひとつの制御に落とし込む必要があります。5通りの見せ方を中央の制御言語に翻訳し、モードを切り替えても設定を引き継ぐ——いわば「日本語→英語→中国語」のような変換を、複雑な流量計算と絡めて成立させなければならず、これまでの開発でも挑んだことのない複雑な仕事でした。開発の中心メンバーとともにホワイトボードを囲み、毎日のように議論を重ねました。「ユーザーにとって最も分かりやすい表示とは何か」UI もつくり込みました。マルチモードでありながら各モードの完成度が高い点は、この苦労が実を結んだ結果であり、自信をもってご紹介できるところです。

コストとの戦い ~高性能と適正コストを両立するために~

――今回の開発で、技術以外の面で苦労したことはありますか。

  • GC本体チームリーダー 佐々木 香澄

    GC本体チームリーダー
    佐々木 香澄

  • (佐々木)近年は鋼材価格や輸送費など、あらゆるコストが上昇しています。どれだけ高性能な製品でも、高価すぎればお客様に選んでいただけません。性能だけでなく、コストとのバランスも重要でした。
    一つの部品に複数の役割を持たせる。部品点数そのものを減らす。組み立てやすい構造にする。そうした工夫を積み重ねても、目標コストに収めるのは簡単ではありませんでした。
    従来の開発では、開発終盤になってコストが目標に収まらず、設計変更が必要になることもありました。GC-2060では、製品化の初期段階から工場部門の皆さんに協力していただきました。早い段階で高精度なコスト試算を行えたことは、開発を進めるうえで大きな支えとなりました。
    業者選定や生産手順についても一緒に検討していただきました。近年、工場では試作段階から量産を見据えた見積もりや部材手配ができるようになっており、そうした取り組みも今回の開発を大きく支えてくれました。

開発者たちが大切にしたいもの

――開発をする上で⼤切にしている想いを教えてください

(福島)私が大切にしているのは「バランス」です。GCは、化学、環境、食品、製薬など幅広い分野で使われています。当然、お客様から寄せられる要望もさまざまです。時には、相反する要求が出てくることもあります。分析性能だけでなく、安全性、コスト、ユーザビリティ、生産性など、さまざまな観点があります。さまざまな観点でバランスを取りながら、最適な落としどころを探すことが私たちの仕事だと思っています。

(木本)私が大切にしているのは、「モノを囲んで対話すること」です。ドキュメントだけでは、人によって思い描くものが違います。でもモノがあると全員が同じものを見ながら話せる。今回のGC-2060でも、試作品を囲んで何度も議論したことが品質向上につながったと思います。

(佐々木)私も実際の試作品を見てもらいながら意見をいただき、それを開発へ反映していくことを大切にしてきました。大変な面もありましたが、今回それが実践できてよかったと思っています。

(李)「あきらめない」ことだと思います。納期は常に大きなプレッシャーですが、それを理由にお客様の使い勝手を犠牲にすることは避けたいと考えています。限られた時間の中で最善を尽くし、あきらめないことを大切にしています。

70年の歴史を受け継ぎ、次なるスタンダードへ

――これまでのGCの進化の中で、今回の製品はどのような位置づけになるのでしょうか︖

(李)今回のNexis GC-2060は、お客様にご購入いただいた後も新機能を継続的にアップデートしていく、島津GCのフラッグシップモデルです。島津のガスクロは、これまでリリース時点の最新技術を取り入れたフラッグシップモデルを8~9年ごとに進化させてきました。一方、Nexisシリーズでは、カラムの自動エージング機能やガス・エネルギーの節約機能などを、GC導入後もソフトウェアアップデートを通じて継続的にお客様へ提供できるようになりました。今回のNexis GC-2060についても、導入後も進化を続けながら、これから先、世界最高レベルの分析性能と優れた分析体験を継続的に提供していきたいと考えています。

 

ロゴ

 

70周年記念ロゴに込めた想い

島津ガスクロマトグラフの誕生70周年を記念し、日本の伝統文化である水引をモチーフにロゴを制作しました。水引が持つ「結ぶ」という意味に、技術の継承と人・社会とのつながりを重ね、70年にわたり築いてきた信頼と革新の歩みを表現しています。一本の線が未来へと続く構成は、次の時代へ挑戦し続ける姿勢と、変わらぬ品質への想いを象徴しています。

 

――これまでのGCの歴史をどのように受け継いでいると感じますか。

(李)島津のGCは、この70年間、お客様や時代の要求に応えるかたちで進化を続けてきました。感度、信頼性、拡張性、ユーザビリティ――。求められる価値は時代とともに変化してきましたが、その時々の課題に応え続けてきた歴史があります。

(福島)私が入社して初めて開発に関わった製品はNexis GC-2030でした。その時に驚いたのが、これまで積み上げられてきた特許の多さです。
GC-2060の世界最高クラスの性能の裏側にも、多くの特許があります。今回の開発メンバーも、それぞれ新たな技術について特許出願を行っています。先輩方が築いてきた技術を受け継ぎながら、次の世代へつないでいくことができていると感じています。

G1A

当社ガスクロマトグラフ第1号「GC-1A」の前で撮影

――70年の進化の先にある「次のスタンダード」は何だと思いますか?

(福島)この70年でハードウェアの性能や拡張性において、確かなスタンダードを築いてきたと考えています。これからはお客様にとっての価値をさらに高めるべく、応用システムやソフトウェア、アプリケーションなどのサービスの品質においても新たなスタンダードの確立を目指します。そのためには自社の力だけでなく、他の会社とのコラボレーションも必要になると考えています。

(木本)今後は、GC-2060というプラットフォームの上に載せていく機能拡張・周辺システムとの連携が重要だと考えています。例えば私⾃⾝、数年前に購⼊したPCで最近AIのローカルモデルを動かしてみました。自分のPCから「こんにちは。何か御用ですか」と返ってきたときには、同じハードウェアでもソフトウェアによって価値が大きく変わることを実感しました。このように、同じハードウェアであってもファームウェアやソフトウェアの⾰新によって、お客様に届けられる価値そのものをアップデートしていくことができます。

(李)次のスタンダードは、GC本体の性能向上にとどまらず、前処理からデータ処理までを含めて、分析全体を自動化・最適化していくことだと考えています。
お客様の目的は、装置を操作することではなく、信頼できる分析結果を得ることです。だからこそ島津は、GCメーカーの枠を超え、お客様に分析ソリューションを提供するパートナーでありたいと考えています。

今回のインタビューは、島津製作所の創業の精神と技術の歴史を今に伝える「創業記念資料館」で行いました。長年にわたり受け継がれてきた技術と挑戦のDNAを背景に、開発者たちはガスクロマトグラフの進化の歩みと、その先に見据える未来について語りました。先人たちから受け継いだ技術と想いを礎に、ガスクロマトグラフの新たなスタンダードを目指し、これからも進化への挑戦を続けていきます。

 
 
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