人工光合成研究におけるGC-MSの活用
人工光合成研究におけるGC-MSの活用
光触媒と太陽光エネルギーを利用して高エネルギー物質を作り出す人工光合成の研究では,反応生成物の測定にGC,HPLC,吸光光度法等,様々な分析手法が用いられています。また,反応機構の確認・解明には,同位体ラベル化した試料を用いた実験が有効で,その測定には質量分析計が威力を発揮します。ここでは,メタノール環境下での二酸化炭素の光触媒還元反応において生成する一酸化炭素,メタノール,ホルムアルデヒド,およびギ酸などをGC-MSで測定した例を紹介します。
(1)13CO2を用いた光触媒還元反応生成物の確認※
光触媒による二酸化炭素の還元反応において,生成した一酸化炭素(分子量 28)をGC-MSで測定した例をFig. 1に示します。A はラベル化していないCO2(メタノール溶媒)を用いた実験系,Bは13CO2(メタノール溶媒)を用いた実験系におけるCOの抽出イオンクロマトグラムです。B では,m/z29 (13CO)でピークが確認できましたが,m/z28 (CO)にも同様にピークが確認されました。このことから,この反応では,二酸化炭素から生成した一酸化炭素は全一酸化炭素の一部であることが分かりました。同じく,13CO2からの反応生成物であるギ酸や,13CH3OH からの反応生成物であるホルムアルデヒドなどを測定することにより,光触媒反応の反応機構を推察することができます。
Table 1 一酸化炭素(CO)の分析条件
GC-MS | :GCMS-QP2010 Ultra | ||
カラム | :RT®-Msieve 5A(長さ30 m, 0.32 mm I.D., df=30 µm, RESTEK P/N 19722) + Rtx®-1 (5m, 0.25m I.D.,df=0.5 µm, 粒子トラップ) |
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[MS] | |||
[GC] | インターフェース温度 | :200℃ | |
気化室温度 | :200℃ | イオン源温度 | :200℃ |
カラムオーブン温度 | :35℃ (2 分)→(10℃/ 分)→150℃ (5 分) | 測定モード | :Scan |
注入モード | :スプリット (50:1) | 測定範囲 | :m/z10-100 |
制御モード | :圧力(100 kPa) | イベント時間 | :0.3 秒 |
キャリアガス | :ヘリウム | イオン化法 | :EI |
注入量 | :100 µL(ガスタイトシリンジによる注入) | イオン化電圧 | :70 V |
エミッション電流 | :150 µA |
(2) 溶液中のメタノール,ホルムアルデヒド,ギ酸の分析
メタノール,ホルムアルデヒド,ギ酸の混合水溶液を直接GC-MSに導入して測定した例をFig. 2に示しました。この条件では,13Cラベル化体とノンラベル化体は同じ保持時間となります。13Cラベル化した各成分のマススペクトルをFig. 3に示しました。13Cラベル化体ではm/zが1だけシフトしたマススペクトルが得られるので,その分子イオンの有無から同位体の存在を確認することができます。
Fig. 3 マススペクトル
Table 2 メタノール,ホルムアルデヒド,ギ酸の分析条件
GC-MS | :GCMS-QP2010 Ultra | ||
カラム | :Rtx-1®(長さ60 m, 0.32mm I.D., df=5.00 µm, RESTEK P/N 10180) | ||
[GC] | [MS] | ||
気化室温度 | :240℃ | インターフェース温度 | :200℃ |
カラムオーブン温度 | :40℃ (2 分)→(20℃/ 分)→200℃ (5 分) | イオン源温度 | :200℃ |
注入モード | :スプリット (50:1) | 測定モード | :Scan |
制御モード | :線速度 (45 cm/秒) | 測定範囲 | :m/z10-100 |
キャリアガス | :ヘリウム | イベント時間 | :0.3 秒 |
注入量 | :0.5 µL | イオン化法 | :EI |
イオン化電圧 | :70 V | ||
エミッション電流 | :150 µA |
ガスクロマトグラフ質量分析計
GCMS-QP2020 NXは,質量分析計の電子制御プラットフォームの新設計によりクラス最高のスキャン速度を実現しました。また,ラボの分析業務の効率化を図るため,分析サイクルの短縮や迅速なGCメンテナンスを実現する機能を強化しました。 更に,エコロジーモードにより待機時の電力やキャリアガス消費量を低減し,ランニングコスト削減や環境負荷低減に貢献します。