マイクロフォーカスX線CTシステムによるトウモロコシの耐倒伏性研究
トウモロコシ(Zea mays L.)は世界で最も生産量の多い作物であり、その安定供給は世界的な食料安全保障の確保にとって極めて重要です。しかし現在、倒伏(作物が倒れること)はトウモロコシの多収化、安定生産、さらには農作業の機械化を妨げる主要因となっています。なかでも、根系構造(Root System Architecture)はトウモロコシの耐倒伏性を決定する重要な要素です。
最近、華南農業大学・生命科学学院の王海洋教授の研究グループは、オーキシン合成遺伝子が気根の伸長角度を制御する分子メカニズムを解明しました。本成果は、密植に強く、倒伏に耐える新しいトウモロコシ品種の育成に向け、重要な遺伝資源を提供するものです。研究内容は国際的に著名な学術誌『New Phytologist』に掲載され、さらに学術評価プラットフォームF1000(Faculty of 1000)においても注目され、本分野の「必読論文(Must Read)」として高く評価されました。
また、島津企業管理(中国)有限公司(SHIMADZU (CHINA) CO., LTD.)のアプリケーションエンジニア・黄軍飛氏は、本研究におけるトウモロコシ根系のイメージングを担当し、島津製作所の inspeXio™ 7000を用いて、トウモロコシ根系構造の非破壊・in situ・三次元イメージングを実施しました。
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――根倒伏(根が地面から浮き上がり、株が倒れる現象)は、トウモロコシ生産における重大な課題であり、穀物収量や品質の低下に加え、収穫作業のコスト増大を引き起こします。
――本研究では、トウモロコシのオーキシン合成遺伝子であるZmYUC2およびZmYUC4が関与する局所的なオーキシン生合成が、トウモロコシの気根における重力応答に必須であることを明らかにしました。これらの知見は、耐根倒伏性を有するトウモロコシ品種育成に向けた重要な遺伝資源を提供するものです。
※ジャーナル要旨の翻訳
「オーキシンの局所的な生合成がトウモロコシの気根角度と耐倒伏性を制御する」
出典:Zhang Q. et al., Local auxin biosynthesis regulates brace root angle and lodging resistance in maize, New Phytologist
トウモロコシの倒伏とは
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トウモロコシの倒伏とは、風や雨などの外力によって根や茎が曲がる、倒れる、あるいは折れる現象を指し、主に「茎倒伏」と「根倒伏」の2種類に分類されます。
茎倒伏は主に生育後期に発生し、穂より下の節間が湾曲したり、折損したりすることで生じます。
これに対し、根倒伏は生育のどの段階でも発生し得るもので、根系が地上部を十分に支持できなくなることで起こります。倒伏が発生すると、光合成効率の著しい低下、光合成産物の転流阻害、子実(穀粒)品質の低下に加え、収穫作業の負担増およびコストの上昇など、さまざまな悪影響が生じます。
出典:王夏青,宋伟,张如养,等. 玉米茎秆抗倒伏遗传的研究进展[J]. 中国农业科学, 2021, 54(11): 2261-2272.
研究成果の概要
根系の分類
根系は、植物が地下の水分や養分を吸収するための主要な器官であると同時に、トウモロコシの地上部を固定し支えるための重要な構造でもあります。トウモロコシの根系は大きく「胚根系(Embryonic Root System)」と「胚後根系(Post-embryonic Root System)」の2つに分類されます。
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胚根系は、1本の初生根(PR)と複数の種子根(SR)から構成され、そのバイオマスはV3期(葉が3枚展開した段階)で最大に達します。幼苗期においては、植物体の固定および地下資源の獲得を担う主要な根系です。
一方、胚後根系は、主に茎の各節から形成される節根と、胚根系および節根から派生する側根(LR)から構成されます。節根はさらに、地中の茎節から形成される冠根(CR)と、地上の茎節から形成される気根(BR)に分類されます。トウモロコシではV6期以降、節根(CRおよびBR)が胚根系に代わって主要な根系となり、植物体の支持と養分吸収を担う中心的な器官となります。
特に気根(BR)は、地表に向かって伸びることで「地面を掴む」円錐状の構造を形成し、植物体を直立させるうえで重要な役割を果たします。一般に、6~7節から形成される2層のBRは節根全体の約50%のバイオマスを占めることがあり、トウモロコシにおける最も重要な機能的根系のひとつと位置づけられます。
出典:Hochholdinger F. The maize root system: morphology, anatomy, and genetics[J]. Handbook of maize: Its biology, 2009: 145-160.
従来手法の課題
従来の植物根系研究で広く用いられてきた水耕、砂耕、紙培地などの手法は、根系の三次元構造を可視化できないうえ、土壌中での実際の生育状態を反映できないという課題があります。一方、土壌で生育した植物の根系を掘り取る手法では、根系の完全性が損なわれることは避けられず、さらに洗浄の過程でも根の三次元構造が破壊されてしまいます。
このような背景から、非破壊・in situ・三次元での根系構造観察を可能にする、リアルタイムの植物根系生体計測技術の開発が極めて重要 となっています。
マイクロフォーカスX線CTの有効性
図1は、土壌中でV6期(6枚の葉が完全に展開した段階)まで生育させたトウモロコシ試料について、根系をマイクロフォーカスX線CTで再構築した画像を示しています。
Zmyuc4単一遺伝子変異体およびZmyuc2/4二重遺伝子変異体では、気根(BR)の角度が野生型(WT)よりも明らかに大きくなることが確認されました。一方、地下根系の本数や角度にはWTとの有意な差は見られず、Zmyuc2変異体においても根系の角度・本数ともにWTと比較して有意差は認められませんでした。
これらの結果は、マイクロフォーカスX線CT技術を用いることで植物根系を損傷することなく、トウモロコシの根系構造をin situかつ三次元的に可視化できることを示しています。
図1 マイクロフォーカスX線CTによるトウモロコシ根系構造の評価
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図2 トウモロコシ根系構造のアニメーション
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inspeXio 7000は、島津製作所が自社開発したマイクロフォーカスX線発生装置と、大型・高分解能フラットパネル検出器(FPD)を搭載した、高性能マイクロフォーカスX線CTシステムです。
本装置は、大学や研究機関における材料科学・生物学研究から、産業界で開発が進む複合材料(GFRP、CFRTP)、さらには大型アルミニウム合金ダイカスト製品などに至るまで、多様なサンプルの研究・開発・検査用途に幅広く対応できる柔軟性と性能を備えています。
専門家の声 華南農業大学 王海洋教授
本論文の責任著者(コレスポンディング・オーサー)である華南農業大学の王海洋教授は、次のように述べています。
「根系構造(Root System Architecture)は、作物の耐乾燥性や養分利用効率に影響を与えるだけでなく、耐倒伏性を決定する重要な要因の一つです。しかし、根系構造のフェノタイピングが困難であることから、作物根系の遺伝的基盤の解明や重要な制御遺伝子の探索は長年停滞し、作物改良の進展を大きく妨げてきました。
本研究では、島津製作所の inspeXio 7000を用いて、土壌中におけるトウモロコシ根系の三次元可視化と再構築を実施しました。この技術により、植物根系を非破壊・in situ・三次元で観察・解析することが可能となり、従来の根系フェノタイピング手法に存在した制約を克服することができました。
この成果は、根系観察における長年の課題の解決に寄与するとともに、作物根系構造の遺伝的制御基盤の研究を大幅に加速させ、将来的には作物根系の遺伝的改良に向けた有効な遺伝資源および技術的サポートを提供するものとなるでしょう。」
