GCMS分析の基礎

3.5. 真空系

質量分析計は真空ハウジングに収められます。真空系の基本的な説明をここでは行います。

 
3.5.1. 真空系概観
3.5.2. なぜMSでは高真空が必要なのか?
3.5.3. ターボ分子ポンプ
3.5.4. シングル排気系
3.5.5. 真空度を決めている要素は何か
3.5.6. 差動排気系
3.5.7. シングル排気系と差動排気系
3.5.8. デュアルインレットターボ分子ポンプ
3.5.9. 排気容量とカラム

3.5.1. 真空系概観

 質量分析計の内部をイオンが障害なく移動するには真空が必要で,真空環境を準備するのが真空系です。四重極質量分析計の真空系,普通,主ポンプと補助ポンプの2段構成になっています。主ポンプは,空気やキャリアガスを真空引きし,真空容器内部の真空を作り,維持します。補助ポンプは,主ポンプからの排気を引くことで,主ポンプが正常にポンプ動作する環境を作っています。

3.5.2. なぜMSでは高真空が必要なのか?

 イオン源で作られたイオンは検出器の方向に走ります。その途中でイオンが,キャリアガス(He)や残留ガス(空気や水)等の様々な分子と衝突し,イオン軌道が曲げられたり,イオンが消滅したりすると,検出器にイオンは到達することができません。真空度が低いとこの衝突は,イオンが飛行を開始してから短時間でおこります。イオンが衝突せずに自由に飛行できる距離の平均を「平均自由行程」といいます。高真空では,平均自由行程がイオン源‐検出器間距離より長くなり,イオンは問題なく検出器に到達することができます。QPMSでは普通10-3~10-4Paで動作されます。これで平均自由行程は,5~10mになります。

なぜMSでは高真空が必要なのか? (wmv形式・2.0MB)

3.5.3. ターボ分子ポンプ

 ターボ分子ポンプは,クリーンな真空を得るのに最適な真空ポンプで,質量分析計の真空ポンプとしては最適なポンプです。ターボ分子ポンプには高速で回転する羽(例えば60,000RPM)が付いていて,この羽によりガス分子をたたき落とすことにより,真空容器内の分子を外部に引き出し,真空をつくります。

3.5.4. シングル排気系

 真空度は主に,GCからMSに流れ込むキャリアガスの流量と真空ポンプの排気容量により決まります。真空容器内に現れるガス種としては,もちろん,キャリアガスが圧倒的に多いのですが,それ以外には試料。そして真空容器に残留している付着ガス(水や空気)やコンタミネーションが考えられます。もっとも単純な真空排気系はシングル排気システムです。このシステムでは1つのインレットを持つ主ポンプで真空容器を排気します。平衡状態になった時の真空圧力は,大体,キャリアガスの流入量に比例し,ポンプの排気速度に反比例します。

シングル排気系  (wmv形式・1.2MB)

3.5.5. 真空度を決めている要素は何か

 真空度を決めている要素は次の3つです。

(1)キャリアガスの流量:
  真空度を決めている支配的な要素はキャリアガスの流量です。分析に使用するカラムのサイズや分析の条件によりことなります
(2)真空容器や部品から放出されるガス:
  短時間のレベルではほぼ一定の割合で発生しており,ゆっくり下がってゆきます。この寄与が小さくなるまでには非常に時間がかかります。
(3)ポンプの性能としての限界

 四重極質量分析計の場合,ロッドや検出器の近傍では10-3から10-4Pa以下の真空度が必要です。

真空度を決めている要素は何か (wmv形式・360KB)

3.5.6. 差動排気系

 シングル排気系では,例えば,キャリアガスを5倍に増やし,同じ真空度を保つには,5倍大きな排気容量の主ポンプが必要になります。しかし,差動排気系という真空系では,通常のポンプを1つ追加するだけで,イオン透過性が必要なロッドや検出器近傍の真空度を高く保つことができます。このシステムでは真空容器が,イオン通過用の小さな穴の開いた壁で仕切られおり,片方の部屋にはイオン源が,もう一方の部屋には四重極ロッドや検出器が配置されています。カラムから流入したキャリアガスのうち,ロッドや検出器のおかれた分析室に流入するのは,小さな穴を通過したわずかな量のキャリアガスです。そのため,この部屋の真空度は,大きなキャリアガス流量の場合でも,高真空が維持できます。

差動排気系  (wmv形式・1.2MB)

3.5.7. シングル排気系と差動排気系

 差動排気システムをシングル排気システムと比較してみると,質量分析部や検出器近傍の真空度は,5倍から10倍よくなっており,差動排気システムでは,キャリアガスを多く流すことができます。

3.5.8. デュアルインレットターボ分子ポンプ

 差動排気システムでは,複数の引き口を持った一台のターボ分子ポンプを使用することがあります。引き口が2つの時,デュアルインレットターボ分子ポンプといい,図のような構造をしています。ポンプ1台で差動排気システムが実現できるので,2台の差動排気システムより,シンプルで故障リスクが低減できます。

3.5.9. 排気容量とカラム

 カラムのサイズ(内径,長さ)は,真空度に影響を与えます。内径の大きいカラムを使用するとキャリアガス流量が増え,より強力な真空排気系が必要になります。下の表は,真空系から見たときの,真空排気系の種類と適用できるカラムの大体のサイズを示したものです。

排気速度(主ポンプ) キャリアガス最大許容流量 接続可能最大カラム内径(L=30m)
60 L/sec クラス(シングル排気) 1-2 mL/min 0.25 mm
200 L/sec クラス(シングル排気) 2-4 mL/min 0.32 mm
180+180 L/sec クラス(作動排気) 10-15 mL/min 0.53 mm
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