3.1. イオン源
GC部でクロマト分離された試料分子は質量分析計に入ります。試料が最初に導かれる部分がイオン源で,ここで分子はイオン化されます。ここではイオン源の構造と機能について説明します。
3.1.1. イオン源概観
質量分析計は,質量に関する情報を電磁気的に分析する装置です。そのためには試料分子をイオン化し,電荷を持った状態にする必要があります。GC部からの溶出試料は先ずイオン源に流れ込み,イオン化されます。イオン化には様々な方法があります。

3.1.2. イオン源の構造
イオン源の構造について,最もよく使われるEIイオン源を例に説明します。GCからの試料は電気的に中性な分子です。この中性分子は,熱せられたフィラメントから放出された電子でイオン化されます。生成されたイオンは,正の電圧が印加された押し出し電極により,イオン源から押し出されてゆきます。イオン源から出た電子は電子レンズで収束され,分析部に導かれます。
3.1.3. イオン化のコントロール

(1)イオン化電圧
EIでは,普通,70 eVのエネルギーを持つ電子でイオン化します。このエネルギーは,フィラメントとイオン源の間の電圧差で決まります。例えば,イオン源を接地(0 V)し,フィラメントに-70 Vを印加すると,フィラメントから出た電子はこの70 Vという電圧差で加速され,70 eVというエネルギーを獲得します。この電圧差を変えれば,イオン化するエネルギーを変えることができます。
(2)エミッション電流
一般に,単位時間当たりに生成されるイオンの数は,フィラメントからの電子電流,つまり,エミッション電流が増えると増加します。また,この電流が変化すると発生するイオンの量も変化し,不安定要因の一つになります。それを避けるため,このエミッション電流は常にモニターされ,一定になるよう装置的な工夫がされています。
(3)イオン源温度
イオン源は,汚染防止のため,普通,200 ℃近傍に加熱されます。この温度が低すぎると,イオン源が汚れやすくなったり,試料が吸着しやすくなったりします。一方,高すぎると試料が分解される可能性がでてきます。
3.1.4. 磁石の役割
イオン源には磁石が入れられることがあります。左の動画は,磁石の無い時のイオン源断面図です。フィラメントから発生した電子は広がる傾向があります。一方,磁場が存在すると右の動画のように,電子は磁束に沿って運動するようになります。つまり,磁石を入れることでイオン源に入る電子を増やし,イオン化の効率を高めることができます。
3.1.5. イオン化法とイオン源
GC/MSでは,主に,EI,PCIおよびNCIの3種類のイオン化法が使われます。各イオン化のイオン源の特徴を示します。
EI | PCI | NCI | |
オープン度 | 開 | ほとんど閉 | 半閉 |
真空度 | <10-2Pa | 10 to 100 Pa | 1 to 10 Pa |
試薬ガス導入 | 不要 | 要 | 要 |
フィラメントコントロール | トラップコントロール | 全電流コントロール* | 全電流コントロール* |
リペラ電圧 | 正 | 正 | 負 |
