3.3.1. スキャンモードとSIMモード

 四重極型のGC/MS分析では,スキャンモードとSIMモードを利用することができます。どちらのモードを用いるかは分析の目的によります。マススペクトルを利用して試料成分を同定する時には,スキャンモードの利用が不可欠です。一方,微量分析の定量に向いているのがSIMモードです。SIMモードではマススペクトルは得られませんが,一般にスキャンモードよりも約1桁高感度です。スキャンモードでピークの成分同定を行い,その化合物にユニークなm/zのイオンを決定し,それからそのイオンをSIM分析で定量するのが一般的な分析の流れです。

3.3.2. スキャンモード

 スキャンモードでは,ロッドに印加するU電圧とV電圧を連続的に変化させ,マススペクトルを測定します。この測定を一定時間ごとに行い,マススペクトルを次々に採取してゆきます。つまり,クロマトグラムの各点でマススペクトルが採取されています。測定されたデータはPCに保存され,解析に利用します。

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3.3.3.トータルイオンクロマトグラム(TIC)

 TIC(Total Ion Chromatogram)は,スキャンモード分析で得られた各マススペクトルにおいて,すべてのm/zの信号を加算して得られるクロマトグラムのことです。TICはどちらかといえばGCのクロマトグラムになぞらえるとわかりやすいかもしれません。TICでは試料成分のみならずバックグラウンド成分も含んでいるので注意する必要があります。

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3.3.4. マスクロマトグラム(MC)

 MC(Mass Cromatogram)はある特定の質量のクロマトグラムで,各マススペクトルの同じm/zのスペクトル強度をつないだものです。図ではm/z=117のマスクロマトグラムを示しています。TICでは同じ保持時間に2つの成分が溶出してくるとピークが重なってしまいますが,MCではm/zを適切に選ぶことで単一成分のピークのみを取り出せることがあります。また,バックグラウンド成分の影響を除去できるケースもあります。

3.3.5. SIMモード

 SIMモードでは質量分析装置は指定された質量のみの測定を行います。SIMで得られる結果はスキャンで得られるマスクロマトグラムと同じように見えますが,測定の方法がまったく異なり,化学的なバックグラウンドがない限り,マスクロマトグラムよりおおよそ一桁位感度がよくなります。

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3.3.6. FASST (Fast Automated Scan/SIM Mode)

 FASST (Fast Automated Scan/SIM Mode)を用いると,スキャンモードとSIMモードを高速にスイッチすることにより,1つの分析の中でこの両方のモードでのデータが一度に採取できます。つまり,1回の分析で高感度なSIMによる定量分析と成分確認のためのスキャン測定が同時に行えることになります。

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