GCMS分析の基礎

2.3. NCI (Negative Chemical Ionization)

2.3.1. NCIの特長
2.3.2. NCI マススペクトル
2.3.3. NCIのイオン化プロセス
2.3.4. 分子イオンピークとフラグメンテーション
2.3.5. 負イオン生成プロセス
2.3.6. 有用なアプリケーション分野

2.3.1. NCIの特長

 一般に,イオン源では正イオンと負イオンの両方が作られますが,NCIによる分析では,そのうちの負イオンだけを電気的に引き出して測定します。負イオンは主に熱電子の捕獲(または付着)により生成されます。NCIはハロゲン化合物のような電子親和性の大きな化合物を高感度かつ選択的に分析することができます。

 NCI には次のような特長があります。

(1) NCI はフラグメンテーションの少ないソフトなイオン化です
NCI は,PCI同様,ソフトなイオン化のため,NCIスペクトルは比較的単純です。
(2) NCI は電子親和性をもつ化合物に対し,選択性が高くまた高感度です
NCI は電子親和性を持つ化合物に対し選択性が高く,また,高感度です。NCIではすべての化合物がイオン化できるわけではありません。たとえば,炭化水素化合物はイオン化できません。このため,NCIは選択性の高いイオン化法といえます。このイオン化法はECDと同じような選択性を持ちます。
(3) メタン,イソブタンやアンモニアの試薬ガスを使用します
試薬ガスとしてはメタン,イソブタン,アンモニアなどを使用します。このガスがフィラメント電子の速度を熱エネルギー程度まで低下させ,試料分子による電子捕獲が起きやいようにします。
(4) 半閉鎖型のイオン源を使用します
半閉鎖型のイオン源を使用します。イオン源内の圧力は1 から 10 Pa程度です。

2.3.2. NCI マススペクトル

 NCIでは熱電子が化合物に捕獲され負イオンが生成されますが,その熱電子のエネルギーは試料分子を多くの細かいフラグメントイオンに分裂させるほど高くはありません。そのため,NCIはEIのような複雑なスペクトルパターンを生じません。
 この図は,りん系農薬のひとつであるEPNのEIとNCIのスペクトルを比較したものです。

2.3.3. NCIのイオン化プロセス

 NCIの主要なイオン化プロセスは2つあります。1つは共鳴電子捕獲で分子イオンを生成します。もう1つは解離電子捕獲でフラグメントイオンを生成します。
 フィラメントからの電子は試薬ガスとの衝突や試薬ガスのイオン化によりエネルギーを失い,熱電子になります。ほぼ0eVのエネルギーの電子は試料分子に捕獲され分子イオンが生成されます。電子が分子を壊すことができるくらいのエネルギーを持っていると,フラグメンテーションが起きます。

2.3.4. 分子イオンピークとフラグメンテーション

 NCIスペクトルは一般に単純なスペクトルパターンを示します。この図は,分子量291のパラチオンのスペクトルです。 m/z169 のピークとm/z154 のピークはフラグメントイオンです。

2.3.5. 負イオン生成プロセス

 NCIでは,主に,熱電子の捕獲過程によりイオンが生成されます。ここでは,様々な負イオン生成プロセスをまとめています。

共鳴電子捕獲

運動エネルギーが0-2 eVの電子は分子にフラグメンテーションを引きおこさず,直接,捕獲されます。このプロセスでは分子イオン [M]-が生成されます。

M + e-→ [M]-

解離電子捕獲

運動エネルギーが0-15 eV の電子がi捕獲され電子の過剰なエネルギーによりフラグメントイオン [M-A]-が生成されます。

M + e-→ [M-A]-+ A

イオン対生成

10eVより大きな運動エネルギーの電子の衝突により分子が開裂し正負のイオン対が生成されます。

M + e-→ [M-B]+ B++ e-

2.3.6. 有用なアプリケーション分野

 NCI は電子を捕獲しやすい物質,例えば,塩素系農薬,有機リン系農薬,PCBのような塩素系の毒物,ステロイド,ドラッグの分析などに適しています。

環境分野
・塩素系農薬
・有機リン系農薬
・PCBのような塩素系毒物

法医学分野
・ステロイド
・ドラッグ

Top of This Page