GCMS分析の基礎

5.1GC-MS/MS装置とその応用

5.1.1. GC-MS/MS装置(Triple Q type)について
5.1.2. なぜ GC/MS/MS?
5.1.3. Triple Quad型 MS/MSの基本構造
5.1.4. QPロッドの動作モードと衝突エネルギー
5.1.5. GC-MS/MSにおける3本のQPの動作モード
5.1.6. CID (衝突誘起解離)
5.1.7. MRMモード

5.1.1. GC-MS/MS 装置 (Triple Q type)について

 GC-MS/MS装置には様々な種類のものがありますが,一番,ポピュラーなのは四重極ロッドを並べたトリプル四重極型です。トリプル四重極型のMS/MSは,1978年にミシガン州立大学のYostとEnkeという二人の研究者により提唱されました。

 島津の最初のGC-MS/MS装置は,2012年にリリースしたGCMS-TQ8030です。その2年後,三つの”Smart”を特長としたGCMS-TQ8040に進化しました。そして,2016年にはGC-MS/MS装置の特長である高感度分析をさらに追及したGCMS-TQ8050をリリースしました。

5.1.2. なぜ GC/MS/MS?

■定量におけるGC/MSの利点
 通常のGC/MS分析でSIMモードやマスクロマトグラムを用いると,複数成分が重なったピークであっても個別に定量できる可能性がある。


■複雑なマトリクスを含む試料の定量分析

 SIM分析でも複数成分が重なってしまうときはどうするか? → GC/MS/MS

  クロマト分析の主目的の1つは,定量です。 最近のGC-MS装置では,SIMモードを用いると,サブピコグラムの定量が可能になっています。ところが,実サンプル,特にマトリクスが多い試料では,目的化合物と同じ保持時間のところに夾雑物が現れ,さらに悪いことに目的化合物と同じm/zを持つということがあります。このような場合,その夾雑物の存在により,目的化合物の最小感度は頭打ちになってしまいます。

 MS/MSの特長は,分子を壊すところです。GC-MS/MSでは,目的化合物と夾雑物のイオンを壊し,イオンを選り分けることで,より高感度な分析が可能になります。

5.1.3. Triple Quad型 MS/MSの基本構造

■Triple Quad型MS/MS特有の構造

1. 2本のQPロッドと1本のイオンガイド(QPまたはmultipole)

2. CID(衝突誘起解離:Collision Induced Dissociation)

 

 トリプル四重極タイプのGC-MS/MS装置のGC部,イオン化部および検出部は普通のGC-MSと同じですが,質量分離部の構造が複雑になっています。

 普通のGC-MSは,QPロッドが一つだけですが,トリプルタイプでは,その名が示す通り,三つのステージに分かれており3本のロッドが使用されます。質量を分離する機能をもっているのは,1段目と3段目で,2段目は効率よくイオンを運ぶイオンガイドの役目を果たしています。

 この2段目が,「イオンを壊す」役割を果たします。このイオンを壊す過程をCID(衝突誘起解離:Collision Induced Dissociation)と呼んでいます。2段目のロッドの所に衝突を起こすためのガス(CIDガスまたは衝突ガス)を導入できる構造になっており,試料成分のイオンはこのガスと衝突し,CIDが起きます。

5.1.4. QPロッドの動作モードと衝突エネルギー

動作モード

衝突エネルギー

 MS/MSの全体の動きを説明する前に,基本要素であるQPの基本的な動作について,まとめておきます。

 GC-MS/MSでは,普通のGC-MSで使われるスキャンモードとSIMモード以外に,RF Onlyモードが使われます。RF Onlyモードでは,直流電圧を印加せず,交流電圧(RF電圧)のみを印加させます。特定の質量を選択することはできませんが,すべての質量のイオンが四方八方に広がってしまうのを抑え,入口から出口まで効率よくイオンを運ぶ効果があります。この3つのモードを組み合わせて,MS/MSの様々な動作が可能になります。

 MS/MSの動作でもう一つ重要なのは,どのくらいの勢いでイオンとCIDガスを衝突させるかというパラメータです。このパラメータを衝突エネルギーと呼んでいます。これを決めているのがイオンガイドのオフセット電圧と呼ばれるもので,値が大きいほど衝突するイオンの速度が増し,衝撃力が強まります。

5.1.5. GC-MS/MSにおける3本のQPの動作モード

 GC-MS/MSの第1段と第3段は質量分離を行う可能性があるため,スキャン・SIMのモードが利用できます。また,すべてのイオンを通すという選択肢(RF onlyモード)も必要です。従って,3つのモードのいずれもが適用できます。

 第2段では質量分離を行わず,効率よくイオンを通すことが主目的になります。そのため,すべてのイオンを通すRF onlyモードのみが必要です。また,イオンを壊すプロセスはここで行われますので,衝突エネルギーの設定をします。

 簡単なモードとして,第1段と第2段のQPをRF onlyモードにして全てのイオンを通過させ,第3段のQPをスキャンモードで運転させると,普通のシングルGC-MSのスキャンモードと同等になります。

 

5.1.6. CID (衝突誘起解離)

 イオンがある一定のエネルギー以上でCIDガスと衝突すると,イオンの解離 (衝突誘起解離 :CID ) が起きます。衝突前のイオンをプリカーサーイオン,また,衝突解離により生成されたイオンをプロダクトイオンと呼びます。また,解離によりプロダクトイオンが作られる時には,片割れの中性粒子もできます。

 この解離の状態を決めているのが,衝突エネルギー,衝突ガスの圧力,ガスの種類などです。一般的に,衝突の最適な条件は化合物により異なります。GCによりクロマト分離された溶出成分は時間とともに刻々と変化しますのでそれに応じて瞬時に衝突の状態を変える必要があります。衝突エネルギーは電圧を変えることで瞬時に変更できるため,ユーザにとって重要なパラメータになります。

 CIDガスには,効率的にイオンを壊すために,一般的に安定で壊れにくい希ガスが使用され,特にアルゴンがよく使われます。

 

5.1.7. MRMモード

 GC-MS/MS分析で一番多く使われるモードがMRM(Multiple Reaction Monitoring)です。

 このモードは,Q1においてある質量のプリーカーサーイオンを選択し,そのイオンを衝突解離させ,Q3において特定の質量のプロダクトイオンをモニターするモードです。Q1とQ3で設定するm/z対により指定される特定のパス(トランジション)をモニターすることで,夾雑物の少ないクロマトグラムが得られ,高感度の定量が可能です。特定のパスのみをモニターするという意味で,通常のGC/MS分析におけるSIMと似ています。

 MRMモードでは,あらかじめ,プリカーサイオンのm/z,プロダクトイオンのm/z,CIDエネルギーのトランジションパラメータを決めておく必要があります。この3つのパラメータは,ターゲット化合物に応じて最適化されます。プリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組み合わせは複数あり,その中から最適な対を選び出すのは,大変な作業です。

 島津では,特定のアプリケーション分野でターゲットとされる可能性の高い化合物の最適なトランジションパラメータをデータベース化したSmart Databaseを提供しており,ユーザのMS/MSメソッド作成の負荷低減を図っています。

なぜMS/MSは高感度か? - MRMとSIM -

SIMの問題点
目的成分のピークが現れる時間に同じm/zを持つ妨害成分がたまたま現れると,目的成分をとりだすことができなくなり,感度低下の原因になります。

MRMにすると
同じm/zのイオンであっても,化学構造が違っていれば・・・。

 MRMでは,SIMと比べて夾雑物の少ないクロマトグラムが得られ,高感度な分析が可能になります。

(1)SIMの場合

EIでイオン化すると,試料はフラグメンテーションを起こします。SIMでは,目的化合物のフラグメントイオンの中から夾雑物のフラグメントイオンと重ならないものを選択し,それをモニタリングします。そのため,夾雑物フリーなフラグメントイオンが検出され,きれいなクロマトグラムが得られ,感度もよくなります。

ところが,マトリクスが多い試料では,夾雑物フリーなフラグメントイオンを選べなかったり,たとえ,選んだつもりでも,微量な夾雑物が混じり検出最小感度を悪化させるケースがあります。これらのケースでは,目的成分と同じ保持時間に,同じm/zを持つ妨害成分がたまたま現れ,両者が混じって検出されます。

(2)MRMの場合

Q1での質量分離はSIMと状況的に同じです。目的化合物と夾雑物のフラグメントイオンが同じなので,この2つの成分が混じった状態でQ1は通過してしまいます。ところが,CIDで開裂させ,Q3で目的化合物のm/zとして,夾雑物とは異なるプロダクトイオンを選ぶと,純粋に目的化合物に関連するイオンのみのクロマトグラムが得られます。つまり,MRMでは2重にフィルタリングすることが可能なのです。

 このように,MRMはマトリクスの影響が大きな試料の微量定量分析に力を発揮します。

 例えば,残留農薬では食べ物の中の成分,環境中のPBDEの分析では土壌成分,代謝物では尿成分などが大きなマトリクスとなる可能性があります。こういった場合でも,MRM分析を行うことで精密で高感度な分析が期待できます。

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