4.1.1. GC-MSとは

 GCの検出器にはFID ,FPDなどがありますが,MSもGCの検出器の1つです。MSを検出器としたガスクロマトグラフ装置のことをGC-MSと呼んでいます。GC-MSは,クロマト分離を行う (1)ガスクロマトグラフ(GC),質量分離を行う(2)質量分析計(MS)という分離手法が異なる2つの装置から構成されます。さらに,周辺には(3)データ処理用PCや(4)オートサンプラなどの試料導入装置があります。

 分析したい混合物試料はGCで成分分離され,その各成分は,クロマトグラムと呼ばれるピークの列として出力されます。GC-MSにおけるMSはGCからの出力成分をイオン化し質量分析します。MSはGCの検出器の中でも定性に優れており,定量も可能な検出器です。

4.1.2. GC-MSで測定できる化合物

  1. ガス状の化合物または気化する化合物
    300℃程度以下で気化する(分解しない)化合物
  2. 一般的に有機化合物
    有機金属も可能(例:CH3HGCl)
  3. 分子量は約1000程度まで
    大きい分子量の化合物:高沸点,気化しにくい
  4. 無極性-中極性の吸着しにくい化合物

 GCやGC-MSは気体を分離分析する装置ですが,試料自体は液体や固体のこともあります。液体試料では,GCの入り口で加熱,気化させてから分析します。もちろん,最初から気体状態の試料もありますし,固体から発生した気体成分を測定することもあります。

 GCやGC-MS分析に適した化合物としては,先ず,沸点があまり高くなく,一般には,300℃以下で気化するようなものが対象になります。主に,炭素が主成分の物質である有機物が分析対象になる環境,農薬,石油化学,香料,ポリマー,代謝物などの分野で利用されます。極性的には,無極性~中極性の化合物が対象になります。分子量が大きく沸点の高い化合物や極性の強い化合物の分析は,LCやLC-MSの守備範囲になります。

4.1.3. 多成分試料の分析の流れ

  • 分離
    混合試料を成分に分離する(手法 Chromatography:GC,LC)
  • 定性
    分離された成分が何かを調べる
  • 定量
    分離された成分がどの位あるか(量)を調べる

 GCやGC/MS分析の目的は,混合物の中身は何で,どのくらいの量含まれているのかを明らかにすることです。

 一般的な分析の流れとしては,先ずは試料に溶け込んでいるものを成分(またはよく似た性質をもつグループ)ごとに分離します。次に,分離されたものの成分が何かを調べます。これが定性(同定)です。それから,それぞれの成分がどの位の量,試料に含まれているかを調べます。これが定量です。

 GC-MSでは,ガスクロマトグラフで化学的に分離した後,さらに,それとはまったく異なる性質の質量という物理的な分離を行い,全体として精密な分析を可能にしています。

4.1.4. クロマトグラフの分離

カラム 固定相 )の中を試料を含んだ 移動相 を通すことで成分を分離する

移動相  GC:気体(キャリアガス)  LC:液体

 クロマト分離の主役はカラムです。成分AとBを含む試料を移動相(GCの場合,移動相はキャリアガスとよばれる気体で,Heガスがよく使われます)とともにカラムに注入すると,試料は移動相とともにカラム内を運ばれますが,その移動速度は成分(化合物)によって異なります。そのため,カラムの出口ではそれぞれの成分の到着時間に差が生じ,分離されたピークとして現れます。

 クロマト装置の検出器からの出力をクロマトグラムと呼び,各成分は横軸を時間としたピーク列になります。

4.1.5. クロマトグラフの見方

 クロマト分析の解析対象は,溶出ピークです。

 試料を注入してピークが現れるまでの時間を,保持時間(リテンションタイム)と呼びます。普通は,”分”の単位で表示されます。保持時間は化合物によって異なり,GCの分析では成分が何かを調べる際(成分同定)の決め手になる数値です。

 ピーク面積(またはピーク高さ)は,特定の成分がどのくらいの量,試料に含まれているかを表すことから定量に利用されます。

 GCやGCMSの解析ソフトウェアでは,ピークを自動的に探し出し,その保持時間や面積値などを自動的に算出する機能が付いています。

4.1.6. GCによる定性分析

溶出する時間つまり保持時間(Rt)のみで同定を行う

 質量の情報を使わない普通のGCの検出器で定性を行う場合には,先ず,見つけたい化合物,つまり,目的化合物(ターゲット化合物)をあらかじめ決めておき,このターゲット化合物を溶かした試料を標準試料として分析しておく必要があります。次に,未知試料の分析を行い,そのクロマトグラムと標準試料のクロマトグラムを比較します。つまり,未知試料のピーク群の中から,標準試料のターゲット化合物ピークと同じ保持時間のピークを探し,うまく見つかれば,未知試料のピークが同定できたということになります。

 従って,GCで定性を行う場合には,一般にターゲット化合物以外の成分の定性が行えません。また,化合物によっては,入手できなかったり,高価であったり,通常のラボでは法的に扱えないものもあり,現実的に標準クロマトグラムが作れないというケースがあります。

4.1.7. GC/MSによる定性分析

保持時間とマススペクトルによる同定が可能

 GCMSの定性分析では,マススペクトルがよく利用されます。

 マススペクトルは,化合物の構造を反映し,化合物特有のパターンを示します。実際の成分同定ではマススペクトルが集められたマススペクトルライブラリとGCMSの解析プログラムを用い,測定スペクトルに似たスペクトルをライブラリから化合物候補として探し出します。これをライブラリ検索や類似度(シミラリティ)検索と呼びます。この方法であれば,GCの定性で行った標準試料の作成やその分析を行わなくても,ピーク化合物の推定が可能になります。

 マススペクトルライブラリには,約20万種類の化合物のスペクトルを集めた汎用のものもあれば,農薬や香料といったアプリケーション分野を絞った専門性の高いものもあります。

 もちろん,GCで用いる標準試料を使った定性法や化合物に対する分析者の知識などを併用することで,ライブラリ検索による同定結果の精度を高めることができます。

4.1.8. GC/MSによるピーク分析

GC/MSで定量すると何がいいか?

 クロマト解析ではピークの面積を算出し,その値から試料中の成分濃度を計算します。

 ところが,一本のピークに見えても,実は,複数の成分から構成されていることがあります。図示するケースでは,質量数の情報を持たないGCの結果では,黒いピークが一本見えるだけです。しかし,GC/MSのデータでm/z 121と81のクロマトグラムをそれぞれ描かせると,ピークの位置がずれた2本のピークとなっていることがわかります。m/z 121とm/z 81のピークは別の成分によるもので,各m/zのピークで面積計算を行えば,別の成分として定量することができます。

 GC-MSでは,通常のGCでは重なったピークであっても,m/zの情報をもとに分離できることがよくあります。