6.1.検出器の種類

弊社GCで使用できる検出器は,以下です。
大きく汎用検出器,選択的高感度検出器の2つに分けられます。汎用検出器は幅広い化合物を分析でき,例えば最も一般的なFIDではほとんど全ての有機化合物を分析できます。一方,選択的高感度検出器は,特定の化合物種のみを選択的に,高感度に検出できます。

検出器 検出できる化合物 検出下限
汎用検出器
水素炎イオン化検出器(FID) 有機化合物(ホルムアルデヒド、ギ酸を除く) 0.1 ppm (0.1 ng)
熱伝導度検出器(TCD) キャリアガス以外の全ての化合物 10 ppm (10 ng)
バリア放電イオン化検出器(BID) He,Neを除く全ての化合物 0.05 ppm (0.05 ng)
選択的高感度検出器
電子補足検出器(ECD) 有機ハロゲン化合物
有機金属化合物
0.1 ppb (0.1 pg)
熱イオン化検出器(FTD) 有機窒素化合物
無機,有機リン化合物
1 ppb (1 pg)
0.1 ppb (0.1 pg)
炎光光度検出器(FPD) 無機,有機イオウ化合物
無機,有機リン化合物
有機スズ化合物
10 ppb (10 pg)
化学発光硫黄検出器(SCD) 無機,有機イオウ化合物 1ppb(0.1pg)

*検出下限は目安です。化合物の構造や分析条件により異なります。

6.2. 検出器ガス・メイクアップガス

各検出器には,それぞれの検出原理上,必要なガスがあります。このようなガスを検出器ガスといいます。例えば,水素炎イオン化検出器(FID)では水素の炎を灯すため,水素と空気が必要です。
また,キャピラリカラムの分析では,検出器直前に成分を検出器にすばやく送るための補助ガスの役割をもつ,メイクアップガスが必要な場合があります。メイクアップガスは,検出器内の試料移動を速めてピークの広がりを防いだり,カラム流量の増減による検出器感度への影響を小さくします。

検出器 検出器ガス メイクアップガス(キャピラリ)
FID H2 and Air He or N2
TCD 不要 He or Ar or N2 or H2 ,etc.
BID He なし
ECD 主にN2(型名によって組み合わせが異なる)
FTD H2 and Air He
FPD H2 and Air なし(一部の機種では必要)
SCD H2 and O2 N2
 

6.3. 汎用検出器

6.3.1. 水素炎イオン化検出器(FID:Flame Ionization Detector)

FIDは,GCで最もよく使われる検出器です。
炭素原子(C)を持つもの,すなわち有機化合物ほとんどすべてに感度があり,検出することができます。ただし,カルボニル基やカルボキシル基のようにOが二重結合しているCには感度がありません。(CO,CO2,HCHO,HCOOH,CS2,CCl4など)

【主な応用例】

有機化合物の分析

 

 

FID検出器の概略図

FID検出器は,下方から空気と水素を送り込み,水素炎を作ります。 キャリアガスで運ばれてきた試料中の炭素は,水素炎によって酸化,イオン化反応を引き起こされます。 このイオンをコレクタで静電捕集することで,成分を検出します。

6.3.2. 熱伝導度型検出器(TCD: Thermal Conductivity Detector )

TCDはキャリアガス以外の全ての化合物を検出できます。主に無機ガスやFIDに感度がない成分を検出するために使います。
キャリアガスには主にHeが用いられます。(HeやH2を分析する場合には,N2やArが用いられます。)

【主な応用例】

ガス分析

水・ホルムアルデヒド・ぎ酸等

FIDで検出できない化合物の分析

TCD検出器の概略図

TCDの検出原理です。 キャリアガスと対象成分の熱伝導度の差によるフィラメントの温度変化を読み取り,検出します。

 

A・B間に直流電圧を印加

・キャリアガスのみが一定流量で流れている間

⇒各フィラメントは一定の温度に保たれ,C・D間は一定の電圧を示す

・分析側カラムから成分が溶出

⇒フィラメントの温度変化
⇒抵抗値が変化
C・D間の電圧が変化

 

熱伝導度定数(10-6 cal/s・cm・℃)

成分 熱伝導度
H2 547(非常に高い)
He 408(非常に高い)
エタン  77
O2
76
N2 73
H2O 60
Ar,メタノール 52
メタノール 40
クロロホルム 24

TCDによる分析例

測定対象成分の熱伝導度がキャリアガスより低い場合,フィラメントの温度上昇を読み取ります。一方,測定対象成分の熱伝導度がキャリアガスより高い場合,フィラメントの温度低下を読み取ります。

 

測定対象成分の熱伝導度がキャリアガスより低い場合

 

分析目的により選択

6.3.3. バリア放電イオン化検出器(BID:Barrier discharge Ionization Detector)

BIDは,島津製作所独自の検出器で,He,Ne以外のあらゆる無機・有機化合物を検出できます。 TCDによる無機ガス分析で検出できなかったppmレベルの微量不純物成分の分析も可能です。

【主な応用例】

有機化合物の分析

微量ガスの分析

BID検出器の概略図

BIDの原理を示します。
安定的なHeプラズマを生成し,励起したHeから放出されたエネルギーを用いて化合物をイオン化し,これをコレクタで捕集します。Heから放出されるエネルギーは非常に高く,プラズマに使用するHe,イオン化エネルギーの非常に高いNeを除く化合物はイオン化できるため,原理的にはHe,Ne以外のどんな化合物でも検出可能です。

 

イオン化原理図

カラムから溶出した化合物がHe プラズマからの光エネルギーを受けイオン化

⇒イオンが収集電極により捕集され,ピークとして出力される

 

使用するHe の光エネルギーは,17.7 eV(エレクトロンボルト)と非常に高い

⇒Heよりイオン化エネルギーの高いNeとプラズマガスであるHe以外のあらゆる化合物を高感度に検出可能