多角的な樹脂の劣化評価~劣化原因の特定と劣化による影響の把握~

樹脂は加熱や各種有機溶剤,酸性もしくはアルカリ性溶液などとともに紫外線によっても変性,劣化することがあります。特に屋外で使用される樹脂部品(例えば,自動車外装材)は紫外線に対する耐性が必要です。紫外劣化に耐性を持つ樹脂の開発には,劣化の原因と劣化による影響について理解する必要があり,多角的に評価することで理解が深まります。多角的な劣化評価の例として,ABS 樹脂のペレットに紫外線を照射し,FTIR を用いて赤外スペクトルを測定することで劣化による高分子構造の変化を,ダイナミック超微小硬度計を用いて樹脂表面の硬度を測定することで劣化による樹脂表面の機械特性の変化を評価しました。

アプリケーションニュース

タイトル 概要
FTIRとダイナミック超微小硬度計による紫外線劣化したプラスチックの評価 自動車部品に使われるプラスチック材料の紫外線劣化評価の簡易手法として硬さ試験(ISO/TS 19278)を活用しつつ,FTIRにより劣化による高分子の変化を確認しています。

紫外線照射条件

UV Irradiation:オゾンレス水銀キセノンランプ 300 ~ 450 nm, <45 mW/cm2
Irradiation time:0 min, 15 min, 30 min, 60 min

赤外スペクトル測定条件

紫外線照射時間の増加に伴いO-H 伸縮振動やC=O 伸縮振動による吸収の増加が確認できます。966 cm-1 のピークの減少が確認できます。これはブタジエンに含まれるトランスビニレン基の=C-H 面外変角振動による吸収です。一方,ニトリル基の-C≡N 伸縮振動(2240 cm--1 付近)やスチレンのC=C 伸縮振動(ベンゼン環核振動:1500, 1450 cm-1 付近)のピークに顕著な変化は見られませんでした。これらの結果より,ABS は紫外線による影響でブタジエンの部分から酸化が進行すると考えられます。

硬度測定条件

各試料表面は紫外線照射時間の増加に伴い押込み深さが小さくなっていることから硬くなっていることが確認できます。

赤外スペクトル測定,硬度測定の双方の結果において,紫外線照射時間の増加に伴い特性が変化する傾向が見て取れます。
紫外線により試料表面のブタジエンが酸化劣化したことで,樹脂が本来持っている柔軟性が低下し,ひび割れなどが起こりやすくなっていることを示唆しています。

  1. 熱劣化の場合,加熱劣化ライブラリーを使って効率の良い同定が可能。
  2. プライベートライブラリーに測定データが保存でき,今までの測定結果を用いた同定を実施することで解析能力が向上。
  1. 圧痕の測寸をせずに硬さを測定できるので,くぼみがつきにくい高分子材料の硬さ評価が可能。
  2. 微小な押込み変位で測定できるので,微小試験片,表面層などの微小部の評価が可能。