
GCMS-QP™2020 NX
世界の海に流出したプラスチックごみは計1億5000万トンとされ、さらに少なくとも800万トン/年が新たに流出していると推定されるため、多くの海洋ゴミ回収プロジェクトが追い付かない現状があります。こうした大量のプラスチックごみは既に海の生態系に甚大な影響を与えています。例えば、海洋ごみの影響により、魚類、海鳥、海洋哺乳動物、ウミガメなど約700種もの生物が死傷しており、このうち92 %がポリ袋などのプラスチックごみの誤飲・摂取によります。 プラスチックごみの摂取率は、アオウミガメで32%海鳥の90%と推定されています。ダボス会議で知られる世界経済フォーラムによると、現在、海へ流出している海洋プラスチックごみは、アジア諸国からの発生によるものが全体の82 %を占めるとされており、2050年にはプラスチック生産量はさらに約4倍となり、「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」というショッキングな予測を発表しています6)。また、日本は多くのプラスチックごみを「資源」という位置づけで中国を中心にアジア諸国に輸出してきたため、アジアからの海洋プラスチックごみ流出に何らかの影響を及ぼしてきた可能性もあります。またプラスチックごみは甚大な経済的損失をももたらしています。例えば、アジア太平洋地域でのプラスチックごみによる損失は、観光業年間6.2億ドル、漁業・養殖業では年間3.6億ドルになると推定されています7)。したがって、海洋分解性プラスチックの開発により本問題を解決することとなれば、地球環境問題への貢献に加え、アジア太平洋地域だけでも上記規模の経済的損失低減を見込むことが出来ます。以上の背景から、本問題における日本の責任は甚大でアジアのリーダー国である役割も大きいため、本国からのクリーンアースプロジェクトは急務です。その根本解決は海洋分解性プラスチックを流通させることにあります。反面、分解性であるが故に使用時の劣化スピードの速さがその実用化を妨げています。このトレードオフを打ち破るプラスチックは「使用時は十分な耐久性を持つ一方、海洋環境中に晒されることで分解性のスイッチが入るプラスチック」です。 そこで筆者らは、全8機関にわたる大学および公的機関の専門家とチームを組み海洋環境における外部刺激として海表面環境の強い太陽光照射と海中・海底における暗環境の両方に注目し、「光」をスイッチとして加水分解の開始する生分解性プラスチックの開発を目指して研究を進めることとなりました。このアイデアは内閣府およびNEDO主導の「ムーンショット型研究開発事業/2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」で認められ、昨年8月末より「光スイッチ型海洋分解性の可食プラスチックの開発研究」というタイトルで本格的に進められています。本稿では、このプロジェクトのシーズとなる光誘起加水分解性に関して言及し、光照射により脱離する成分を世界最高レベルの感度を有するガスクロマトグラフ質量分析計GCMS-QP™2020 NXにより評価した結果をまとめて報告します。
2021.10.06
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