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はじめに

カドミウムは,主に硫化カドミウムとして産出されますが,工業分野では,硫化亜鉛鉱石から亜鉛を取り出す過程での副産物として多く得られます。亜鉛鉱石には,通常,亜鉛の0.01%程度のカドミウムが含まれています。カドミウムは,その融点の低さからハンダの材料として用いられたり,ニッカド電池の電極やベアリング材料,亜鉛メッキよりもサビ止め効果に優れたメッキ,高価なハフニウムに代わる軽水炉の中性子制御棒の合金成分等,広い分野で利用されています。 一方,カドミウムは有害金属として古くから知られています。カドミウムは,人体に必須な元素である亜鉛と化学的性質が似ているため,体内に取り込まれやすく,まず,肝臓に蓄積され,その後,腎臓に輸送されます。体内に入ったカドミウムの約三分の一は腎臓に,約六分の一は肝臓に蓄積されると言われています。体内では,硫黄を含む蛋白質のメタロチオネインが,カドミウムと結合し,その毒性を抑えています。メタロチオネインの半減期は数日ですが,その分解時に遊離したカドミウムは,新たに合成されるメタロチオネインとの結合を繰り返します。この過程で遊離したカドミウムは毒性を有し,腎臓に蓄積される際,チオール基(-SH)を含む蛋白質や酵素と結合し,変性させることで腎障害を引き起こします。その結果,カルシウムとリンの代謝が異常になり,骨からカルシウムが失われ,骨の変形など骨軟化の症状が現われます。メタロチオネインと同様に重金属を無毒化する作用を持つと考えられる物質は,植物からも見出されており,銅や亜鉛,カドミウムなどの重金属に対して耐性のある植物の中には,フィトケラチンと呼ばれる物質を持つものがあります。 昨今,有害金属を規制する動きが活発化する中,例えばRoHS指令※では,2006年7月1日以降,EUで販売される電気・電子製品につき,原則として指定有害物質を非含有とすることを求めています。有害物質には有機ハロゲン化合物(臭化物難燃剤)と金属が指定されていますが,有害金属として水銀,鉛,六価クロムと並んでカドミウムが挙げられています。 カドミウムの分析は,上水や排水等の水質関連や地下水・土壌といった環境関連,食品や医薬品,工業製品等の品質管理など,広い分野で行われています。今回,フレーム法ではニッケル溶液の測定例を,ファーネス法についてはプラスチックの測定例を紹介します。

2021.03.29