MS50周年記念特設サイト - ユーザーインタビュー 2020年6月号

島津MS製品のユーザー様の声を集めました。世界中の皆様からのメッセージをインタビュー形式でご紹介いたします。

新間秀一 准教授

新間 秀一
大阪大学大学院工学研究科生物工学専攻 准教授

主な研究分野
質量分析イメージング技術の開発

1. 島津製作所をお知りになったきっかけを教えてください。

私が島津製作所を知ったきっかけは,2002年に田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞したときになります。その当時,私は素粒子物理学を専攻しており東京大学の小柴昌俊教授もノーベル物理学賞を受賞し,日本から同時に2名がノーベル賞を受賞したという記念すべき年であったと今でも記憶しています。

その1年後,物理学から生物学へ専攻を変えようと決意し,その当時,東京都町田市にあった三菱化学生命科学研究所の瀬藤光利先生のラボに研究生として入室しました。最初は分子生物学の基礎的な実験を行っていましたが,縁があり質量分析を用いた研究を開始することになりました。それと同時に,当時まだ黎明期であった質量分析イメージング(以下,MSI:mass spectrometry imaging)の研究に着手することになり,MSI専用装置を開発するプロジェクトに携わることになりました。国産の装置を開発するために島津製作所の技術者の方々と2004年に発足したJST先端計測に申請することになりました。そこから島津製作所とのコラボレーションが始まりました。

2. ご自身の研究分野をご紹介ください。また,どういった用途で島津製作所の分析装置をご使用いただいていますか?

私の研究分野は,既に述べたとおりMSIになります。MSIは試料より切片を作製しその表面にマトリックスを供給した後,その表面を直接レーザーイオン化し得られたマススペクトルからイオン強度をマッピングする技術になります。2004年の段階では,既存のMALDI-TOFを用いて実験を行っていましたが,より高解像度な画像を微細な領域で得るために顕微鏡と質量分析計(イオントラップ飛行時間型質量分析計)を組み合わせたiMScope TRIOを開発するに至りました。当時,iMScope TRIOのコンセプトは非常に画期的であり,私自身はプロトタイプの評価ならびに試料前処理法の開発に従事していました。現在では完成したiMScope TRIOをヒト試料や動物試料だけではなく,植物試料や食品,バイオフィルムおよび毛髪の分析に応用しています。

3. 島津製作所の装置を採用いただいている理由をお聞かせください。

理由はやはり,自分が開発に携わった装置で世界一を目指したいと考えているからです。現在MSIに関する論文は爆発的に増えています。すなわち様々な装置でMSIが実施できるようになっています。しかし,一つのシステムで光学画像を得てそのままイオン像を構築できる装置はiMScope TRIOが先駆けです。iMScope TRIOは装置オペレーションが非常に直感的にできるため,多くの学生や研究者が特に専門的な知識がなくてもデータが得られる装置であると考えています。

4. ご自身の研究分野における,質量分析技術の動向やトレンドについて教えてください。

MSIの適用範囲は無限大です。日々様々な分野にMSIが応用されています。実際に研究者が試料内で「見たい」と思う分子の分布を可視化できるようになりつつあります。このように可視化ターゲットが決まっている場合のみならず,ノンターゲットで試料中の特徴的な分子分布を統計的な手法を用いて網羅的に抽出することも可能になっています。すなわち高次元データから次元削減を行う統計的手法が適用されています。一般的には線型クラスタリングの一つである主成分分析が多いですが,近年では非線型クラスタリングであるt-SNE(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)やUMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction)を用いた報告もなされています。2004年段階では得られた大量のピークをマニュアルで解析していたことを思えば,非常に大きな進歩です。これらの次元削減は特に病理サンプル(主に癌組織)における解析に大きく貢献しています。この点では,島津製作所の新しい解析ソフトウェアであるIMAGEREVEAL MSに期待しています。

5. 島津製作所や質量分析技術の発展に関して,どのようなことを期待いただいているでしょうか。

MSI分野における期待は,感度の向上と定量性の向上に尽きると思います。もともとMSIはリン脂質くらいしか見えないと思われていましたが,技術の発展(装置および前処理の両方)により,代謝物からタンパク質まで見えるようになってきました。しかし,もっと感度が上がることにより検出可能な分子数が増え,それをノンターゲット分析で解析することにより,これまで気づかなかった発見がもたらされると思います。もちろん,データを解釈するにはその分野を専門とする研究者とのコラボレーションが重要になります。イメージング結果は分析化学者と異分野の研究者をつなぐ最も効果的なマテリアルになると考えています。一方,定量性については多くの報告がなされていますが,未だ混沌とした状況です。ICP-MSのように非常に定量性の高い分析を,レーザーイオン化技術で実現できたならば,さらに強力なツールになると期待しています。

また,「発展」という視点で言えば,iMScope TRIOならびにその後継機がアジアをはじめ世界で使われるようになれば良いと考えています。MSI装置のプロバイダーであるとともに技術のプロバイダーとして島津製作所が世界のリーダーになることを期待しております。

現在私が所属している大阪大学には「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」が開設されております。今後も,この研究所がアジアのメタボロミクス研究およびMSI研究のハブとなるべく,発展に貢献したいと考えております。最後に,大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所において議論をしていただいている,招へい教授の飯田順子先生,招へい准教授の河野慎一先生,および生物工学専攻生物資源工学領域教授福崎英一郎先生にこの場を借りて御礼を申し上げます。

新間秀一 准教授