島津MS製品を開発する技術者に取材したインタビュー記事です。開発にかける熱い想いや未来のMSへの展望についてご紹介いたします。

技術者対談 2050年の質量分析装置

最先端の分析装置を日常品に変えたい

星 大海

星:質量分析計は,今は特殊な人しか使えない最先端の分析装置ですが,極論を言えば,将来は体重計や体温計のような誰でも使える日用品のようなMSを作りたいです。例えば,健康診断のとき,看護師さんの後ろにMSがあり,採血管をそのまま置くだけで,分析結果ではなく診断結果がでてくるようなものです。また,スーパーや家庭にもMSが置いてあって,秤に載せる感覚で食品の鮮度を測るという使い方も考えられますね。MSを使っている感覚がなくなるのは将来の夢です。

初:世の中の健康志向が高まっているので,自分の健康管理や食べ物の安全性を自分で測りたいというニーズも出てくるでしょう。家庭でMSが使えるようになったら確かに便利ですね。

星:あと,バスや電車の運転手の居眠り運転はよく報道されますが,もし乗車前に運転手の汗,呼気や唾液などをMSで測り,その日のコンディションを確認することができるなら,事故防止にもつながります。

井本:汗や唾液をリアルタイム,オンサイトでデータを測定することですね。

阪下:MSを使えば,今の技術よりも正確で,かつ網羅的なデータが得られますので,体調予測のデータベース化にもつながりそうです。

初:データベース化されているのであれば,コンディションが悪い原因を探ることもできるかもしれませんね。

まずは小型化とシンプル化

影山 遼

山口:MSを日常の様々なシーンで使うのは面白いアイディアですね。日常で使うためにどうのように改良していけばいいですか?

井本:「アニメの中のスカウターのような,メガネをかけただけで健康状態が分かるような分析装置を作りたい!」採用面接のとき私はこう話しました。

星:究極の分析装置ですね!そうなるとスポーツ選手の健康状態のコントロールにも使えそうですね。そうなれば,例えば,コーチがかけているメガネにその場で分析結果が入ってきて,選手のコンディションをモニタリングし,練習の強度を決めることができます。また,栄養管理士にデータを転送し,食事メニューの改善を提案することもできます。

井本:30年後そのような技術が実現できる確信はありませんが,その時は恐らくラボでの分析からオンサイト・リアルタイム分析が主流となりますので,まずは装置の軽量化,小型化を実現しないといけません。

影山:例えばワンタッチで交換できるインターフェースが実現できれば,装置の小型化につながりますね。ポケットサイズのMSを宇宙探査機に載せて現地でデータをとって,オンサイトアナリシスも可能となりそうです。いつでも,どこでも使えるMSを作りたいです。

初 雪

初: ソフトなどの機能をもっと簡単に分かっていただくよう,インターフェースの改良もしなければなりませんね。AI技術を使って,前処理から解析までのプロセスをすべてデータベース化して,AIに習わせます。賢い方の話が分かりやすいのと同じで,賢い装置は使い易いはず。ユーザーは分析の要望を入力すれば,すぐに分析の提案が画面上に表示されるようになるといいですね。

影山:例えばノイズを減らしたい場合は,PC画面上でメソッドのパラメーターの提案をしてくれて,操作方法をナビゲートしてくれるなどAI技術が活用されるUIになると分かりやすいですね。

阪下:あと,LCMS,GCMS,DPiMSなど色々なMS装置で共通のインターフェースを使えば,MSがもっと普及していくと思います。

星:より多くの人々にMSを知ってもらうために,まずは装置の小型化とシンプル化は大事ですね。

自動車免許のようにMS免許を取る時代がくる?

阪下 七海

阪下:仮に30年後MSが日用品になったとしましょう。そのとき,誰でも分析はできますが,だれでも結果の解釈はできるのでしょうか?あわせて教育面のインフラも整えないといけませんね。

影山:もしスーパーや家庭などにMSが置いてある時代がくると,お客様が見たいのは別にクロマトデータではなくて,例えば食品が安全であるかどうかという誰でも分かる結果なのだと思います。

星:MSで測った結果を解読するバックグランドの学問領域も,あわせて発展していかないといけないですね。MSを世の中にもっともっと広めるにはどうしたらいいと思いますか?

井本 英志

井本:まずはMSに触れていただく機会をどのように設けるから考えてみませんか。例えば,車の場合は消費者がお金を出して自動車学校に通い,免許を取得して個人で車を購入しています。そのような感覚で,一般の方がMSの操作方法を習得し,免許を取得して個人でMSを購入する時代がやってくるのかもしれません。それを実現するために,MSがより魅力的なものになるような付加価値をつけて,ステータスを高める必要があります。そうするとMS市場も盛り上がり,免許すらいらない時代となり,世の中にMSがもっと普及するのではないでしょうか。

まとめ

技術者対談 2050年の質量分析装置

未来の質量分析装置は,研究の最先端を走るための高度なものと日常生活や家庭でも使えるシンプルなものの二極化がさらに進みそうです。検診センターやスーパー,家庭などでもMSが置いてある時代が近い未来にやってくるでしょう。正確的かつ網羅的な分析データで人々の健康を食品,医療,インフラなど様々な分野で下支えする身近な質量分析計。そのような未来社会を支える装置を作るためには,島津だけの力では実現できません。社外の皆様との連携,共創を通して,MSにさらに付加価値をつけて,世の中に浸透させていくことは我々の使命です。