1.1. LC-MSとは
1.1.1. LC-MSとLC/MS
LC-MSとは、液体クロマトグラフ (Liquid Chromatograph, LC) と質量分析計 (Mass Spectrometer, MS) を組み合わせた複合装置のことを示します。

一方、LC/MSは液体クロマトグラフィー (Liquid Chromatography, LC) と質量分析法 (Mass Spectrometry, MS) を組み合わせた分析手法のことを示します。この手法では、まずLCでカラムを用いた分配により溶液中で各成分が分離されます。LCから溶出した成分はMSでイオン化され、質量と電荷数から分離・検出されます。
LCとMSをハイフンで接続する場合は装置を、スラッシュで接続する場合は手法を意味する場合があり、日本質量分析学会などが提唱しています。
装 置 | 液体クロマトグラフ Liquid Chromatograph |
質量分析計 Mass Spectrometer |
LC-MS |
---|---|---|---|
手 法 | 液体クロマトグラフィー Liquid Chromatography |
質量分析法 Mass Spectrometry |
LC/MS |
LC-MSの分析対象は液体中に溶解している成分です。対象となる液体試料について、どのような化合物が含まれているのか (定性) 、どのくらいの濃度なのか (定量) を分析します。

1.1.2. LCとは
LC装置は、液体を送液するポンプ、液体の脱気を行う脱気装置、試料を自動注入するオートサンプラ、試料の成分を化学的特徴から分離するカラム、カラムを一定の温度に保つカラムオーブン、カラムから溶出した成分を順々に検出していく検出器、各ユニットを制御するシステムコントローラから構成されます。

ポンプで送液される液体を移動相、カラム内に充填されている粒子に化学修飾された官能基を固定相と呼びます。LC装置へ注入された試料は移動相とともにカラムへ送り込まれ、カラムの中を進みながら成分ごとに分離されます。移動相と相互作用が強い成分は早くカラムから溶出しますが (移動速度が早い=保持時間が短い) 、固定相と相互作用が強い成分はゆっくりとカラムから溶出します (移動速度が遅い=保持時間が長い) 。

液体クロマトグラフィー分離イメージ
1.1.3. MSとは
LC装置では、カラムで分離された成分は溶出した順に検出器へ到達し、吸光度や蛍光などで検出されます。一方、LC-MSでは溶出した順にMSへ導入されてイオン化されます。イオンとなった成分は、今度は質量と電荷数の違いにより分離され、検出器に到達すると電気信号に変換されて検出されます。原子や分子を質量ごとに分離して個別に検出することができるため、様々な成分が含まれる混合液中のある特定の化合物の量を調べることが可能です。

1.1.4. LCとMSを組み合わせることのメリット
MSは化合物を質量ごとに分離できる非常に選択性の高い装置ですが、構造が違っても質量が同じ化合物 (異性体) どうしを区別することは困難です。また、多成分が一度にMSへ導入されると、それぞれが干渉し合い目的の情報を得られない場合があります。そこでカラムを用いて分離し、それぞれの成分がイオン化するタイミングをずらすことで個別に定性・定量しやすくなるため、LCとMSは非常に有用な組み合わせとなっています。
コラム「MSの読み方」
LC-MSは「エルシーエムエス」と読みます。「マス」と読みたくなりますが、「mass (質量) 」と区別できなくなります。「MS」は「mass spectrometer/mass spectrometry」を指しますので、「エムエス」と読むのが適切です。