vol.84 NOW 包括的二次元液体クロマトグラフィー(LC × LC)による多成分試料解析

執筆者紹介

vol.84 NOW 包括的二次元液体クロマトグラフィー(LC × LC)による多成分試料解析

野口 貴俊 先生

日産化学工業株式会社
物質科学研究所 物質解析研究部 (ご所属・役職は2012年7月発行時)

はじめに
 近年,製品開発の高度化に伴い,化学品・高分子材料・生体試料・医薬品・農薬など,種々の分野で複雑な多成分試料解析の要求が高まっています。弊社でもライフサイエンス,材料など多くの製品開発において重要な項目となっており,これに詳細かつ迅速に対応するため,私達は包括的二次元液体クロマトグラフィー(LC × LC)をいち早く導入し,多成分試料解析に向けた技術開発を行ってきました。
 LC × LC は,一次元目カラムからの溶出成分をオンラインで全て二次元目カラムに導入し,包括的に試料の二次元分離を行う方法です。その原理などの詳細はLCtalk Vol.83「入門 包括的2 次元LC のはなし」として解説されていますので,ご参照ください。
 本稿では,Nexera(島津製作所製)をベースに構築したLC × LC システムにQ-TOF-MS を接続し,LC × LC-MS/MS として農薬混合物,天然物を解析した事例を紹介します。

LC × LC-MS/MS による農薬混合物の解析事例
 平成18 年5 月に,残留量の基準が設定されていない農薬が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する「ポジティブリスト制度」が施行され,食物中の残留農薬の検出が非常に重要になっています。そこでLC × LC-MS/MS の高分離能と構造解析力を活かし,農薬混合物(90 種)の一斉分析を行いました。
 農薬混合物の測定結果を図1 に示します。LC-MSでは多くのピークが重なっており,それらを完全に分離することや,埋もれた微小ピークを検出することはできませんでした。しかしLC × LC-MS/MS で分析することで,90 成分ほぼ全てを二次元クロマトグラム上で分離できました。さらに,類似構造をグルーピングすることで(二次元クロマトグラム中の白枠内),含有成分の化学的な特徴を視覚的に把握することができ,詳細な構造解析が可能となりました(解析した農薬の一例を二次元クロマトグラム中に示しました)。
 以上より,従来のLC-MS では20 から30 成分ごとに,それぞれ異なる分離条件での分析が必要でしたが,LC × LC-MS/MS を活用することで,農薬混合物90 種の効率的な一斉分析が可能となりました。

図1 農薬混合物(90 種)のLC-MS(左)とLC×LC-MS/MS(右)の分析結果

LC × LC-MS/MS による天然物の解析事例
 天然物は構成成分の多さもさることながら,その何倍もの夾雑成分から目的成分を分離して検出しなければならず,解析の困難な試料の1 つです。今回,私達はLC × LC-MS/MS によりプロポリス抽出物の成分解析に取り組みました。

図2 プロポリス抽出物のLC-MS(左)とLC×LC-MS/MS(右)の分析結果
図3 プロポリス抽出物中の構成成分の解析例

プロポリス抽出物の測定結果を図2 に示します。LC-MS では多量の夾雑物に非常に多くのピーク成分が重なっており,メインの10 成分以外は解析する ことができませんでした。これに対しLC × LC-MS/MS では,高分離能での二次元分離により夾雑成分の影響を除去することで,多数の構成成分を分離検出することができました。
 また二次元クロマトグラムにおいて,類似構造成分のグルーピング,精密質量測定による組成推定をもとに構造解析を行うことで(構成成分の解析の一例を図3 に示しました),プロポリスの構成成分として,多くのフラボノイド類,テルペノイド類を同定することができました。
 以上,LC × LC-MS/MS では,天然物試料でもその構成成分の詳細な構造解析を行うことができました。本手法はそのメリットを活かし,メタボロミクスやプロテオミクスなど生体試料解析への展開も期待できます。

おわりに
 製品開発の高度化に伴い,多成分試料の解析は難易度が増しつつあります。これに対応し製品開発を促進するため,私達はLC × LC の技術開発に取り組んできました。今回ご紹介した事例以外にも材料解析への適用やナノスプレーイオン源と組み合わせた高感度検出法なども研究しています。これらの研究成果を統合し,LC × LC を『製品の「組成・構造」と「機能」の相関関係を解明する新たな解析法』として確立したいと考えています。

謝辞
 LC × LC 技術全般に関し,ご助言いただきました株式会社島津製作所分析計測事業部 吉田達成氏にこの場を借りてお礼申し上げます。本稿の作成にあたり多くの協力をいただいた,弊社,物質科学研究所物質解析研究部 中西将太氏,並びに,共同研究者の皆様に感謝いたします。

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