LC分析の留意点
轟木 堅一郎 先生
静岡県立大学薬学部 准教授 (ご所属・役職は2012年4月発行時)
■近年のLC分析装置,特にLC-MS/MSと超高速LCの発展には目覚しいものがある。適切な前処理さえ施せば,分析屋の看板を掲げなくとも比較的容易に殆どの化合物が短時間で分析できるようになった。また,昔のLCはバラすのも改良するのも比較的容易であったが,部品が精巧化・高機能化した今の装置では,生半可な知識でLC を改造することは,パフォーマンスの低下にしか繋がらない。そんな中で大学の分析系研究室では,5年後,10年後に何をどのようにLC分析しているのだろうか?見かけや体力の衰えとは関係なく,この業界ではまだ将来があると思われている(?)世代の1人である。考えておかねばならない案件であろう。
■最近,私達はフルオラス分離技術を微量生体成分のLC分析に応用する研究を行っている。フルオラスとは「親フッ素性の」という意味の造語であり,C4‐C10程度のパーフルオロアルキル鎖を分離タグ(フルオラスタグ)として付与した化合物は,C6やC8のパーフルオロアルキル鎖で修飾したフルオラスシリカゲルLCカラムや固相抽出カートリッジに選択的に保持される。この性質を利用して,これまでに生体アミンや高極性有機酸を未反応試薬ピークの妨害を受けることなく蛍光誘導体化-LC分析する方法を開発した。また,医薬品や糖鎖などをフルオラスタグ化し,LCで選択的に保持させた後に質量分析する方法論についても報告してきた。この先数年は,フルオラス分離技術をゲノミクス,プロテオミクス,グライコミクスといったオミクス解析ツールとして利用したり,キラル分離やバイオセパレーションなどに応用することで,新たな分析ツールとして提供したいと考えている。それ以降のテーマはどうするか?
■そこで皆さんへのお願いである。島津さんを始めとするLC機器メーカーには,よりハイスペックで,よりユーザーフレンドリー(価格面でも)なLCを作り続けていただきたい。そしてユーザーの方々には,このハイスペックLCをもってしても分析できない事例を私達に(こっそりと?)教えていただきたいのである。ユーザーが「分析できない」原因や要求は,今後,ますます高度化・複雑化するはずであり,未来のテーマのヒントが必ずその中に隠されていると考えるからである。「そんな他人任せな」とツッコミを入れないで,ぜひともお願いしたい。5年後,10年後の私達がこれらの事例をどのように解決するのか?そこから派生してどんな新分野を創り出すのか?まだまだ自信はないが,期待されるような研究者になるべくLC分析研究を続けていきたいと思う。
■最後に事務局の1人として携わっている「新アミノ酸分析研究会」の活動について紹介したい。本研究会は昨年発足し,従来のアミノ酸のみならず合成アミノ酸およびペプチド類,タンパク質製剤等も含めて広く分析対象とし,アミノ酸分析研究に携わる全ての分野の方々に,相互連携の機会や討論の場を提供することで,アミノ酸に関わる先端的学術研究を推進することを目的としている。その第1回学術講演会が12月に島津製作所東京本社イベントホールにて開催された(参加者67名)。第2回学術講演会は,今年秋頃,東京大学本郷キャンパスでの開催を予定している。一般講演も募集するので,多くのご発表とご参加をお願いしたい。また,お知り合いの方,特に機器ユーザーの方に本研究会の活動についてご情宣いただけたら幸いである。今後,本研究会が,分析メーカー,ユーザー,研究者が一体となった皆様にとって有益な情報交換の場になっていくことを期待したい。詳しくは研究会ホームページ(http://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/AAA/)をご覧下さい。