
LC分析の留意点
船田 等 先生
花王株式会社 化学品研究所 主任研究員 (ご所属・役職は2009年4月発行時)
■フランバインダーは,鋳物を製造する際に用いる鋳型に使用されている。砂にフラン樹脂(オリゴマー)とその硬化剤(酸)を混合,重縮合反応させることで砂粒同士が接着結合し,鋳型ができる。フラン樹脂は,主としてフルフリルアルコールとホルムアルデヒド(HCHO)の重縮合によって得られる。ホルムアルデヒドは有毒物質であることもあり,フラン樹脂中のホルムアルデヒドを限りなくゼロにすることが我々の使命だと認識している。一方,低濃度領域(0.1%未満)において,フラン樹脂中のホルムアルデヒド量を分析する一般的な方法は,今まで確立されていなかった。今回,アセチルアセトン法を用いたHPLC により,低濃度領域におけるフラン樹脂中のホルムアルデヒド量の分析が可能となったのでここに報告させていただく。
■ホルムアルデヒドは,酢酸アンモニウム存在下で2分子のアセチルアセトンと反応し,1 分子の3,5-ジアセチル-1,4- ジヒドロルチジンを生成する。この化合物は蛍光性を持ち,蛍光検出器で検出することが可能である。反応式を図1 に,また流路図を図2 に示す。
図1 ホルムアルデヒドの誘導体化
図2 流路図
1.移動相 2.脱気装置 DGU-20A3 3.移動相送液ポンプ LC-20AD 4.オートサンプラ SIL-20A 5.インラインフィルタ 6.プレカラム GRD-ODS 7.ガードカラム SCR(N) 8.分析カラム SCR-101N 9.カラムオーブン CTO-20AC 10.反応液 11.反応液送液ポンプ LC-20AD 12.予熱コイル 13.反応コイル 14.化学反応槽 CRB-6A 15.冷却コイル 16.分光蛍光検出器 RF-10AXL 17.データ処理装置
■配位子交換カラムSCR-101N で分離されたホルムアルデヒドは,反応液と混合後80 ℃に加温されてアセチルアセトンと反応し誘導体化される。分析条件を表1 に示す。標準溶液はホルマリン溶液から純水で調製した。なお,樹脂中に含まれる疎水性夾雑成分をトラップするため,SCR-101N の手前にプレカラムとしてGRD-ODS を接続した。
表1 分析条件 | |
カラム | :Shim-pack SCR-101N(300mm L. × 7.9mm I.D.) |
ガードカラム | :Shim-pack SCR(N)(50mm L. × 4mm I.D.) |
プレカラム | :Shim-pack GRD-ODS(100mm L. × 4.6mm I.D) |
移動相 | :水 |
移動相流量 | :1.0mL/min |
注入量 | :2~40μL |
カラム温度 | :25℃ |
反応液 | :150 g 酢酸アンモニウム,3mL 酢酸,5mL アセチルアセトンを1000 mL の水に溶解 |
反応液流量 | :0.5 mL/min |
予熱コイル | :SUS,0.5mmI.D. × 2m |
反応コイル | :SUS,0.5mm I.D. × 10m |
冷却コイル | :SUS,0.5mm I.D. × 50cm |
反応温度 | :80 ℃ |
検出 | :蛍光検出,励起波長 395 nm,検出波長 545 nm |
■フラン樹脂の分析に際しては,図3に従って樹脂を前処理した。図4にホルムアルデヒドの定量性を,図5 に前処理したフラン樹脂の分析例を示す。
図3 前処理
図4 定量性
>
図5 フラン樹脂の分析例
■低濃度領域におけるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析法として,アセチルアセトン法を用いることで,定量的にホルムアルデヒド量を測定できることがわかった。今後,さらにホルムアルデヒドの少ないフラン樹脂を開発し,当業界の環境改善に貢献していきたい。
■最後に,今回の分析にあたり,数々のご助言を頂いた,島津製作所分析計測事業部応用技術部三上様,渡邊様にこの場を借りて謝辞を表します。