執筆者紹介

vol.69 超高速HPLCに何を求む

阿部慶史郎 先生

サンノーバ株式会社 品質管理部 品質技術室長 (ご所属・役職は2008年7月発行時)

私が初めて使用したHPLCは確かLC-6Aだったかと思うが,当時は一部の装置にしかオートサンプラーがついておらず,手打ちで深夜まで分析をしていたものだ。 それから約20年,今では超高速HPLC(島津さんにちなみ以下UFLCと称す)が一般的に認知され,様々な場面でその有用性が謳われている。

弊社ラボでは,UFLCによる検討を開始してまだ日が浅いが,測定時間の短縮による効果を期待するものの一つとして,分解物測定等におけるメソッド開発があげられる。 通常のHPLCでは,まず仮設定した条件で測定し,得られた結果から条件を変えて再度注入,そこから得られた結果から・・・といったことの繰り返しで最適条件の設定に至る。 得られた結果を検証し,次の策を考え,再注入というプロセスのため,条件を切り替えた後の安定化と測定に要する時間が待ち時間となって生じ,最適条件を得るまでには数日に及ぶことが多かった。 これがUFLCにより,安定化及び測定時間が大幅に短縮し,メソッド開発の検討が1日で可能となる点は非常に有用性が高いと考える。 その他,著しく溶液中での安定性が悪い試料の測定においても同様に測定時間短縮による効果が期待出来る。 (しかし,残念ながらコストメリットを明確に打ち出せるほど,分析メソッド開発,不安定試料の測定の頻度は多くないのが現状である。) また測定時間の短縮による副産物として,移動相として使用する溶媒量を大幅に削減できる。 このことは環境への影響として,今般,重要視すべき事項ではないだろうか。

激化する開発競争に打ち勝つためにも開発業務のスピード半減化に取り組んでいるが,これを実現するためのツールとしてUFLCは今後不可欠となっていくものと考える。 (将来的に究極の目標はPAT&UFLCであろうか。) 従来,試作部門への分析結果のフィードバックは,(HPLCの夜間連続運転で)たいてい翌日であった。 これがUFLCを用いることによって,試作したその日のうちに結果が得られ,次の展開に速やかに結びつき,全体のスピードアップに貢献出来るものと考える。 検討結果の一例を図に示すが,顕著に測定時間の短縮化を図れることが確認された。 (中にはコンベンショナルショートカラムでも十分な測定時間の短縮が図れるものもあった。)

HPLCとUFLCの分析時間の比較

ここで,新たな課題が発生した。 HPLCでは日常的に夜間連続運転で使用し,翌朝には分析結果が得られているという業務サイクルであった。 これがUFLCでは,その日のうちに試験が終了し,その結果,夜間に装置が遊休状態となってしまうという点だ。 その分で更に追加で分析できればよいのだが,UFLCの処理能力に追いつくほど試料の調整のスピードアップは,今のところ困難な状況である。 「超高速」の字のごとく,今までのHPLCと比べて,その差は歴然であるが,分析時間の短縮をいかにコスト面で目に見える形で貢献できるかが最重要課題であり,どの場面で活用するかを明確にしておかなければ,「超高速,すごく早いですね。それで?」ということになりかねない。

最後にメーカーさんにお願いしたいことは,ユーザーのニーズに対し,痒い所まで手が届くソフトの提供である。せっかくハードで高速化が図れても,ソフトの融通がきかないがために,得られた結果を別途計算ソフトで再解析するようなことになっては本末転倒となってしまうからだ。

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